わらび座「ミュージカル『銀河鉄道の夜』」(Theatre1010/初日)〜「ケンタウルス、露を降らせ!」


ケンタウルス、露を降らせ!」

なぜだか、無性にこの言葉の響きが好き。
その台詞が、このミュージカルでは幾度も鮮やかに響き渡り、その度に、なんだかそれだけでも嬉しくなってしまった。


------『銀河鉄道の夜』は原作に加え、ますむらひろしの漫画版(登場人物たちは皆猫の姿)、ますむら版を原作にした杉井ギサブロー監督の映画の印象が強く強く心にある作品。
それで、このミュージカルには期待と共に、(それらと比べてしまった時、どうしようもなくつまらないものに思えてしまったらちょっと嫌だな)という不安もあったのだけれど------舞台で描かれたのは、輝く星に包まれた、これまで触れてきたものとはまた異なる、もう一つの素晴らしい世界だった。


まず、星! 舞台を飾り、劇団員自身の手によって吊り下げられたという、一万二千個もの星々!
特に銀河鉄道に乗り込むあたりまでの場面で------その星々の輝きと、回り舞台を徹底活用した舞台装置とその転換が、空間と距離感を自在に操る。
美術・衣装は現在THEATER1010芸術監督を務める朝倉摂御大。この美術は、それだけでも一度は観るべき価値があると思う。なお、1階10番台列前半のセンターからの観劇だったが、この劇はここらへんか、それより後ろあたりから観るのが良さそう。席が前過ぎると、かえってこの舞台空間を十分に楽しめなくなってしまうかもしれない。


この劇の中でも特筆すべきなのは、ジョヴァンニがザネリ達からの心ない言葉に傷つき、ケンタウルスの星祭りで賑わう夜の中、一人歎く場面。その時、パッと、舞台奥の背景だけでなく、舞台脇の一部にまで広がってきた星空が、《広い空間にただ一人》という孤独と哀しみをはっきりと示す。
ここでもう、この劇全体を好きにならずにはいられなくなった。


キャストもそれぞれ役によく成りきった演技で嬉しかったけれど、中でも一際印象に残ったのが、ザネリ役の浜畷歩という人。
ザネリは、「ジョヴァンニ、らっこの上着が来るよ!」とからかう友人達の中心にいて、最後には(舞台には登場しないままに)カンパネルラの事故の原因となる役柄。出番はそれほど多くなく、序盤に限られているのだけれど、その声と歌が素直に伸びて響くほど、ジョヴァンニの哀しみがより強く客席へと迫ってきた。
------この人のザネリ、もっと長く観てみたかったなぁ。