こんぴら歌舞伎観劇旅行

4/21-22の一泊二日で四国こんぴら歌舞伎(第一部)観劇旅行にいく。
勿論、第一部・第二部ともに行ければそれに越したことは無かったのだけれど、生憎、うまく予定が合う予約可能なツアーがそれしかなかったので。


21日12時に羽田から飛び、昼に善通寺を観光(嫌な感じに商売っ気に歪んだお寺さん-------「弘法大師の肉声を再現」という失笑ものの見世物、馬鹿馬鹿しさに惹かれて思わずお金を払って行ってしまった)。
そして、夕方頃に金比羅さんに参拝。ツアーでは本殿までしか行かないので、添乗員さんに了解をとって、奥社まで足をのばす。 参道も建物も、嫌味のないすっきりとした印象で、とても気持ちのいいところ。好きだなぁ、こういう神社。


明けて22日、朝八時頃に旅館を出て、ツアーの出発時刻(朝10時に旅館玄関集合)までに金比羅宮に再度参拝、8時半の各館の開場を待ち、昨日行けなかった書院(円山応挙の屏風絵などを展示)、高橋由一館(油絵二十数点を収める)、宝物殿、金比羅庶民信仰資料収納庫(特別企画・冷泉為恭展)を駆け足で回る。
中でも、特に虎の実物を見たことがなかったという応挙が描いた、猫のような白い虎たち-----妙に眼が大きく、尻尾が長く、毛がふかふかと柔らかそう。ただ、盛り上がった肩と腿の筋肉はしなやかに力強い------は、思わず手を伸ばして頭をなでたくなるような可愛らしさ。とてもすぐには立ち去り難く、しばらく足を留めて見入ってしまった。
……おかげで戻りが10時ぎりぎりになり、朝食を食べ損ねたがまぁ、仕方がない。


その後、11時からこんぴら歌舞伎第一部。
お軽・勘平を亀治郎海老蔵が初役で演じる「仮名手本忠臣蔵」六・七段目と、踊りの名手・三津五郎の所作事。

※詳しくはこちら。
http://www.town.kotohira.kagawa.jp/kabuki/22kabuki/syutsuen.html

事前に関容子『芸づくし忠臣蔵』を読み、丸谷才一忠臣蔵とは何か』を再読。
それによって、「ああ、海老蔵の勘平も、花道で二度目の鉄砲を撃ったな」など、本と舞台が重なりあって面白い部分も幾つかあった。勿論、自分の拙い眼でわかる程度のことだけれど。

芸づくし忠臣蔵 (文春文庫)

芸づくし忠臣蔵 (文春文庫)

忠臣藏とは何か (講談社文芸文庫)

忠臣藏とは何か (講談社文芸文庫)

------それと、毎度思うことだが、海老蔵というのは、何だかとてもヘンな役者だ。
他の役者は上手いも下手も、出のところで雰囲気をみせた上に、見得や聞かせどころの台詞を中心に、段々と舞台の上に演じている役の人間を表現していく。
しかし、海老蔵は、出て来た瞬間から、《役者がある役を演じている》というのではなく、勘平にしろ助六にしろ富樫にしろ、その役の人間そのものがそこにいる、という空気がある。その台詞も動きも、ともかく《その人》が語り、《その人》が動いている、といった感覚。


それは《自然な》とか《日常的な》というのでは全く無く、むしろ他の誰よりも------正に言葉通りに------芝居じみていて、しばしばぎこちなくさえある。
というか、もっと遠慮なくいえば------他の幹部俳優に比べて------《下手だ》と思わされることが少なくない。例えば、今回で言えば、誤って撃った相手(定九郎)の体に動転して触るところから、金を盗んで《これも天の助け》と思うところの心の動きが、なんだか余りにぎこちなくて判りにくかったと思う)。
ただ、とにもかくにも、やたらと存在感がある《一人の人間》がそこに現れてしまうのが不思議だ。
動きもそうだが、特に台詞。良くも悪くも、他の役者とまるで調子が違う。
その描かれた人物像が適切なのかどうか、それに共感するかどうかはさておくとして、《その人物ならそう喋るだろう》という海老蔵ワールドでの自律的なリアリティがある------という言い方で分かるだろうか? まぁ、一度でもこの妙な人物による歌舞伎をみたことがある人なら、何となくそういった感覚は伝わるのではないかと思うのだけれど。


結果、七段目の「いかなればこそ勘平は(中略)色にふけったばっかりに……」というあたりなど、理屈を超えた強烈な説得力というか、共感を強制するパワーがあり、それにはもう、抵抗しようも無く巻き込まれずにはいられかった。そして、それが大変気持ちがいい。この場所で歌舞伎を、中でもこの役者を観れてよかったと心から思わされる。
なお、金丸座という場所の印象や、狂言のより詳しい感想は機会があれば、後日より詳しく書いてみたい。


観劇後、栗林公園の大庭園の観光を挟み、高松空港へ。羽田着後、ツアーは流れ解散。
羽田空港駅から京急で一本、神奈川県南部の自宅に着いたのは21時少し前。
随分と慌しいが、充実した旅行だった。
ちなみに、短いとはいえ、まともな旅行は3,4年振り。もう少し、色々なところへ足を運んでみてもいいかもしれない。