とりあえず<星界>シリーズの既刊を読み通してみての印象は、「とてもカッチリとした構成で物語を編む人だなぁ」というもの。
まず、このシリーズの魅力の核心は、アーヴという種族の創造と、その結晶であるラフィールというキャラクターにあることは誰の目にも明らか。そして、その魅力は極めて子供っぽい単純な明朗闊達さを中心にしていて、この性格は普通の世界設定では、相当浮き上がってしまって軽くなり過ぎる。
そこで、その単純さが単純なままで存在し得て、かつ、そうであることを求められるような世界として、綿密な設定が用意されている。凝った設定の眼目は何よりもまず、そこにあるのだろう。
そして、そうして創り上げた世界を順々に手際よく説明していく流れも実にきっちりとしている。
例えば、アーヴがその世界の中心とする宇宙船と艦隊についての『星界の紋章』での描写。
まず短艇に乗り巡察艦へと辿り着き、敵突撃艦に襲われ連絡艇で脱出。辺境に辿り着き、領内での補給体制なども説明。
その後、ジントとラフィールの脱出行を描くのと平行して、艦隊レベル、分艦隊レベルでのこの世界における戦略・戦術も、主にユーモラスな会話を軸として語られていく。
特異な世界設定をストーリーの背骨とするだけに、こうした流れは相当な部分、読者への設定のレクチャーで占められているのだけれど、それを全く退屈に感じさせないのが見事だと思う。
また、話の構成といえば、セット的な物語要素の配置も目立つ。
例えば、『星界の紋章』①で巡察艦<ゴースロス>と敵駆逐宇宙艦との激戦が描かれたことが、『星界の戦旗』①から(帝国側での駆逐宇宙艦に相当する)突撃艦の艦長となった、ラフィールの戦いのイメージをより鮮やかなものとする。
<ゴースロス>の奮戦の時には、《7機撃破、8機、9機・・・あと1機・・・!》という目で読者に捉えられていた艦艇が、今度は主人公たちがその身を預ける存在として、戦場を駆ける。
そして、前作『星界の紋章』の物語への口に出されなかったラフィールの追憶、
「ラフィールはこういおうとしたのだ------三年前、お互いが相手の保護者のつもりだった。いま思えば、滑稽なことであったな」
(『星界の戦旗』① 46ページ)
を受けるかのようなジントの独白から------シリーズの《本篇》とされる------『星界の戦旗』での二人の物語が新たに開幕する、というのがこの物語の構造だと思える。
「任務に束縛されていない少女と、自分が何者であるかもわからない少年の関係だったあのころが、ひどく懐かしい。
少年と少女に戻るのは不可能だが、あのころの関係をとりかえすことは可能なのだ。ひどく困難ではるけれども、不可能ではない。
困難を可能にするには、彼が生きのびることが大前提だ。
ジントは扉を思いきって開けた」
(『星界の戦旗』② 200ページ)
この互いに語られざるやりとり、特にラフィールの追憶は、シリーズ屈指の名場面だと思う。