「熱狂の日」音楽祭:パスキエ他「モーツァルト『ピアノ三重奏曲 第5番 ホ長調』/ハイドン『ピアノ三重奏曲 第39番 ト長調』」〜これだけ愉しそうに演奏される音楽を聴けたのは、それだけで幸せだと思う。

モーツァルトピアノ三重奏曲 第5番 ホ長調』/ハイドンピアノ三重奏曲 第39番 ト長調
●レジス・パスキエ :ヴァイオリン
●ロラン・ピドゥ :チェロ
●ジャン=クロード・ペネティエ :ピアノ


これだけ愉しそうに演奏される音楽を聴けたのは、それだけで幸せだと思う。


某クラシックサイトで引き取り募集されていた券を譲って頂いたところ、最前列中央付近の席。演奏者は前方右斜め1mくらいにいるし、付近の客席は、「我々は生活の中にクラシック音楽が根付いているわけですが、何か?」という空気。
余りの場違いさに、開演前は少しばかりいたたまれない気分にもなったが、演奏が始まれば、そんなものは全て吹き飛んでしまう。ただ楽しく、耳も眼も惹きつけられた。


なんだかパスキエという人、しばしば旋律をハミングしている------というか、唸っている。自分が弾いている最中にもやるが、自分のパートがない部分では、頭を緩やかに傾けるように振りながら、実に気持ちよさそうに唸っている。会場の誰よりも、この人自身が音楽に浸り、愉しみきっているという風情。

そんなパスキエに対し、チェロのピドゥは《苦労性のきまじめなメガネのおじさん》といった風貌。
その引き出す音も、どこかやんわりと穏やか、そして優雅。時々、顔を上げ、眼を見開いてパスキエ氏とアイコンタクトする表情が何ともおかしい。
ピアノのペネティエが弾く旋律も二人を引き立てるように軽やかに響いていく。


勿論、そんなトリオが紡ぐ音が、愉快でないわけがない。
歌って踊って走る旋律。語りかけるように、笑いかけるように、伸び伸びと曲が奏でられる。
特に後半のハイドンはパスキエのバイオリンが、もう、疾走につぐ疾走。その中でもどこか余裕があるのが味になる。


演奏が一旦終わると、止むことのない拍手の嵐。一度ならず、二度までもアンコールに応えるパスキエ達。
ピドゥ氏が日本語で「ドウモ、アリガト」と口にする愛嬌をみせたり、パスキエ氏が実に満足そうな表情を浮かべていたりと、始めて終わりまで、どこまでも幸せな時間が流れていった。
二度目のアンコールの際、奏者たちが舞台に戻ったのに、ピアノの譜面をめくる補助の人が遅れて現れてペネティエが困ったりしていたのも、まぁ、ご愛嬌。この「熱狂の日」というのは多分、そういったドタバタ面も含めて楽しむべきイベントなのだろう。