2017年秋期アニメ各1~話雑感。

あまりにも面白い作品がそろい踏みしていたので、ブログ記事にまとめて各作品感想を置いてみることにしました。
以下の作品について触れています。


【新規】

クジラの子らは砂上に歌う
宝石の国

魔法使いの嫁
Just Because!
つうかあ
アイドルマスターSideM
少女終末旅行
Dies irae
血界戦線&BEYOND
このはな綺譚
キノの旅

お酒は夫婦になってから
十二大戦

ネト充のススメ

シンデレラガールズ劇場

□妹さえいればいい

UQ HOLDER!

いぬやしき


【継続2期1話】
ボールルームへようこそ
Fate Apocrypha(アポクリファ)


クジラの子らは砂上に歌う


初監督作『四月は君の嘘』で「アニメで音楽をどう描くか」について(同じノイタミナ枠の『坂道のアポロン』ともまた異なる)野心的な試みに挑み、見事に奏功させ。
※『四月は君の嘘』感想まとめあまりにも優れた内容のみならず商業的にもヒットさせたイシグロキョウヘイ監督が、連載中の現時点でファンタジー/SF/ミステリーの大傑作確定済みの原作をアニメ化した大注目作です。


前期ではプリンセス・プリンシパルに対してそうしたように。

※『プリンセス・プリンシパル』感想まとめ

今期は東京では奇しくも同じ時間の法則枠となったこの作品に毎週、じっくり付き合っていきたいと思います。
毎週のあれやこれやについてはこちらに随時、まとめていく予定です。
クジラの子らは砂上に歌う』感想まとめ


宝石の国

少なくとも今期において、断トツで凄い作品だと個人的には思います。

今期にとどまらず、あまりに美しく、愉しく、面白く。

そして作品的にも技術的にも制作体制等々多方面の諸々において、エポックメイキングなアニメだと思えます。

 

魔法使いの嫁

アニメーションとしてどのように翻案して描くか。

動画(アニメーション)としてどう見せるか。

それを非常に素晴らしく見せてくれる……そして、このアニメを観ていると原作も一層好きになっていく。そんな作品です。


Just Because!

 いっそ凝り過ぎていると思えてしまうくらい、諸々の工夫を端から端まで詰め込んだ佳作だと思います。


つうかあ

 


アイドルマスターSideM

 


少女終末旅行

 


Dies irae

 

 

 

 


血界戦線&BEYOND

 

 

 


このはな綺譚

 

 

 

 

 

 

キノの旅

 

 

 

お酒は夫婦になってから

 

 

 十二大戦

 

 

ネト充のススメ

 

 

 

ボールルームへようこそ

自分用に、いっそ作ってしまった方が便利なので括ってみました。

 



Fate Apocrypha(アポクリファ)

 

 

 

 

 

 

シンデレラガールズ劇場

とてもかわいいです。

 

 

□妹さえいればいい

 

UQ HOLDER!

各所で言われている通り……題名が「UQ HOLDER!魔法先生ネギま!2~」とされ、主題歌ハピマテというのはなんというか、作品としてさすがにアレ過ぎくはないですか?とごく個人的にも。

 

いぬやしき

 

プリンセス・プリンシパルの「女王」の過去と今後、プリンセスとの関係について(6話放送時点)

以降、いろいろ(ごく控えめに言って)強引な仮定やその積み重ね、あやしげな推測の濃度が普段より更に色濃い話です……と一応、断った上で。
プリンセス・プリンシパルの中で女王というキャラクターについて、その今後についても過去(プリンセスとの関係)について、私、気になります!という話(憶測)を少し。

※なお、作品全体についての諸々はこちらのまとめもどうぞ。
プリンセス・プリンシパル』感想等まとめ
https://togetter.com/li/1133020


最初に大まかな流れを書くと。

1:底層の対極としてのロイヤル
2:女王にとってのプリンセス→女王は入れ替わりを知ってはいないか。むしろ最大の共犯者では。
3:予想される女王の犠牲(惨死)
4:プリンセスにとっての女王という人物
5:女王の権力/ノルマンディー公との力関係

といった話となります。



1:底層の対極としてのロイヤル


まず、こちらの6話感想で非常に見事に書かれているように

プリンセス・プリンシパル:第6話『case18 Rouge Morgue』感想(イマワノキワ)
http://lastbreath.hatenablog.com/entry/2017/08/14/193810

