山名沢湖『白のふわふわ』〜「これだけ多彩なイメージを一冊に詰め込んじゃって、後が大丈夫???」思わずそんな余計な心配をしたくなる大傑作集。

白のふわふわ―9 clouds of Yamana world (Beam comix)

白のふわふわ―9 clouds of Yamana world (Beam comix)

これはもう、「これだけ多彩で豊かなイメージを一冊に詰め込んじゃって、後で困らないかな?」と心配になるような一冊。この充実振りはちょっとただ事ではないと思う。総合力では『スミレステッチ』を凌ぐかもしれない。


第3話「ふわふわりん」はちょっと別格の傑作として、第6話「ヨル☆ノビル」、第8話「Lucky Noodle」も、一冊といわず、《数冊に一作あれば短編ファンタジー漫画家として御の字》というレベルの作品だと思う。


第5話「なつくさ万歩計」、第4話「電話線」も十分、一冊の短編集の目玉に成り得る作品だし、第2話「ハミング」、第1話「カエルBOX」だって、「これこそこの一冊の白眉」と思う人も少なからずいても不思議じゃない。


残る第7話「迷子になる」、第9話「夏休みが待ち遠しい」だって、その一作を目にすれば、作者の単行本に手を出す十分な理由になるだろうという出来。


ひょっとしてこの人、今後もこんな作品を量産できるのかな。ちょっと想像できない事態だけど、そうだったらホント、凄いなぁ……。
全体的に、何となくおーなり由子を連想させるけれど、おーなり作品に特有の懐旧を込めた哀しさと美しさとはまた異なった、それこそ題名通りに《ふわふわ》として、差し迫る《時》の流れや圧迫を感じさせない独特な個性を持っていると思う。というか、おーなり由子との最大の共通点は、無粋な感想など余り書きたくなくなってしまい、ただただ読み、ただただ人に作品そのものを勧めればいいと思えるところかもしれない。


それでもあえて、幾つかの作品について少しだけ書いてはみる。


まず、「ヨル☆ノビル」では、

「ま、そんなものみたいよ 夫って」

という一言が、作品の最大の評価ポイントなのか、《あえて明言しない方がいい、いや、断じてしないでおくべきだ》というマイナスポイントなのか、判断し難い。
今の自分の感覚だと-------どちらかといえば、《あえて書かないでおくべきでは》という側にやや傾く。ただ、他の人と感想を言い合ったりすれば、その内に判断が180度変わってしまうかも。どんなものだろうか。


「Lucky Noodle」の馬鹿馬鹿しい駄洒落ネタは、個人的に偏愛したい。断固として擁護したい。無論、この作品にはずっといい場面が幾つもあるけど、それでも「この場面もこれがいいんだ」とはっきり主張したい。


そして、「ふわふわりん」は------《どこがいい》も何もないな、これ。
この作品はもう、どのページもどのコマも、全部いい。