ミステリ

アイラ・レヴィン『死の接吻』(中田耕治・訳)

死の接吻 (ハヤカワ・ミステリ文庫 20-1)作者: アイラ・レヴィン,中田耕治出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1976メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 7回この商品を含むブログ (53件) を見る正に古典。 主人公たる犯人の造形と、三人の姉妹のキャラクターを…

シャーロット・アームストロング『毒薬の小壜』(小笠原豊樹・訳)

毒薬の小壜 (ハヤカワ・ミステリ文庫 46-1)作者: シャーロット・アームストロング,小笠原豊樹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1977/10メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 7回この商品を含むブログ (17件) を見る幸福の追い風を受け、浮き上がるように加速…

岡嶋二人『クラインの壺』〜そうであるべき結末あるいは結末の不在

クラインの壺 (講談社文庫)作者: 岡嶋二人,菅浩江出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/03/15メディア: 文庫購入: 9人 クリック: 106回この商品を含むブログ (82件) を見る技術としての実現性云々は問題ではなく(これは『99%の誘拐』も同様)、描かれたイメ…

ヒラリー・ウォー『愚か者の祈り』(沢万里子・訳)〜地道な警察の捜査と、幾重にも浮かび上がる被害者の顔と貌の物語

ダナハーはゆっくりと煙草を押しつけた。「いいか、マロイ。おまえさんは刑事なんかじゃない。フランク・シャピロが何者で、どんな人間なのかもわからないのに、事件の全体像を描き上げている。こういった事件はジグソーパズルなんだ。ピースを集めなければ…

北村薫『街の灯』〜時代という悍馬と人々の駆る馬たち。

街の灯 (本格ミステリ・マスターズ)作者: 北村薫出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2003/01メディア: 単行本 クリック: 8回この商品を含むブログ (45件) を見る ※特に後半、『街の灯』と『リセット』のネタバレにもなりそうな下りがあります。未読の方はご注…

探偵小説二十五年/新保博久氏トークショー〜「TRICK+TRAP」初訪問

『日本ミステリー事典』『海外ミステリー事典』の絶版を機に、とのイベント、ということで「出版記念はよくあるが、絶版記念というのは珍しい」という掴みから始まったトークショー。 色々と興味深い内容だったけれど、冒頭で新保氏が「ここだけの話というこ…

宮部みゆき『天狗風』〜作品としてはどうしても好きになれない。しかし、背景にある、《挑戦の精神》は、心から尊敬せずにはいられない。

"霊験お初"シリーズは、第一作『震える岩』も含めて、どうも今の自分にとって相性が悪いようだと思う。 宮部作品の中で非常に数少ない、あまり好きになれない作品。申し訳ないのだけれど、六割くらい読んだところで飛ばし読みでラストの対決まで見てしまい、…

エリザベス・フェラーズ『猿来たりなば』(訳・中村有希)

各人物へ向けられる視線がどこまでも辛辣で、振り返れば実に執拗に各々の登場人物のあさましさや業もしつこく描かれているのだが、それが陰惨にならない意地悪な中にも失われない品の良さは、まさにイギリス女流ミステリならではだなぁ、と思う。 仮説が構築…

東野圭吾『予知夢』〜一連の物語のテーマについて。それと、オチはその《型》か。なるほど。

『容疑者Xの献身』を読んだからには、という第二弾。 基本的にネタバレ感想なので、大部分、白背景に白文字で。まず、第一章「夢想る(ゆめみる)」、第二章「霊視る(みえる)」について。 このどうしようもないくらいの後味の悪さは、無論、テーマに沿って…

東野圭吾『探偵ガリレオ』〜第一章「燃える」がいい。ただ、冒頭の記述について一箇所、少しばかり文句が……

せっかく『容疑者Xへの献身』を読んだのだから、ということで続編『予知夢』と共に購入した一冊。 五篇からなる連作短篇だが、出来栄えが頭一つ抜けているのが、第一章「燃える」だと思う。 ただ、《ミステリ》的な興味としてはそれほど惹かれるものはないの…

桜庭一樹『少女には向かない職業』〜徹頭徹尾、《だから》の小説。《それでも》は全くない。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の発展進化版 端的にいって、この作品は2/8に読んだ『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と非常に似通ったものだが、小説としても、ミステリとしても、こちらの方が遥かに整っていると思う。 つまり、この作品でも、作中のトリ…

『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』〜パロディを支えるもの

……幼い頃、ホームズに余り親しまなかった私には、この作品の面白さは本当に十分には感じることが出来ていないのに違いない。しかし、そんな不届き者にさえ、ホームズがバイオリンを弾く場面に込められたものは、芯まで打ち通すように響くように思わずにはい…

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』〜題名の比喩に全てが集約される作品

とにもかくにも、「砂糖菓子の弾丸」という比喩に集約された力が、忘れられない印象を残す。ただ、その象徴的な印象だけ残って、後は綺麗さっぱり消えてしまう気もするし、それでいい作品だとも思う。また、手垢がついた初歩の初歩であるトリックや概念の数…

東野圭吾『容疑者Xの献身』を今更になってようやく読み始める。

・・・湯川の初登場の場面までの流れ、即ちチェスの片方の盤面に並んだ駒の配置とその指し手を描き出す(多分、そういうことだろう)手際の余りの見事さに唖然。何で評判になってすぐ読まなかったんだ!まだ1/4程度読んだだけだけど、これは凄い作品だなぁ・…

『博士の愛した数式』を巡る物語

横浜・相鉄ムービルで『博士の愛した数式』『オリバー・ツイスト』を観る。 原作『博士の愛した数式』を併せて再読(『オリバー・ツイスト』は別の映像化としてミュージカル映画『オリバー!』は観たものの、ディケンズの原作は未読…)。『オリバー・ツイスト…

東野圭吾『時生』読了〜"悪口のいいにくい"作品

飛ばし読みを許さず、与えられる情報を登場人物の視点から考え考え進むよう、読み手に釘をさしてくる作風と技術は相変わらず見事。その場での文章の語り手となる人物より、その語りが読み手に与える情報が示唆する、傍らの人物の心情がより興味深い動きを見…