6話(おそらく予告の文章からは7話も)作中の下層に生きる人々と社会からの扱われ方が描かれもしていた所。
今後、対極となる上層、王室や貴族達のそれも描かれるのでは……という予想があります。


その際、プリンセス(やかつてのプリンセスたるアンジェ)、ノルマンディー公(、貴族の娘であるベアトリス)に加え、頂点たる女王も重みをもって描かれるのかもしれない、作品全体にも(先程の感想における下層の話のように)大きく意味を持つものとなるのかも…と思えたりもするわけです。
それに、プリンセスが「女王になる」という目標(女王になり、そして自らとアンジェが隔てられず共にいたいと切望するように、人を隔てる「壁」(おそらく即物的なそれに限らない)を崩し望まず隔てられた人々も再び繋げたい)を掲げている所。

◯現女王はどういう人物なのか
◯現女王とプリンセスとの関係
◯王国における女王の権力/ノルマンディー公との力関係

といったあたりはごく自然に重要になるのではとも思えます。


もちろん、これまで描写がごく限られている女王について現時点で言える確たることはごく僅かだとは思えるのですが。
幾つか推測と言うか憶測はできるのかもしれません。


ここでひとつ、特に興味深いのはプリンセスとの関係です。
中でも。「女王は入れ替わりを知っているでは?むしろ最大の共犯者では」と憶測したくなる所があります。


2:女王にとってのプリンセス→女王は入れ替わりを知ってはいないか。むしろ最大の共犯者では。


アンジェとプリンセスの入れ替わりの経緯は今のところ、ごく僅かな回想や会話をもってしか描かれていません。


まず、二人がなんのために入れ替わっていたのか(現時点では)分かりません。
気まぐれだったのか、切実な欲求に押されてのことだったのか、幼心に抱いた強い目的があったのか、それらの複合なのか、等々。
また、シャーロット=かつてのアンジェの立場が「プリンセス」であることは確かな一方、入れ替わったアンジェという少女はどのような生まれと境遇の少女であったのかも大きな(そしてきっと重要な)謎です。
3話アバンでの

「言ったでしょう……あなたの力で私を女王にして欲しいの」
(回想カットを挟み)
「まさか……あの時の約束」

という「約束」も魅力的な謎としてあります。


それでも、3話時点の10年前、彼女たちが7歳ほどの時に入れ替わっている時に革命が起き、他の多くの人々と同じく二人が唐突に分かたれたのだろうとは概ね推測できます。
ここで、そのわずか7歳の少女たちが行った入れ替わりが、彼女たちも含め予想し得ない分断によって継続され、そのまま10年に渡って問題とされることなく無事に続いている……。
改めて考えてみるなら、たとえプリンセスが権力構造の中で「空気姫」だとしたところで残されたプリンセスがただ一人で成し遂げるのはあまりに難しかったのではなかったかと思えないでしょうか。
そこで個人的に「そこには強力な協力者、共犯者がいたりはしなかったのだろうか?」といった仮定を弄びたくなったりしてしまうわけです。


以下、もう少し詳しく書きます。


革命、そして壁はこれまで繰り返し描写されてきたように唐突に人々を壁のそれぞれの向こう側、The Other Side of the Wallに分断してしまったものです。
2話でプリンセス(に化けたアンジェ)が語ってみせたように、突然幼なじみで長年連れ添って来た妻と離れ離れとされ会えず、致死の病を抱え再会を望んでいたモーガン委員。
6話ドロシーが語った、家出をした時に唐突に革命に遭い、そのまま父と分かたれた過去。
そして1話。

「それでも一緒に亡命させてあげられないかしら。
だって、離れ離れは…寂しいじゃない?」



(なお、キャプチャ部分のアンジェの心情も勿論、「薬で黙らせて、エリックだけ運び出す」とアンジェが語った時のプリンセスの表情の変化、そしてその語られざる内面(現時点では特に6話アンジェと二人きりの時に話すプリンセスの夢・切望・野望・目標が参照先になるだろう)はとてもとても興味深いところです)。


