新橋演舞場五月大歌舞伎(夜の部)

石川五右衛門
序幕|大手並木松原の場/洛西壬生村街道の場
二幕目|足利館別館奧御殿の場/同 奧庭の場
大詰|南禅寺山門の場

石川五右衛門吉右衛門
此下久吉 :染五郎

京鹿子娘道成寺
白拍子花子 :福助

「松竹梅湯島掛額」吉祥院お土砂/火の見櫓
紅屋長兵衛 :吉右衛門
八百屋お七亀治郎
小姓吉三郎 :染五郎ほか

二階最前列中央右寄りで観劇。
五右衛門ニ幕目の宙乗り、「松竹梅湯島掛額」のお土砂の滑稽など、サービス精神溢れた演目が揃った公演。
ただ、何より印象的なのは、二つの見せ場の絵画的な鮮烈さ。

(ちなみに、吉右衛門のユーモアというのは、例えば「吃又」(「傾城反魂香」土佐将監閑居の場)の喜びの舞のような場ではたまらなくいいのけど、この日の役柄のような《お遊びの陽気さ》というのはそんなに似合わないんじゃないかと思えた)。


まず一つ目は、「石川五右衛門南禅寺山門の場。
幕が開くと、絢爛たる金と緋に彩られた山門。その楼上に佇むは、その上を行く豪奢な姿の石川五右衛門
そして光彩陸離たる様式美に満ちた舞台に響くは、それにも負けぬ名台詞!

「絶景かな、絶景かな! 春の眺めは春宵一刻値千金とは、ちぃせぇちぃせぇ。この五右衛門の目からは------一目万両!」


そして、公演を締めくくるのが、「松竹梅湯島掛額」での「櫓のお七」。
それまで亀治郎の名前を知らなかった人もその名前を覚え、ファンでなかった人も注目するようになるのに十分な出来とすらいえるかも。

津々といつまでも降り続く紙の白雪に、乱れ衣装の緋の艶やかさ。それまでが笑いが絶えない賑やかさが満ちている狂言だけに、一層悲壮と凄艶が際立つ、おいしい役どころ。
人形振りの、過剰なくらい------本物の人形浄瑠璃以上に------ギクシャクとした動きも、千々に乱れる心の表現として説得力があった。


……もっとも、それを観ながら「あぁ、落語の『くしゃみ講釈』で「一段語っちゃった」というのはコレか」などということも考えたりしてしまっていたけれど。余計なことを連想なんかしないで、もっと素直に、ひたすら惹き込まれておけばよかった。それだけの舞台だったのになぁ。