新国立劇場『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師』


格安のチケットが出ていたので、一階一桁代センターの席。


「とりあえずオペラってどういうものなのか、聴いてみよう」


という段階にしては実に身分不相応だけれど。


ただ、例えば歌舞伎にしたって、むしろ観る回数が少ないうちにこそ、一幕見席や三階B席よりも、良席を選ぶべきだと思えた(※)。
そういうわけで、オペラについても、二階正面センター等は無理だとしても(そういうところのチケットはそもそも売りに出されない?)、多少無理した上で、それなりの席で観てみようということにしている。
……もっとも、(まだ観たことが無い)海外有名劇場の来日公演なんかになると、そうも言っていられないだろうけど……。

※何度も観ていて筋も見所も分かった上で、想像で補いつつ観れるなら幕間でも十分楽しめるだろうと思う。
しかし、そうでなければ、そもそも花道七三がまるで見えないという一点だけをとっても、各演目の初見には絶対に向かない。


ともあれ、前置きが長くなったけれど、公演の感想。

『カヴァレリア・ルスティカーナ』

『ゴッド・ファーザー PARTⅢ』(シリーズ中、ともかく評判の悪い作品なのだけれど、個人的に偏愛してしまう映画)にも使われた間奏曲が、初めて生で聴けたことが嬉しかった。
後でこの公演の評判を少し調べてみると、ともかく指揮者のファビオ・ルイージを称える感想が目立つ。「そうだよなぁ、やっぱり、あれ、いい指揮で、悪くない演奏だったんだよなぁ」と納得。


歌手については……あまり積極的に書きたいことがない。
ただ、悪い意味でどうしても書かずにいられないのは、サントゥッツァを演じたガブリエーレ・シュナウトという人について。
この歌手でのこの演目はもう二度と聴きたくないし、他のオペラでもこの人が主演なら、足を運ぶのを相当躊躇うことになるに違いない。
迫力はあるのだろうけど、個人的な趣味として、根本的に感覚があいそうにない。ただ大音量で喚き騒ぐだけが感情表現?勘弁して欲しい。

『道化師』


こちらは逆に、カニオ役のクリスティアン・フランツという歌手が出るなら、他の演目も是非観てみたいと思わされた。
映画『アンタッチャブル』にも使われた名曲、『衣装をつけろ!』だけでなく、歌でも演技でも、正気と狂気の狭間を揺れ動く心情の見事な表現に惹き込まれてしまう。激情そのものよりも、それが噴き出す一呼吸前の抑えられた圧力の高まりが印象深い名演だったと思う。


脇を固める歌手陣も、そして勿論、オーケストラの演奏も十分に楽しめるもの(ただ、演奏としては、『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲が一番良かったかもしれない)。


この劇のもう一人の主役であるトニオ役については、歌手も良かったが、それ以上に演出が興味深く思えた。
特に最後の場面、《滑稽な出し物》が《現実の悲惨な事件》と化してしまった舞台の上で、ただ一人、《道化師の扮装》のままスポットライトを浴びて佇む姿は悪魔的な鮮やかさ。
カニオとトニオ、どちらに劇を締めくくる台詞を吐かせるかに議論がある演目だといわれるが、今回それがカニオになったことと、上記の演出はセットとなるものなのだろう。


どうでもいい話だが、ごく近くの席で、『カヴァレリア・ルスティカーナ』だけ聴いて帰ってしまった人がいたが、勿体ないことするなぁ、と思う。
悪いのは歌手であって、指揮や演奏では決して無かったんだから、歌手が総入れ替えの『道化師』は聴いていけばよかったのに。


なお、更にどうでもいい話だが、各所の情報を総合するに、特定の人物によるタイミングも声の調子も外れまくった「ブラボー」や不自然に熱烈な拍手というのは、殆ど新国立の(に限らない?)名物であるらしい。
ということは、《今まで》だけでなく、《これからももれなく》ということか。なんだかなぁ……。