更に、3話アバン冒頭(文字通り最初の台詞)。

「驚いたわ。あなたがスパイなんて」
「他に壁を越える方法がなかった」


他の人々と同じく二人の少女もまた、あまりにも突然にこうして厳しく分かたれるなどと、想像も想定もしていなかった筈です。
それから10年以上に渡り互いに分かたれた中で入れ替わりを続ける覚悟も、そのための準備も(とりわけ7歳の少女たちに)出来得なかったのではと思えます。


かつてのシャーロット、アンジェはただひたすらかつてのアンジェ、プリンセスとの再会を願った。
ただただひたすらに一途に、そのためにスパイとなった。
きっとOPで落下するプリンセスに向かって一閃、その思いをそのままに示すかのごとく激しくまっしぐらに飛翔していく姿のように。
そこにはきっと、とても魅力的な心の動きと物語が(仮に詳しく描かれることがなくても)あったのでしょう。


そして、一方のプリンセス。彼女の方はなぜ、そもそも<プリンセスであり続ける>ことを選んだのか。
これも実は同じくらいに、あるいはそれ以上に魅力的な謎であり物語かと思えます。
叶えたい目標(「あの時の約束」)があったからか。入れ替わりが露見した時の、本物のプリンセスたるアンジェの身を案じたからか。
いずれにせよ、急転する事態にただ流されるだけではこうはなっていないでしょうし、なりえない状況だったかと個人的には強く思えます。
そして、きっとそうした時、ただ流されるだけのキャラクターではない、まさに正反対のキャラクターなのだろうとも。


例えば4話、あの勁烈な意志に満ち満ちた欄干の場面を(できれば前後の連投も)。

例えば5話、独りで乗り込んでくるや否や瞬く間に堀河公の護衛を撫で切りにした100人斬りの怪物が、ちせと激しく切り合う脇をあえて敢然と駆け抜けた姿を。


これまでのごく限られた描写を思い起こすだけでも、そう想像せずにはいられないところです。


そして更に。
一方のアンジェが絶対に諦められるわけもなく一刻も早く叶えたい切望……プリンセスとの再会と二人で共に暮す未来のため、単に一人の少女ではどうにもならないからスパイとなりCボールを得たように(おまけに再会の時にはCボールなんて超貴重な秘密兵器まで与えている組織を欺き切れると判断した仕込みも、逃走ルートも、落ち延び先の家まで用意していたように)。そこまで方向性も成果もなにやらぶっ飛んだことをやってのけてきたように。
もう一方のプリンセスもそれに匹敵するあるいは(いつもプリンセスがアンジェに対して……とりわけ二人だけで接する時は優位であるように)なお上回ることを選び、成し遂げてきてたのではないかな、と。
※まったく隠す気もないのでいい加減丸わかりかもしれませんが、自分はあからさまにプリンセス贔屓ですので、そこは割り引いて読んでもらえるといいかもしれません。


例えば、アンジェが持つ貴重で強力なCボール(4話で描かれたように世界の動向すら左右する力の象徴でもある)に匹敵する切り札も持っていたりしないのかな、と。
例えば、国の(あとで触れるように権力構造的にはやや怪しいのですが少なくともある程度の力を伴った権威、象徴としては)頂点である、女王との共犯関係ですとか。

あるいは、こういっても良くて。
それほどまでにして自らの元に再び現れたアンジェの懇願を拒んででも、プリンセスがどうしても成し遂げたい目標。

単に一人の少女では勿論、力のない「空気姫」ではどうにもならないことに対して、(約束されていたわけでもない)10年もの年月を経たアンジェとの再会(しかも彼女がスパイになるだのCボールを携えているだのなんてことは想像もしていなかった)の前まではたしてプリンセスは何をしてきていたのかな、と。


ここで、5話であのノルマンディー公が「東洋の島国に興味はない」のにわざわざあれだけ仕込み仕掛けさせる、それだけ警戒させるに値する何かをやらかすなり積み上げるなりしてきているんだろうなと思えるわけです。
逆に言うと、アンジェが現れるまで無策だったとはむしろ思い難いな、と。


4話で本は単に本ではなかったように。6話で積まれた本と山ほど差し込まれた栞が示唆するものは、

単に知識の研鑽や思考に留まるものではないのでは、と。
冒頭書いたように(結構無茶な)仮定に仮定を重ねた話では勿論あるのですが、例えばそうだったら面白いな、嬉しいなと思えるわけですね。
そこを十分十二分に面白くし得る何か、極めて困難だっただろう7歳の少女たちの入れ替わりからの「プリンセス」であることの継続を成し遂げ得た理由、その二つの解になり得るものとして「女王との共犯関係」は面白かったりしないかな、とも。


