『WHITE ALBUM2』ネタバレ有り感想その1 〜「ゼロから once again」

発売後一年近くたった今更ながら話題作『WHITE ALBUM2(-introductory chapter-&-closing chapter-セット版)』(Leaf)を5日ほど前にクリア。


で、もうたまらず関連CDやノベルにもここ数日で手を伸ばしてみて、その後、ぐだぐだと考えずにはいられなくなり、諸々書いてもみることに。



当初、ちょうどtwitterでの一発言にあたるくらいの区切りでそれぞれいろいろ他の人に感想や意見を聞いてみたいところがあり、それ用に組むつもりで。
しかし、ネタバレにある程度配慮しようと思いながらも出来ていない懸念が強くなってしまい……。


仕方なく、そのままの形式でネタバレ警告有りの日記にすることに。


ともあれ、以下、本文です。



※※※以下、『WHITE ALBUM2』のネタバレがあります。
※※※ある程度ネタバレに配慮しようとも思いましたが、いろいろ問題もありそうです。
※※※未プレイの方はできれば閲覧を避けてください。















WHITE ALBUM2』はBGMの演出がいい。よく言われるのはストラスブールでの「Twinkle Snow」。確かに本当に最高。でも、もう一度、BGMが「Twinkle Snow」になるのもそれはそれは名場面、名演出なんだと言いたい。あと、「時の魔法」が先取りされてinstrumentalである場面で流れる相応しさも語られるべきだと思う。


その「時の魔法」のサビのフレーズ「ゼロから once again」が大変に気になる。というか、作品の最重要キーワードだと思ってる。なので、これからの連投でしつこいくらいに繰り返し出すことになる。


WHITE ALBUM2』が三角関係の浮気ゲー。視点人物を主体に据えての話とするならそれはいいんだけど「誰に対する浮気か」というのを間違えた感想は解釈の余地とかそういう域越えてるような……。「揺れる」ことではなく「救い難く一途」こそ問題で。


プレイヤーと視点人物の意識のズレと、台詞でも地の文でも嘘をつきまくる度合いが凄まじい。その原因はどんな選択をしてどんなルートに進もうが、この長い長い話の99%において恋愛ものとして一番重要な質問に対し視点人物の答えは本当はたった一つだということがほぼ全てなんだけど。


選択肢とプレイヤーの自由度についても画期的。いや、だって、-Closing Chapter-全部通してどれ選んでも突き詰めれば「浮気する」という選択肢しかないってどうよ?正確にいうと、そうでない選択肢が表示だけされて絶対選べないという演出のえげつなさ……。ビジュアルノベルという形式の一つの極北だと思った。


WHITE ALBUM2』が○○○○○の物語だとすると(といかそうだとしか思えないんだけど)「ループもの」との関係はどうなるのかな。悔いても悔みきれない、ただ一度である筈の何かをやり直したいという願い。それをファンタジーでもSFでもなく、確かに成し遂げてる。二週間で五年間を「ゼロから once again」させてる。


零から繰り返すことで必然の答えを書き換えることに遂に成功する物語なんだけど、その書き換えは五年を経ての強さがあってこそ出来たという在り方が好きだ。逆に普通の意味での時間を遡ってのifなループは小説「Twinkle Snow 〜夢想〜」で潰してる。で、この作品の核は主人公の魅力で、それはその過程の尊さなんだよなぁ、と。


「ただ一度」ということ、一回性を厳然として認めるからこそ、それを「ゼロから once again」させる大困難があり、主人公の凄さがある。


WHITE ALBUM2』にTRUE ENDが二つあるとか、どちらが本当のTRUE ENDかという議論が納得出来ない。片方って、ENDになれてない。あれはもう片方の一つ前の段階のENDに相当するもので。だから、親があれだけ文字通りに必死になる。ようするに、あっちだともう一回終章が始まることになる。


「他の全てを犠牲にして成立する運命の恋」という王道とみせかけて、「どうしようもない運命に打ち勝って幸せになる普通の(?)女の子」&「泣いていた子供"たち"が冒険に行きて帰って大人になる」という王道っていいよなぁ、と。なお、繰り返しになるけど、前者は壊せなくてENDマーク打てなかったので未成立or不成立。


主人公が誰かという話は千晶シナリオで補助線までつけて強調される通りだとして。ラスボス兼メインヒロインは○○○でなく○○。○○○との五年をやり直す二週間の前半八日間の戦いもそりゃあすごいよ。丸一日続けたテイク1も、それにテイク2、相手にとって望外のテイク3が「完全版」だと宣言なんて、マジ天使。


