FFTのラスト、ディリータはなぜオヴェリアを刺したのか

2014/3/19に松野泰己さんがFFTファイナルファンタジー・タクティクス)のラムザ一行のエンディング及びその後の顛末について、twitterで語っていて。

2014/3/19 FFT 松野氏の発言
http://togetter.com/li/644047


そこで、ラムザたちについて

「特にアンケート取ったわけではないですけど、1/2ないし2/3ぐらいの方は「生還できなかった」と受け取っておいでのような気がします…」

とあったのに驚いた。そこ、解釈が割れるところだったんだ……。


むしろ、人それぞれ大きく違った受け止め方になるのは(ラムザと対になる)ディリータの最後、「オヴェリアはなぜディリータを刺したのか」、そして、それ以上に「ディリータはなぜ、オヴェリアを刺し返したのか」だと思う。
で、少し検索してみたら、そこは長年話題になってるみたいだけど、どれも自分の受け止め方とまるで違うので、再度、びっくり。


とりあえず、自分なりの解釈を以下、まとめてみたいと思う。
同じようにディリータを捉えていた人って、あんまりいないのかな。ずっと、えらく偏った見方をごく自然なものとしてして来たのかな……。



まず、要旨を箇条書きと、矢印で。


○オヴェリアが刺した理由は、ディリータへの不信。自身への愛は偽りで、ただ利用して捨てるだけなのだと思ってしまった。
 ↑
 ↓
○しかし、ディリータにとって、利用することと愛は両立していた(つまり、すれ違いだった)。
 ↓
ディリータはオヴェリアに自身と妹の姿を重ね合わせ、亡き妹に次いで、おそらく親友ラムザと同じか、あるいはそれ以上に大切に思っていた。
 ↑
ディリータは作中を通じて、(ラムザと)オヴェリアに語らない(語れない)ことはあっても、嘘をついていない。
 ↓
○偽りと裏切りを重ね続けたディリータにとって、(彼にとっての)真実だけを語ることが彼なりの最大の誠意であり、譲れない一線だったのでは。
※オヴェリアさんも大概だけど、この点、ディリータさんの野暮天ぶりもひどすぎるよね、というのはある。
※でも、そこら辺も(あるいはそここそ)彼らそれぞれのキャラクター、そして二人の悲劇の魅力でもある。
 ↑
 ↓
○だが、偽りに翻弄され続けたオヴェリアにとって欲しいのは厳しい真実でなく、安心だったろう。
 ↑
ラムザアグリアスというまっすぐ過ぎる「誠実」のモデルを見てしまった上にその庇護から引き離されたオヴェリアに、複雑なディリータの真情の理解を求めるのは酷でもあった。
 ↑
ディリータはオヴェリアに、彼女に自身を重ねたことは話せても、妹の姿をだぶらせていることは話せなかったのでは。
"誰かの代わり"に愛されるなど(特に彼女が偽りの出生を知らされたあの時にそれを告げるなど)オヴェリアにはたまらないし、ディリータにはそれが分かっただろうから。


ラムザの強烈なアルマ!アルマ!なシスコンぶりは有名だが、ディリータはおそらくそれ以上で、死んだ妹は彼にとっての神であったのでは(だから彼は真情を死んだ妹に誓う)。
 ↓
○おそらくディリータの行動原理は以下の三つ(にそれぞれ、復讐心、立身出世の野心あたりが絡むのだろう)。
⇒妹のような犠牲を出さないように戦乱を治めること。
⇒妹のように偽りの身分を被せられ、利用されきって殺されようとしたオヴェリアの人生を救うこと。
⇒自分自身を誰にもいいように利用などさせないこと。
 ↓
○生きた妹を助けることに全てを懸けられるラムザに対し、死んだ妹はもうどうにもならず、死せる妹のためと信じた目的に突き進むしかなかったディリータの悲哀。


