アイラ・レヴィン『死の接吻』(中田耕治・訳)

正に古典。
主人公たる犯人の造形と、三人の姉妹のキャラクターをそれぞれの登場の後、読者に速やかかつ自然にイメージさせる人物描写。
サスペンスの盛り上げと、抑制されるべきところは抑制された筆致(例えば、第三章「マリオン」で、彼女が遂に犯人の意図を認めざるを得なくなった場面など)。
犯人の母の描き方とそのキャラクターの巧みな使い方。

どれをとっても、一つの《型》の優れた原型といった印象。戦後青年のアプレゲールを描いて云々、という要素は今となれば古臭さは拭えないけれど、それでも魅力的なエンターテイメントとして読める。

そして、「第1章 ドロシイ」「第2章 エレン」「第3章 マリオン」と三姉妹の名前だけが並んでいるのが、主人公の心象風景とぴたりと重なり、いい味を出していると思う。