ちなみにプリンセスというキャラクターについて「女王になるなんて目標を掲げているのに、なぜベアトリス以外と親しくしない(人脈を築き力を蓄えようとしない)のかな?」といった疑問を見かけたことがありますし、それ自体は割とまっとうな問い掛けとも思えるわけですが。
それについても「女王との共犯関係」という極めて強力(かつ、反面として下手に協力者を広げるとリスクが高くなってしまう)な切り札を最初から持ちそれに沿って諸々仕込みを進めていたから、という話だったりすると楽しいかなと。


そんなことを考えるなり妄想なりしつつ、ドロシー曰く「女王のお気に入り」だと語られるプリンセスと女王の描かれざるこれまでの在り方や、4話でノルマンディー公が脇に控えての……控えていつつ、強烈な押出しをみせ口出ししつつのやりとりを振り返ってみたりすると、いろいろと捗る……もとい面白いところがあったりなかったりするかもしれません。


そして、女王の今後(とプリンセス)については現時点でだいぶ物騒な話を予想することも一応、可能であったりはします。


3:予想される女王の犠牲(惨死)

4:プリンセスにとっての女王という人物


二つの項目を挙げましたが、ここではひとまとめとして扱います。


そしていきなりですが、話の前提と(してしまうものと)して。
5話の列車の顛末はこの作品全体の過去と未来とを暗示してはいないか、という話があります。
詳しくは先掲まとめの5話関連、
https://togetter.com/li/1133020?page=7
2017-08-10 19:48:58からのインクエッジさんの連投と関連する自分のtweetを参照してもらえればと。


えーと……といいますか、この項の結論まで概ねそこに書いてあったりしますね。
一部抜き出してまとめると。
プリンセスとアンジェが並走し衝突を回避させ停止させる列車をそれぞれ王国と共和国とに見立てた場合。
その制御部分である機関室についても後者は「コントロール」、前者は王室と重ね得るだろう、と。
ならばそこにあったプリンセスを立ちすくませた血痕はその場でのそれそのものという以上に何の暗喩と見て取り得るか……いう話です。


また、5話との絡みでいえば、ちせにとって実の親である十兵衛との対決が描かれていた一方、回想もなく画面にはその姿も声もちせと過ごした日々も直接描かれはせずとも、ちせを愛し育てそしてその実父に殺された義理の親が決して小さくない存在として在ったところ。
もしも仮に7歳の入れ替わりの時からプリンセスと女王に(周囲の認識より遥かに)密接な関係があったとすると、また入れ替わりも承知の上であったとするとそれは情愛の通い合った(実の家族に匹敵あるいは越える)義理の家族と見て取れるかもしれません。
1話の時点で入れ替わりの示唆として出されていた(主にアンジェについての演出だと)と自分も思っていた



ここも、プリンセスと女王の関係においても味わい深いものとして見えてくる……ととても面白いです(妄想力を高め、高まるままに身を任せるのです……)。
※なお、1話放送すぐの投稿ということもありアレなところもあって、4話で女王が「孫娘に犠牲になれと」と語ったように「少女と祖母」ですね)。


5:女王の権力/ノルマンディー公との力関係


最後に作中の王国における女王の権力について。
プリンセスはまず女王となることを目指すわけですが、女王が作中の王国の権力構造においてどの程度実質的な力を持ちえているのかは……今のところは正直、詳しくは分かりません。
「空気姫」などとも言われつつも、一族で継承順位4位であるプリンセスでも様々な場で丁寧で特権的な扱いを受けてはいますが、そこらへん、権威と権力の区別が難しくもあったり。
先程も触れた4話において脇に控える(にしては態度も大きい)ノルマンディー公と女王との関係も(少なくとも表面的には)ノルマンディー公優勢、単に助言ではなく、概ねその意向が強く(また国益にも沿うものとして妥当性も持つものであるならば)出されれば女王は逆らい難いといった描写にも見えます。
ベアトリスも、女王の覚え目出たいプリンセスであっても、それでは後ろ盾として危うすぎると有力貴族たちの名前を挙げ心を痛め決意を固めていたりもしました。