○オヴェリアに刺されたとき、ディリータにはすぐに刺し返すしか術がなかった。
ディリータはオヴェリアを助けたからこその救国の英雄であって、その姫様との対立をいつ駆けつけるかもわからない部外者に知られるわけにもいかなかった。
⇒本当は姫でもなんでもないだのなんだの、暴露されると一巻の終わりの秘密まみれの相手の口を一刻も早く塞がないわけにもいかない。
 ↑
○妹を殺した戦乱の終結(と酷過ぎる貴賤の差の改革?)は彼の神である妹に誓った絶対の願いでもあり、多くの犠牲や裏切りの上のものでもある。
 ディリータはオヴェリアと天秤に懸けてもなお、ようやく勝ち取ったものをそれ以上危険に晒すことを自身に許せない。
 ↑
○「「…そうやって、みんなを利用して!」「…ラムザのように、いつか私も見殺しにするのね……!」
 オヴェリアの呪詛は、偽りに塗れたディリータが最後の一線として守っていた誠意の、それを向けた当の相手(の片割れ)による真正面からの全否定。
 察するにあまりある絶望と怒り。
 ↑
ディリータは目前で、国を預かるものとして家族同然の人質を見捨てる決断を下したザルバックの指示で、アルガスの手によって最愛の妹・ティータを奪われた。
 その彼が救えなかった妹に代わって幸せにしようとしていた相手を、自ら手にかけざるを得なかったという皮肉。
 ↑
○バルマウフラなら裁量で助けられても、あの時、ディリータにはラムザが繰り返したような(戦いながらでも)誤解による恨みをぶつけてくる相手を説得するなんて機会と時間すら、与えられなかった。


 ↓↓↓


○歪んだ国の形とそれによる戦乱、そして自らの無力により目の前で妹を失い、ディータは心の多くを殺してでも力を得て、妹のような犠牲を出さない未来を求めた。
 ↓
○そうして見事に国で最高の力を手にし、ひとまずの平穏をもたらした彼が、二度と出さないと誓った「妹のような犠牲」を勝ち得た地位と平和のために自ら生み出さなければならなかった。
 ディリータの心は再び、より無残に死んだ。
 ↓
○しかし、亡き妹、そして愛したオヴェリアのためにも(最期に彼を守り、助けてくれた妹と違い、まさにその時に彼への呪詛を残した彼女であっても)、死ぬまでディリータは英雄王として、これ以上の犠牲を生まないようにすることに全てを懸けるしかない。
 それしか、彼には残されていないし、そう呪縛されてしまった。
 ↓
○哀し過ぎるから、ディリータの「真実」については、語られないことこそせめてもの手向けなのでは、とも思う。
 ここについても、ラムザとの対比がある。



以下、詳細というか、上記それぞれについての補足など。




【1】ディリータにとっては、死んだ妹が神


FFTというゲーム全体を通じて、神と信仰は大きな重みをもつテーマ。
そして、ゲーム上ではラムザが表、ディリータが裏で作中の歴史上ではその逆。
一対の主人公のうち、ディリータは死んだ妹を自らの神としたのだと思う。


以下、関連する会話等を抜粋。

騎士ディリータ
「ティータが助けてくれた……。」
剣士ラムザ
「え?」
騎士ディリータ
「あのとき、ティータがオレを守ってくれたんだ……。」
(Chapter2「利用する者される者」、BraveStory「ディリータとの再会」)


信仰にはつきものの奇跡であり、それによる新生。
このとき、ディリータは生まれ変わった、生まれ変わることを決めた。
ある種、呪われたとも言えそう。

騎士ディリータ
「オレを信用しろ、オヴェリア。」
「おまえに相応しい王国を用意してやる! オレがつくってやる!」
「おまえの人生が光り輝くものになるようオレが導いてやろう!」
「だから……、そんな風に泣くのはよせ。」
女王オヴェリア
「信じていいの……?」
騎士ディリータ
「オレはおまえを裏切ったりはしない。」
「死んだ妹……、ティータに誓おう……。」
「だから、もう、泣くな……。」
(Chapter3「偽らざる者」、BraveStory「オヴェリアとディリータ」)


神にではなく、ディリータは死んだ妹に誓う。
ここで、オヴェリアはティータを知らない。
後述するように、ディリータはオヴェリアに対して、どうしても妹については語れない。
だから、これは彼女に対する説得として効果的なわけではない。
ディリータはただ、大切にすると決めた相手への真情を、自分にとって至高のものに対して誓いたかったのだと思う。

異端審問官ザルモゥ
「なんと!! 神をも畏れぬ不届き者めッ!!」
「その行為はこの世の秩序を乱し、神の創りたもうた自然の摂理に逆らうことを意味しているのだぞ!」
「貴様は神に逆らおうというのか!!」
騎士ディリータ
「何が“秩序を乱す”だッ!」
「貴様の言っている“秩序”など貴様たちのとって都合の良い“秩序”でしかないッ!!」
「人心を操るために“神”の名を利用し作り出した“秩序”など笑止千万!」
「人々の弱い心につけ込む貴様たちに“神”を語る資格などあるものかッ!」
(Chapter4「愛にすべてを」、「町外れの教会」戦闘中の台詞)