どうマジ天使なのか日記にでも説明書こうかと思ったら、2月14日の誕生日ケーキ差し入れ(ここでCGが出る強調演出がいい)からの八日間の七日目夜から引用部分が増えまくった上に削れなくてどうしようかと思う。


「いつまでも泣きやまない子がいるの…だから、子守唄の伴奏お願いできないかな?」は作中で一番好きな台詞で、その前後がとにかくいい。名台詞が続くのだけど、本当に凄いのはそれでも言葉だけでは届かなかったから、言葉以外のもので伝えるところ。「届かない恋」という曲はここでこそ一番輝いていると思う。


でも、主人公にとって、次の戦いこそラストバトル。それでこの物語の99%において一つしかなかったラスボス兼メインヒロインの答えが遂にひっくり返ったから。マジ天使をも超えたマジ女神。そりゃ、どうぞ命使ってくださいってなるよな。そこでヒロインに同調は出来ないにせよ主人公の凄さは理解できないと、苦しみ抜いた女神さまも浮かばれない。


というか「複雑な」小木曽雪菜を作ったのは本人たちも認める通り北原春希なんだから、春希を掘り下げないと雪菜は理解しようがない。春希との「ゼロから once again」をするために「私が一番頑張ったんだよ!とっても辛い思いをしたんだよ!」というわけなので。


WHITE ALBUM2』は「帰るべき場所」「ホーム」というキーワードを巡る話でもある。それ絡みで、ピアノの音色に包まれて安らいで眠ってしまうというのはそこにそれまで母親に求めていた「ホーム」を見出したということなんだけど、そこで「女」が吹き出してしまっての発端というのはいいよなぁ、と。


冬馬曜子というキャラクターが好きで、それ絡みで好きなくだりが幾つもある。最高は勿論BGMが「Twinkle Snow」のところで個人的に物語中ベスト1,2を争うけど、共犯者とレストランに居る場面での無理しての大食とか、「何が日本には居場所がない、よ。ここだけ治外法権?親の面目丸つぶれ」もとにかくいいと思う。


某ルートは雪菜さんの「三人で」病の解説篇でもあり、CG2枚で全部持ってっちゃう話でもあり。あの演出は『神樹の館田中ロミオ担当某シナリオ並に好きだけども。その上更に選ばれる理由がああだと「END後に○○○と同じ基準で比べられたらどうなってしまうの?」とすごくいたたまれない。


WHITE ALBUM2』はプレイ時間は短くても30時間以上(自分だと全ルートひと通り終えるまで50時間くらい)だけど構成に、文章に遊びが少なく、優れた本格ミステリのようなストイックさがある。というか、作品として一つの謎の解決に挑む名探偵の物語なのかもしれない。


探偵にとって謎自体は難しくないどころか、見え過ぎるほど見えたことが一層苦しい。ただ、探偵の願うように解決することがどうしようもなく厳しかった。だからこそ「当事者」になるその時を待ちに待ち、すべき時にすべきやり方で解決した探偵の歩みがあまりにも尊い


そして、謎を理解して切り札をもち、それに頼れば奪えるとわかっていなら本当にあるべき時まで待てたことが、探偵にとって五年前の自分の過ちをやり直して乗り越える「ゼロから once again」だったのだと思う。だとすると、探偵=主人公にとっての本当のラスボスは探偵自身だったのかもしれない。


なお、欠点であり限界がある物語だとも思う。作中でのある詞についての「文句言ってたよ?全然リズミカルじゃないって。まるで数式だって」「馬鹿言うな。…数式はもっと機能的で美しいんだぞ」という台詞はその曲というよりも、その曲が象徴する物語全体への評であり自嘲かとも思う。


こんなに理に落ちすぎる恋物語というのが本当に恋物語なのかは小さくない問題で。そしてまた、これはきっちりと組み上がり過ぎていて、幾つもの豊かな解釈の余地に欠けた作品かとも思う。ただ、あるいはだからこそ偏愛したくもなる。あまりにも理屈っぽすぎて笑えてしまうくらいのこの物語が、僕はひどく好きだ。


あと、きっちり組み上がってるからこそ多面的にみれるわけで、その強みを小説やドラマCDで素晴らしく大展開してる。これだけそういう展開が活きている例って知らない。その点でも画期的な作品だと思う。







ただ「幸せになりたい」って、こんなにも尊く、強い。そんなことを思わせるこの物語が好きだな。
そういう願いは、どうにも大変わがままなもの……と描いてあるのもいいと思う。


当然ながらそれは好みの問題で、それで質を云々すべきではないのは勿論。
ただ、好きなものは好きで、自分は「そういう好みなんだな」と改めて思えた。

WHITE ALBUM2』ネタバレ有り感想その2〜雪菜とかずさの八日間
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20120921