権威としてかなり威光は強く「君臨」している一方、統治においてはおよそ絶対的とは程遠い、といったところでしょうか。
6話の二人の会話でアンジェが懸念した通り、仮に女王となれたとしてもプリンセスの夢への道はきっと、あまりにも険しいのでしょう。
しかし、でも、、だからこそ女王の側からも「孫娘」と密かな共犯関係を持つ動機や意味が有り得るのかもしれませんね(かなーーーり我田引水っぽい話ですが)。


以上、だらだらと長くなりましたが、(特に内面に関わる)描写が少なく謎が多くそこが大きな魅力であるプリンセスと、それ以上に描写が少ない女王は実はこの作品の発端である10年前から密接に関わっているかもしれず。女王というキャラクターもまたプリンセス同様に面白く、そしてそこを掘り下げていくと外見も言動も抱える秘密も野望も欲も……存在全てが最高の上にも最高なプリンセスというキャラクターについて魅力的に妄想していくことができてちょっと面白いですよ……という話でした。

本編6話放送時点でのだいぶ無茶な与太話として、ご笑覧頂ければ幸いです。

冲方丁『テスタメントシュピーゲル 3(下)』シリーズ完結。ネタバレ有り雑感。

刊行間もないシリーズのネタバレ含むため、以下、しばらく空行を挟んでから本文。
読み終えてすぐの感想をとりあえず並べてみる。









冲方丁シュピーゲルシリーズは最初から最後まで、誰も肩を並べられない疾走を続けた傑作だった。
その中ですら『スプライトシュピーゲルIV テンペスト』の世界統一ゲーム及びその近辺での超絶同時進行描写は圧巻。
マルドゥック・スクランブル、カジノでのアシュレイ戦と比べてすら、なお上回るかと思う。
当時、そのあまりの熱にあてられて雑然となにごとか書いたりもした。

「2008-06-04 冲方丁スプライトシュピーゲルIV テンペスト』についてのメモ。」
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20080604


ともあれ以下、最終巻とシリーズについて、少し。

『テスタメント・シュピーゲル 3(下)』で描かれたのは「報われざること一つとしてなからんことを」という大団円。
多くの人物について、むごい「凶運」に打ちのめされてからそれにどう対したかの「報い」、応報、報酬、清算といったものが示されていく。


広く悪運をもたらすものは、金と情報(と技術)で(あまりに複雑で容赦なくすべてを押し流す世界に「傷を残してやる」とか、流れのままに踏み殺そうとする力から逃れられないなら殺す側に回ってやる、あるいはそもそもただただ世界の中に自分の欲求だけしか見ていない技術者といった(特に数人の)個人の野心や強烈な自我も大きく働くけども、彼らの影を単に個人の範囲を超え広げ濃くするのは金と情報の力)。
そこで、絡まりあう濁流の多くの源となった「パンドラの箱」となった人物があのようなキャラクターだったのは(「ムニン」やキャラバンの影武者の正体とその解明等と共に)カタルシスというか爽快感は欠くかと思うけど、それでもバランス、とりわけ「悪」の示し方として、あるべきものだったかと思う。
「偉大なる龍王」と呼称される人物の繰り返し描かれる卑小さと、むしろそうして卑怯小心だからこそのもたらす害の大きさ、その象徴なような在り方は一個人/キャラクターの形をとった、制御し得ぬ総体としての雄大な世界の獣リヴァイアサンにも害悪の源としては並ぶ、いつだって世にはびこる悪龍の姿なのかなとぼんやり思う。


ここで、金、情報、技術、誰にもコントロールし得ない力についてはまさに清濁併せ呑みあらゆる方面から重く見られたアダー神父、そしてバロウ神父を通じ、決して否定的には描かれない。
そこもはっきり強く示されていた。

「特甲開発顧問の誰もが、将来の技術革新のため、持てる全てを注いだ。善も悪も判断がつかぬまま、時計の針を推し進めることだけを考えていたのだ。そんな私が、今ここで特甲レベル4の完成に命を尽くすのは当然ではないかね?(中略)その力を与えられた子供達が、君達という悪魔を退かせることだろう」(p292)