剣士アルガス
「同じ人間だと? フン、汚らわしいッ!」
「生まれた瞬間からおまえたちはオレたち貴族に尽くさねばならない!」
「生まれた瞬間からおまえたちはオレたち貴族の家畜なんだッ!!」
剣士ミルウーダ
「誰が決めたッ!? そんな理不尽なこと、誰が決めたッ!」
剣士アルガス
「それは天の意志だ!」
剣士ミルウーダ
「天の意志? 神がそのようなことを宣うものか!
「神の前では何人たりとも平等のはず! 神はそのようなことをお許しにはならない! なるはずがないッ!
剣士アルガス
「家畜に神はいないッ!!」
(Chapter1「利用する者される者」、「盗賊の砦」戦闘中の台詞)


ディリータは死んだ妹の魂が安らげ、彼が感じるその意志の下、彼女のような犠牲を出さない秩序を目指したのでは。


ラムザの強烈なアルマ!アルマ!アルマ!なシスコンぶりは有名(?)だけれど、

○参考(?)
「1ページで解るFFT!(小梅ぃ)」
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=207874
※こちら、各所で見かけていた画像で「二次元画像詳細検索」などでも出典が見つからなかったのですが、コメント欄で出所を教えて頂きました。ありがとうございます(3/24追記)


彼と対になるもう一人の主人公であるディリータの妹への思いはそれ以上だったのではないかな、と。
そして、生きた妹を助けることに全てを懸けられるラムザの姿の裏に、死んだ妹はもうどうにもならず、死せる妹のためと信じた目的に突き進むしかなかったディリータの悲哀があると思う。


【2】ディリータのオヴェリアへの思いと、二人のすれ違い


可能ならば、改めてこのゲームを振り返って欲しい。
作中を通じて、ディリータは(ラムザと)オヴェリアには語らない(語れない)ことはあっても、嘘をついていなかったと思う。


偽りと裏切りを重ね続けた(そうせざるを得なかった)ディリータにとって、(彼にとっての)真実だけを語ることが彼なりの最大の誠意であり、譲れない一線だったのでは。
それは彼にとって、(ティータとの幸せな日々を共有もする)親友・ラムザと同じくらいかあるいはそれ以上にオヴェリアが大切な相手だったことを意味するようにも思う。


ただ、ディリータはオヴェリアに自身についてあまりにも重要なこと、彼の人生を決定づけた妹・ティータについて語ることができず、そのためにオヴェリアはディリータという人間を深く知ることが出来なかった。
二人のすれ違いにはいくつも理由があるだろうけれど、これが核心なのではないかな、と。


まず、そもそも、ディリータがオヴェリアを愛するに至ったことについて(彼に関するほかの諸々のことと同様)、妹・ティータが深く影を落としていて。

女王オヴェリア
「……私の生きてきたこれまでの時間はいったい何だったの?」
「王女の身代わりとして育てられ生きてきた……。」
「ふふふ……、おかしなものね。」
「王女なのに王都から離れた修道院で一生ひっそりと暮らさなければならないなんて……、」
「どうして、私だけがそんな風に生きなければならないんだろうって、ずっと考えていた……。」
「でも、私一人が我慢することで畏国の平和が続くならそれでもいいって思ってたわ。」
「あの悲しみ、あの寂しさ……、いったい何だったの?」
騎士ディリータ
「おまえはオレと同じだ……。」
「偽りの身分を与えられ生きてきた哀れな人間だ……。」
「いつも誰かに利用され続ける。」
「努力すれば報われる? そんなのウソだ。」
「努力しないでも、それに近いヤツだけが報われるのが世の中の構造だ。」
「多くの人間は与えられた役割を演ずるしかない……。」
「……もっとも、大半の人間は演じていることすら気付いていないけどな。」
「オレはそんなのまっぴらゴメンだ。オレは利用されない。利用する側にまわってやる!」
「オレを利用してきたヤツらにそれ相応の償いをさせてやる!」
(Chapter3「偽らざる者」、BraveStory「オヴェリアとディリータ」)

