野尻抱介『太陽の簒奪者』〜これぞハードSF。その侠(おとこ)っぷりに惚れた。

「ブンガクな文章? 糞食らえだ。俺が書きたいのはそんなもんじゃねぇ!!俺のSF魂を見せてやる!!」と言わんばかりの男気溢れる態度が実に爽快な作品だ。ここまで割り切った姿勢は------断じて皮肉ではなく------清々しい潔さに満ちていて、はっきりいっ…

飛浩隆『象られた力』〜凄すぎるな、これ……。

この本を買ったのは、「小川一水の『老ヴォールの惑星』を差し置いて、SF大賞をとったのは一体どんな作品だってんだ?おい」というあまり穏やかでない興味からだったが……収録作品のトップバッター、「デュオ」を読んだ時点でもう、すぐに土下座でもなんで…

柳家三太楼・柳家三之助『オールフライト・ニッポン』

相手の話を聴き、プロの実感を込めた言葉を引き出す姿勢に徹していることが、いいなぁ、と思わされる。特にパイロットの岸本氏へのインタビューでの、 「女の子からも、「ちょっと温度を下げてください」とか(後略)」 といったあたりの扱いで、フライト・ア…

トム・ゴドウィン他『冷たい方程式』〜表題作がほぼ完璧な作品。

トム・ゴドウィン他『冷たい方程式 SFマガジン・ベスト 1』(伊藤典夫・浅倉久志編)収録作品は以下の通り。●接触汚染(キャサリン・マクレイン) ●大いなる祖先(F・L・ウォーレス) ●過去へ来た男(ポール・アンダースン) ●祈り(アルフレッド・ベスター…

日日日『ちーちゃんは悠久の向こう』〜直球で瑞々しい《反世界》もの。

各種ライトノベル系の新人賞を幾つも受賞し、大きな注目を集める現役高校生作家のデビュー作。 瑞々しい直球の《反世界》もの。ただ、このジャンルの作品は瑞々しいというのは、大概浅さに直結せざるを得ないものでもあり、この作品も例外ではないと思う。 …

塚本邦雄『十二神将変』〜際どく捻れ歪みつつも傲岸に整った、噎せるような腥さい血潮の匂いを感じさせる《反世界》

容赦なく押し迫ってくる鮮やかな腥(なまぐさ)さ。付いて来れない者を容赦なく無視する突き放した態度。中学の頃、旧仮名遣いの岩波文庫版『ローマ帝国衰亡史』(村山勇三訳。あとで中野好夫訳の新版でも読み直した)を無理やり背伸びして読み進めた時のこ…

小川一水『ハイウイング・ストロール』〜いいゲームの企画になりそう。

『群青神殿』がアニメの原作の優れた素材なら、こちらはゲームの企画のいいベースになりそうだ。機種・武装・パートナー・ステージ・ミッションの選択、装備の開発、トレーディング、ボスキャラ、対戦機能、連携機能と、必要もしくは望ましい要素が素晴らし…

オルダス・ハックスリー『すばらしい新世界』(松村達夫・訳)〜この人の作品を読む時には、マゾヒスティックな快感がある。

最近、小川一水の基本的に前向きな箱庭シミュレーションものを随分読んできたので、少しバランスを、ということで有名なディストピアものの代表作に手を出してみた。 北村薫「朧夜の底」で、《私》が、 「私、イギリスっていわれて、すぐ浮かぶ小説家はオル…

小川一水『群青神殿』〜アニメの原作にぴったり

珍しく、箱庭シミュレーションものではない作品。 読んでの印象は、「アニメの原作にぴったり」。 あとがきの末尾にもアニメの話がちょっと出てくるが(女性主人公ががんばるシーンでは、『魔法使いtai』というアニメの「背伸びをしてFollow You」という曲を…

山田風太郎『戦中派動乱日記』〜日付を追っての点描(2)

2/7の第一回に続く感想。 昭和二十四年(1959年)2月28日。乱歩の「名作四編」と題したミステリ時評を引き写している。 坂口安吾『不連続殺人事件』、高木彬光『刺青殺人事件』、山田風太郎『眼中の悪魔』、大坪砂男『天狗』を扱った評。これ以前もこれ以降…

小川一水『強救戦艦メデューシン』〜シミュレーションとして設定が良くない。

はっきりいえば、この人の作品の中では非常に出来が悪い作品だと思う。まず、大前提として、この人の基本的な志向は箱庭シミュレーションであり、その目指すところは「条件を単純化し、ある程度理想化した上で、《それでも発生する問題》を検討することで、…

小川一水『導きの星』『復活の地』〜まずはアシモフファンとして、尽きぬ賛辞を。

両方とも、凄まじい作品。 まとめるのにはなかなか時間がかかりそうで、かつ、まだ手元に未読の小川作品があるのでまとまった感想は随分先になりそう。まずはとりあえず、中学高校という時期に、アシモフ(ちなみに、正確な発音に近づけて「アジモフ」だ、な…

SF作家小川一水〜要するに、古き良きSFの《センス・オブ・ワンダー》の再来だ!