また、コントロールし得ない力について。

「多くは必然によって導かれた偶発的なものだ。世界経済が人間の意志でコントロールされたことなど一度もない。何もかもが混沌として次に何が起きるか分からない。混沌を最小限にするすべは一つだけ。沈黙だ」(p324)

というものについては。
p465で提示される「白と黒の二つの犠脳ユニット」、「白は<アポロン>------黒は<デュオニソス>-----ごく最近までメンデルとリヒャルト・トラクルだったもの」を保持して「いずれまたリヒャルト・トラクルのような沈黙の担い手が現れたとき」に備えつつ、沈黙に対する「メッセージ」を送る者が示される。
混沌を最小限にするのでなく、抑え込みもしながらなお、前へ、前へと推し進める。


三人×二組の少女たちについてまず、彼女たちの人生は続く、これから始まる!とその道と展望を(おそらくは概ね読者に、その想像に委ねる形で)拓き示しつつ。
描き出した世界全体についても前進への意志を、それを良しとするあり方を示した最終巻でもあり、シリーズ全体だったかと思う。


善、悪、それが複雑に交じり合った混沌の中、それでも時計の針は前に進み。
前に、より前に、より早く遠く進ませようとする人の業は尊くも卑しくもありつつ、全体として肯定されるべく在る。


そして、あまりにも複雑な混沌であっても。
それに対して人の意志と努力により、叶う限り秩序をもたらすべく足掻かれるべきであり。

「「我々の捜査技術は、特定の国や民族のためではない。要請があればイスラエルでも、パレスチナでも、イラクでも働く。
 パーキンスが付け加えた。「国際法廷に科学的根拠のある証拠を提出するには、FBIを頼るのが一番なのですよ。今回もFBIの指導で七十万発の弾丸が回収され、最初の二十四時間で殺害された二万人が、どの順番で撃たれたかを明らかにしています」
(中略)
 鳳の脳裏にその行為が-----めちゃくちゃな惨状を呈した現場で、死者の一体一体に触れ、臭いを嗅ぎ、調べ、記録する人々の姿がまざまざと浮かんだ。その中にこのハロルドがいた------ごく自然に/いるべき男として。途方もない仕事だった。累々たる死者を相手に、悲痛と疲労を押しのけ、混乱した世界に秩序をもたらす行為だった」
「「FBIきっての国際派のあんたこそ、アメリカという国はともかく、その警察思想の良心的な側面の担い手だ。世界の終わりのようなあの惨殺現場で、よく指揮を執ってくれた」」
(『スプライトシュピーゲルIV テンペスト』p163-165)

応報を、報酬を、清算を、「報われざること一つとしてなからんことを」と捧げられる祈りとたゆまず続けられる歩みがある。
カオス、混沌を象徴する鳳の名を持つ少女が「警察」、秩序を志向する道を択ぶのも象徴的だったかと思う。

西UKO『となりのロボット』。人とモノとの間の「好き」を、関係性を見事に描いた傑作

以前から話題になってしばらく前に買っていたけど、なんとなく部屋の片隅に置いたままにしていた小説や漫画を後で読んでみて。
「なんでこれ、何日も放っておいたんだ!」となることがたまにある。
で。今朝、ようやく、今更、西UKO『となりのロボット』読んでびっくりした。なんだこれ!!
読んですぐ『宝石色の恋 西UKO作品集』『コレクターズ 1』も注文した。素晴らしすぎた。

となりのロボット

となりのロボット

■『となりのロボット』冒頭試し読みはこちら
http://www.akitashoten.co.jp/comics/4253100554
■プロローグ版(単行本に収録されていないもの)
http://tap.akitashoten.co.jp/comics/tonarino

宝石色の恋 西UKO作品集

宝石色の恋 西UKO作品集

コレクターズ 1

コレクターズ 1


人とモノが、あくまでも人でありモノであることを互いに知り認めながら、それでも互いに自分の一番の場所である「となり」に在る/居ることを選び、信じる。
BEATLESS』好き必読という話に百回重ねて同意。冒頭から素晴らしい描写、展開の連続。
中でも締めのp130、室長の「チカちゃん君は知らない」とp132「もう私は知ってる」「ちゃんと信じられる」の流れが完璧だった。
そして、西UKO『となりのロボット』が「冒頭から素晴らしい」という話についても、少し。


p5。
女子校で人間社会への実地適応試験を行っているロボットの身体測定。級友達が自己申告で書く体重データからデジタルに平均値を割り出しハッキングして体重計に偽の情報を表示させる。
でも、