ベオルブ家の三兄弟、特にラムザからは実の妹のように思われていたティータは、そのためにベオルブ家の娘と間違われて賊に人質とされ、アルガス曰く(指示を下したザルバックの心は語られず、分からない)そもそも実際にはそこにいるべきでなかった、貴族たちと比べれば家畜も同様の存在だからと無残に見捨てられ、殺された。


ディリータは自分以上に、オヴェリアに妹を重ねずにはいられなかったはずで。
繰り返すけれど、ディリータにとって妹の死はその後の人生の中心にある。
それで決定づけられた、多くを偽り踏みにじり進む生き方の中で、救えなかった死せる妹と共に、目の前にいる生けるオヴェリアが決して裏切らず、護り導くべき、彼の拠り所となる存在となるのは自然なことだったろう。


しかし、ディリータは彼自身を語る上で欠かせない妹・ティータについて、オヴェリアに話すことができない。
「助けられなかった妹の身代わりに、お前を幸せにするんだ」ということかと思われても仕方がなく(実際、その側面は大きかったのでは)、特にこの時には話せる訳がなくて。


上記場面の直後のディリータの激白とオヴェリアの応えを再度、それに加えてラムザとのやりとりも引いてみる。

騎士ディリータ
「オレを信用しろ、オヴェリア。」
「おまえに相応しい王国を用意してやる! オレがつくってやる!」
「おまえの人生が光り輝くものになるようオレが導いてやろう!」
「だから……、そんな風に泣くのはよせ。」
女王オヴェリア
「信じていいの……?」
騎士ディリータ
「オレはおまえを裏切ったりはしない。」
「死んだ妹……、ティータに誓おう……。」
「だから、もう、泣くな……。」
(Chapter3「偽らざる者」、BraveStory「オヴェリアとディリータ」)

剣士ラムザ
「きみは自分の野心のためにオヴェリア様を利用しているのか?」
騎士ディリータ
「……さあ、オレにもよくわからん。ただ……、」
剣士ラムザ
「ただ?」
騎士ディリータ
「彼女のためならこの命……、失っても惜しくない……。」
剣士ラムザ
ディリータ……。」
騎士ディリータ
「おかしいか……?」
(Chapter4「愛にすべてを」、BraveStory「ディリータの想い」)


ディリータはきっと、本心を語っている。
でも、オヴェリアが彼を信用しようにも、それは無理だろう。
妹の死と彼にとってのその意味を語れない以上、言葉はただ言葉に過ぎず、ディリータという人間がオヴェリアには分からなかっただろうから。


だから、

占星術士オーラン
「そのために、おまえはすべてを利用する……?」
聖騎士ディリータ
「いけないのか?」
(Chapter4「愛にすべてを」、BraveStory「ディリータの裏切り」)

が決定的になってしまう(このとき、オヴェリアが会話を聞いていて、衝撃を受けている演出がある)。
これを「裏切り(の予告)」だと受け取ってしまう。


なお、≪ディリータさん、「オヴェリアとディリータ」の時点では最悪のタイミングだから避けるにしても、いずれ機を見て、話せなかったの?≫という疑問は当然出るわけだけども。
≪最初は妹を重ねていたが、そのうちにお前自身を〜云々≫だかなんだか、いろいろやりようはあるだろうというところではある(ディリータの真情としてはどうだったのだろう?わからない)。
それこそ国中の人間を騙しに騙した手腕を奮ってでも≪そこはなんとかケアしとこうよ≫というところ。


でも、ディリータは自分や妹に与えられていた「偽りの身分」のトラウマや、必要に迫られて自ら嘘と裏切りに首までどっぷりつかってしまった分、オヴェリアにはそれをしたくなかったのだろうな、と。
≪利用もしている、それは否定できない、だが心から愛してもいる、分かれ、分かってくれ!≫という純情な男の浪漫とか、なんかそういうの。
ごまかしも丸め込みもできるけど、結果としてでもお前の存在自体が都合よく利用してしまっていることになるんだ、それをあえて否定しないのが俺の誠実さ……とかいう感じの。


しかし、それ、能動的に人を利用する側に回ったディリータだからこその論理であり思いであって(いかにも男性的な……とかいうとまずいのかな)。
ひたすら受動的に周囲の思惑に翻弄され続けたオヴェリアにとってはたまったものではないよね、欲しいのはなによりもまず「安心」だったよね……という見方はあるだろう。というか、そう思う。
オヴェリアがディリータを知ることができなかったように(知ろうとはしなかった?)、ディリータも(妹の代償でない一人の人間として)オヴェリアを知ることがなかった(知ろうとはしなかった?)、という話なのかもしれない。