小川一水作品へのまとまった感想は、以前に読んだ『第六大陸』に加え、最近読了した『老ヴォールの惑星』及び、これから読む『導きの星』『復活の地』『こちら、郵政省特別配達課!』『イカロスの誕生日』あたりを一通り読み終えてから書くことに決める。ある…

ボブ・トーマス『アステア ザ・ダンサー』(訳:武市好古)読了。

敬意と熱意を持って、希代の天才の情熱とこだわり、その周囲を彩った人々との関わりを描いた傑作。 どんなに詳しく感想や評を並べることよりも、まだまだ未見のものが多い、フレッド・アステアの映像や歌により多く触れていくことが、何よりこの作者とアステ…

山田風太郎『戦中派復興日記』〜面白すぎて、頭を抱える。

……これについても書くとなると、まだ終わらない『戦中派動乱日記』の感想と合わさって、いつになれば離れられるのかわからない。ただ、どうしてもそれはやっておきたい。 《今》という時に「分かったこと」や「うまく想像できたこと」を何とか残したいという…

秋山瑞人『猫の地球儀』〜この作品、「大審問官」のかなり本格的で正攻法の翻案なのでは?

あと、秋山瑞人を引き合いに出したので、ついでなのでその傑作『猫の地球儀』について少し。 あの作品って、つまりは「大審問官」だろう? そして、《原罪》、《神の正義の大きさと人の子の思いの小ささ》といった、キリスト教世界に骨の髄まで染み込んでい…

有本倶子・編『山田風太郎疾風迅雷書簡集―昭和14年〜昭和20年』〜『戦中派不戦日記』へ繋がる橋

『戦中派虫けら日記(滅失への青春)』(昭和十七年〜十九年)と重なり、昭和二十年一月一日から始まる、あの『戦中派不戦日記』への橋渡しになる書簡集。 十七歳〜二十三歳の、続く《日記》とは随分違う荒削りの生き生きした書きっぷりには嬉しくなる。はっ…

山田風太郎『戦中派動乱日記』〜日付を追っての点描(1)

以前の日記についてと同様、日付を追っての点描を試みる。 昭和24年1月4日。徳富蘇峰『近世日本国民史』の感想二つ。「一、家康、秀吉、若き日より後年の大をおもんばかりて自愛自重これ努めたるが如き形跡なし。信長のため、即ち他人のため(特に家康の場合…

F.ガルシーア ロルカ『血の婚礼』〜なるほど、こいつぁスペインだ!!/メリメとロルカ。

馬鹿にされてしまった・・・。 Theater1010の2月の公演『ベルナルダ・アルバの家』のチケットを貰ったので、せっかくなので予習として手に入れた作品。 というか、チケットを貰う際に「ん?なんだかいろいろ理屈っぽくゴチャゴチャいう割に、あのロルカも名…

山田風太郎『戦中派闇市日記』〜乱歩への屈折した敬意、探偵小説と風太郎。

乱歩への屈折した敬意、風太郎の探偵小説への様々な関心(乱歩について、『アクロイド殺人事件』についての論評、風太郎にとって探偵小説は「生涯の仕事」とは当時から思えなかったこと、等々)などが興味深いが、1/22の日記で書いた『戦中派焼け跡日記』の…

山田風太郎『戦中派闇市日記』読了。

以下、『戦中派焼け跡日記』の点描続き。・原稿料など臨時に金が入ったとき、一貫して優先されるのは医学書の購入。特に、探偵小説関係に比べては明らかに意識的に優先している。21年10月12日。黒澤明への賛嘆。ディヴィヴィエ同様、後日にも黒澤映画への批…

山田風太郎『戦中派焼け跡日記』。その日付を追っての点描。

昨日、今日で山田風太郎『戦中派焼け跡日記』『戦中派闇市日記』(途中まで)を読む。『戦中派不戦日記』の鮮烈さには一歩譲るが、それでも大傑作。 ただ、司馬遼太郎の「この国のかたち」の如く、「山田風太郎は今の日本を、世界を、遥か以前に予見していた…