「みんな実測値を用紙に記載する時に数値を書き換えているようなのです。これでは正しく推定できません」

一人一人がただ自己判断で書き換えるのでなく、それが集団の常識として共有され、組織内でも黙認されている、という把握が難しい「社会性」がいきなり見事に描写されてる。
この時点で「あ、この漫画、ガチだ。「SF好きも楽しめる」どころじゃない、SF好き大歓喜案件だ」と思い知らされる。


p11。

「チカちゃんの"友達しゃべり"が学習機能に入るようになってから学校でのステルス性能が格段に上がった と高い評価を受けるようになりました」

機能としてより目指す没個性の達成度が上がっていく一方、プラハ/ヒロは「チカちゃん」にとっての特別な存在になっていく。


p18。
1話終わりで14歳のチカに向けたプラハの笑顔。

「忘れないでね」
「データの保護は最優先事項だから大丈夫」

その笑顔の意味が後の4話(チカは高校二年)、p57で

「だがこれを参照にプラハは自分が笑顔であれば子供が笑顔になる可能性が高いと判定した」

と科学的にも分析、解説される(ここでも「子供」という一般化した見方と、その子供=チカという個別具体的な存在との対比が示されている)。


そして4話終わりp66、再度"変わらない"(とチカには見える)ヒロちゃん/プラハの笑顔を前に、3年の時間を経たチカはより苦しく

「ヒロちゃんがわからなくても苦しい わかってくれても苦しいよ 私どうしたらいいの」

と訴える。
確かにそこには「時間」が流れている。


その上でp61、室長に「僕が思っているほど簡単じゃないかもしれない」と語らせる。
光源氏も引き合いに出しながらのこの周辺の描写、提示はそれこそSF的にとても関心を惹かれ、かつ、面白い。
そして、1話ラスト「データの保護は最優先事項だから大丈夫」は最終話に繋がり、受けとめられる。


p128。

「チカちゃん わたし持ってないチカちゃんのデータがあるの」
「それ今 もらってもいい?」

「データの保護は最優先事項」と語ったロボットが「プラハシステムを更新するたびに確保されていた不自然な作業領域」をこの相手とのこの時のために空けておいていた。
ロボットだからこその、その価値観に基づいた「好き」のかたち。互いに異なる存在で異なる価値観を持つ同士がそれでも「好き」だと繋がる。互いの隣にいる。

「それは人間の恋人だって同じだよって もう私は知ってる」
(p132『となりのロボット』本編最終ページ)。

見事な構成だと思う。



他にも、特に好きな描写を二つ紹介。


人とモノ、チカとヒロだからこその6話の目隠しと掛け替えのない最初の体験。
緊張感、駆け引き、周囲の動き……互いに何を懸けるか、何を求めるか、それが周囲からどう見えるか、干渉されるか。
ある種定番のシチュエーションをこの作品でしか在り得ない形で書いてみせた凄さ。


p53の汎用向け男性ロボット「Liberec(リベレツ)」の階段昇降とエレベーターの話。
「メタボのおっさんみたいなことになってて」とユーモアに包み軽やかな語りで、手早く相当突っ込んだ話書いてるのも凄かった。


これだけ高いレベルの「人とモノとの話」を描いた漫画はちょっと記憶にないようにも思う。
『となりのロボット』、大傑作と思う。


■関連

長谷敏司BEATLESS』読了直後の感想をややまとまりなく。
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20121011/
○『BEATLESS』のあらすじ(ネタばれ)をまとめてみた。
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20121014/
○『円環少女』13巻再読。『BEATLESS』との相関についてもいろいろと。
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20121028/
○『BEATLESS』『円環少女』『あなたのための物語』関連のやりとり。
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20121029/

それぞれの「リベンジ」。アイドルマスターシンデレラガールズ13話感想

アイドルマスターシンデレラガールズ第13話「“It's about time to become Cinderella girls!"」感想です。


見事な大団円が描かれる中で行われた、過去の諸々を踏まえての幾つかの「リベンジ」について書いていってみたいと思います。

デレマス感想過去記事はこちらをどうぞ。
アイドルマスターシンデレラガールズ各話感想まとめ記事&各記事案内
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20150406


