サッカレー『虚栄の市』


この小説から、一節が引かれるとするならば、次のくだりになるだろう。

「あなたは勝とうと思って賭けるわけじゃありませんでしょう? わたしだってそんなつもりじゃありません。わたしが賭けるのは忘れるため、でも、忘れることなんてできませんわ。昔のことを忘れるなんて、できないことですもの、ね、そうでしょう、あなた(ムッシュー)?」
(『虚栄の市』第六十三章。岩波文庫版248ページ