そして、オヴェリアにはアグリアスラムザという裏も表もない、あまりにもわかりやすくただただ善意と保護を与えてきた人間との出会いと別れがあったわけで。
真っ直ぐなままであることが出来る道を歩んだ(そうでない道を拒み、選ばなかった)がゆえに彼らには彼女を守れなかった……という事実から目を背けて、偽りだらけの中で彼らだけが真実だった!とすがってしまうと、ディリータの「誠実」は伝わるわけもない。



【3】そして、ずぶっ、と。

畏国王ディリータ
「やっぱりここにいたんだな。みんな探していたぞ。」
畏国王ディリータ
「ほら、今日はおまえの誕生日だろ? この花束を……」
畏国王ディリータ
「オ…、オヴェリア…?」
王妃オヴェリア
「…そうやって、みんなを利用して!」
「…ラムザのように、いつか私も見殺しにするのね……!」
畏国王ディリータ
「……ラムザ おまえは何を手に入れた?」
「オレは……」
(Chapter4「愛にすべてを」、BraveStory「手に入れたもの」)


オヴェリアはラムザの名前を出し、かってアグリアスに渡された短剣で、誕生日の花束を渡しにきたディリータを刺す。
この、溢れ出る地獄感。
偽りに塗れたディリータが最後の一線として守っていた(おそらくはそれを心のよすがともしていた)誠意が、それを向けた当の相手の片割れが、もう片方の名を挙げた呪詛と刃によって全否定されてしまう。
その絶望と怒りは察するに余りある(これも前述の通り、オヴェリアの心情もそれはそれでもっともで、だからこそ悲劇として純度が高い)。


ひとつ、妹のような犠牲を出さないように戦乱を治めること。
ふたつ、妹のように偽りの身分を被せられ、利用されきって殺されようとしたオヴェリアの人生を救うこと。


この二つはディリータにとって、同じくらいの重みのある願いだったのではないかと思う。
オヴェリアを愛し、愛されることで、個人としてディリータ自身が救われたい、という望みも含めて。
そして、二つ目を叶えることが一つ目の達成と維持にも大きく繋がってくる……というのはディリータの思い描いた青写真だったわけで。


しかし、刃をその身に埋められ、その声を聞き、眼を見た時、ディリータは追いかけ続けたふたつめの大きな望みが潰えたことを悟らざるを得なかったのでは。


そして同時に、ひとつめの決して裏切れない(妹の魂に捧げるものでもあり、多くの犠牲や裏切りの上に掴んだものでもある)望みが危機に瀕していることも、取るべき手段も、彼には分かってしまう。
ディリータはオヴェリアを助けたからこその救国の英雄であって、その姫様との対立をいつ駆けつけるかもわからない(「みんな探していたぞ」)部外者に知られるわけにもいかない。
本当は姫でもなんでもないだのなんだの、暴露されると一巻の終わりの秘密まみれの相手の口を一刻も早く塞がないわけにもいかない。


あの日、ディリータは目前で、国を預かるものとして家族同然の人質を見捨てる決断を下したザルバックの指示により、アルガスの手で最愛の妹・ティータを奪われた。
この日、ザルバック以上の力を手にし責任を負ったディリータは、自ら勝ち取ったものを守るため、愛し、幸せにすると誓った相手を自ら殺さざるを得なかった。

騎士ディリータ
「ティータが助けてくれた……。」
剣士ラムザ
「え?」
騎士ディリータ
「あのとき、ティータがオレを守ってくれたんだ……。」
(Chapter2「利用する者される者」、BraveStory「ディリータとの再会」)


最愛の妹を失った日、与えられた地位も将来も奪われたディリータは、心の中に彼を守り、導く、彼の神を得た。
最愛の女性を失った日、最高の地位と力を持つディリータは、心の中の彼の護り手も喪ってしまったのではないかと思う。
それでも、ティータとオヴェリアをはじめ、積み上げてきたあまりに多くの犠牲のためにも、ディリータは死ぬまで英雄王として、これ以上の惨禍を生まないようにすることに全てを懸けるしかない。
そして、彼にはそれが出来てしまった。


哀し過ぎるから、ディリータについては「真実」が語られないことこそが、せめてもの手向けかと思う。
そこにも、ラムザとのむごい対称性があるとも思う。