ニュージェネレーションズのリベンジ



12話の各ユニットの思いがすれ違っていたあの夜にも未央が「リベンジ」と明言し、凛と卯月も同調した思い。
鮮やかで晴れやかな達成があまりにも見事でした。




※養成所で同期たちが次々に止めていきただ独り残り、それでも「笑顔」を決して失わずに待ち続けて。
そんな、天使ではなく実に一人の「人間」らしいものだったろう島村卯月の思いと不安とその上での輝きについては7話感想で諸々触れています。




神崎蘭子の「リベンジ」






ステージの順番として。

1:ローゼンブルグエンゲル

アスタリスクトークで繋ぐ)

2:アナスタシア&蘭子

(雷雨中断)

3:ニュージェネレーションズ

4:キャンディーアイランド

5:凸レーション

6:アスタリスク


他はデビュー順をなぞりつつ、蘭子が例外的にただでさえプレッシャーが大きいだろうトップバッターを務め。
更に、大急ぎで衣装も方向性も一転させ新田さんの代役として再びステージへ。
厳しい状況から一気に会場の盛り上がりを取り戻させたニュージェネレーションズの大活躍の一方、神崎蘭子の奮闘ぶりも特筆すべきものであったりもしました。

※4/13に公式に当日のセットリストが公開されたので追記。


城ヶ崎美嘉の、新田美波の「リベンジ」



ニュージェネレーションズが6話ライブで抱え込んだ思いをこの13話のライブでようやく乗り越えきれた一方。
新田美波は晴れの舞台で発熱、自らのユニットのステージに立てないという痛恨を仲間たちの精一杯の頑張りに支えられ、(自分/自分たちだって大変だろう中にも関わらず付き添い続けた)先輩アイドル城ヶ崎美嘉の熱心な励ましと発破(彼女なりの先輩アイドルとしての「リベンジ」でもあっただろう)もあって。
このフェスの間に最高の「リベンジ」が出来たという構図になります。


新田さんはかつての未央と同じようにリーダーとしての務めを十二分に果たしつつも気負いすぎ、Pはアイドルの心情を捉え損ね……同じような失敗を犯しつつも、しかし、確かに「一緒に一歩ずつ階段を登って」来ている彼らはより良くそれを乗り越えてみせる。
CP14人とP、15人が登って行く、それぞれの「シンデレラ」像に繋がっていく螺旋階段。


なお。

という形で新田さんが直面した重圧を重ねて示してもみせれば、描く世界を拡げてもみせる演出(CPたち以外もフェスの会場で各々の思いを抱え、各々の精一杯をやりきっている。またあの高垣楓も裏にこんな姿を抱えている)、実に素晴らしかったと思います。



Pにとっての「リベンジ」


やや「リベンジ」というには難があるかもしれませんが。



こういう話です。


追記(4/13)


13話終了時でも。
未央は観て応援し続けていてくれたファンの存在と思いを知り感極まり。
凛は「夢中になれる何か」の中にいた一日を振り返り「楽しかったよ」と語り。
卯月は「ずっと笑顔で」いられたことを喜ぶ。
一緒の舞台で歌い踊り、夜空を見上げながら、各々の星を見つめる。
それは他の仲間もPも同様。


12話の花火の夜に新田さんが「新しい景色が見えるチャンス」を「私自身が確かめてみたい」と語ったように。
「一緒に」という団結自体を目標としているアイドルはいなくて。
特にアニマス/765プロ天海春香と(括弧つきの)「無個性」「前向きさ」等で共通はするデレマス/シンデレラプロジェクト島村卯月はまず、「自分が」笑顔でい続けることを心がけ、望んでいたりする。
なお、NO MAKE13話で養成所の同期からファンレターを受け取っての感激等でも繰り返し強調されるように。
諸々の思いを抱え「それでも」浮かべ続けるのが島村卯月の笑顔であることは、決して忘れるべきではないところ。


一つの星≒夢を皆が一丸となって追いかけ掴むのではなく。
各々自分の星を持つ面々が、競い合いも助け合いもする仲間として、そしてまず何より自分自身と向き合って輝きだし、その光を強めていく。



いつもの。


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○アニメ版『アイドルマスターシンデレラガールズ』(デレマス)感想
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