続・『魔法科高校の劣等生』の司波達也・深雪兄妹の異常性について(原作小説最新巻まで既読のファン向け)

佐島勤魔法科高校の劣等生』の最重要人物、司波達也司波深雪兄妹のキャラクターについて扱った先日の記事
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20140511/
の続編です。



今回は、別の方がpixivで書かれた『魔法科高校の劣等生』二次創作小説が、

魔法科SSの作品一覧
http://www.pixiv.net/novel/member.php?id=4818778


「これは原作ファンなら、原作小説及びキャラクターの解釈としてもものすごく面白くもあれば、驚かされつつも納得させられるところも多くあるのでは」


と思えたので(というか、まさにそういう趣旨で僕も他の方から紹介されたのですが)、その感想というか、
作者の方に送らせて頂いたメッセージを再編集する形で記事を書いてみたいと思います。


なお、今回の記事は割合はっきり、「原作小説最新巻まで既読のファン向け」だと個人的には思います。
あえていうと、アニメ版から入った人や、初めから原作小説に関心が薄い人には相性が悪い内容かとも思いますし、いろいろとネタバレも含みます。
以上、注意書きをさせて頂いた上で、以下、本編です。




先掲の二次小説群、僕はとりわけ、


「【魔法科SS-2】一番大切なひと」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1316659


を中心に、とても面白く感じられました。


たとえば、SS-2では司波達也の内面について考える上で。
「戦略級魔法師の心理的ケア」、公認された「使徒」として扱われる条件といった作中世界の重要設定にまで範囲を広げもする形で想像を巡らすのが、
なんというか「『魔法科高校の劣等生』という作品のファン」らしくてとても好きです。


あと同じくSS-2について。
原作では主に達也視点で話が進むこともあり「妹の至らないところを兄が指摘し、フォローする」という関係が目立ちますが。
こちらでは妹が兄と自分それぞれの特殊性とその差異を認識した上で。
兄の大切なもの(しかし兄自身はあまりそうと気づいていない、認めていない)を護り育もうとしているのでは……という視点は大胆かつ魅力的とも思います。
ここに関しては、個人的に特に教えられるところが大きく感じられた視点とも思えました。


また、こうした部分については原作との整合性という点でも、実は検討していっても矛盾は少ない……
あるいは作者(佐島先生)の捉え方によく沿った解釈なのかもとも思わされるところもあります。


次に、最初の


「【魔法科SS-1】いつまでも初恋のときめき」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1315410


から継続して。
「この兄妹はなぜ、これだけ問題を抱えつつ魔法科高校で学生生活を送ろうと望んだのか」について。
原作で提示されている達也の「ここでしか閲覧できない資料を見る」「卒業資格を取る」という以外の強力な理由を示しているということで、
優れた原作補完になっているようにも思えました。


「【魔法科SS-4】無防備な妹」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1317466


で展開されているのはまず、以下に引用する部分を中核においた、司波達也というキャラクターの解釈かと思います。

「達也は「妹」という存在に対する「一般的な兄」の行動原理を、「自分の妹が嫌がらないこと」と「自分の妹が喜ぶこと」の二点のみを手掛かりに構築していた。そこから「深雪がすこぶる良くできた妹であること」を差し引いて「一般の兄妹」を想定しているわけだが、自分たちの関係をヒナ型に選ぶこと自体が倒錯しているとは気付いていない」


その捉え方が鋭くもあれば個人的に妥当とも感じるので、そこからの結構飛躍なども含む展開もとても楽しく見ていられる感がありました。
特に、

「その上で、深雪を構成する遺伝子は、母や叔母たち以上に美しい肌と、均整の取れたプロポーションを与える「突然変異」を起こしている気さえする」

なんてところは、特に「佐島節」が再現されているようにも思え、愉しく、嬉しいところでした。


「【魔法科SS-番外】「私もブラザー・コンプレックスなんです」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1391159


はまず単体としても面白い二次創作と思えたのですが。
「司波兄妹の特殊な関係は、たとえば普通の(その範疇でかなり進んでしまってる)ブラコン(&シスコン)のキャラクターとエピソードを持ち込み、
 相異を描くことで分かりやすくしたり、より映えたりもするのでは」
という視点の持ち方としても興味深く感じられました。
勿論、原作においてもエリカと兄(と渡辺摩利)などは、意識してその役割を担っているだろうとも思えるところではあります。


そして、「情動の深いところが壊れた司波達也とその妹・深雪」の関係及び心の在り方に関しては。
やはり心が壊れた四葉深夜と、(やがて深雪がそうなると予定されているように)
四葉の当主となったその妹・真夜の関係及び心の在り方と原作の時点である種セットにもなっているところ。


「【魔法科高校】私への嫉妬【真夜×深夜】」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2029009


はそれ以前のSSで描いた兄妹の関係の先行者のような描き方にもなっていて。
その面でも興味深い一篇になっていると思えました。


リーナ関連に関しては、原作小説での扱いは正直にいってしまうと、あまりうまくない……
(もっと司波兄妹及びそれぞれとの比較を活かして、リーナを通して彼ら二人も彼も彼女も深く描けるし、リーナも魅力的に描けるのでは)
と思えてしまうところがあるのですが。
その不足部分を遺憾なく利用して存分に妄想……もとい想像の翼を広げているようで、とても愉しいです。



再掲する前回の記事

「『魔法科高校の劣等生』の司波達也・深雪兄妹の異常性について、原作小説八巻まで(というか主に八巻)をふまえた話。 」
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20140511/

の中では、


司波達也というキャラクターに「感情移入」するというのはあまりに難しいのではないか」


といったことを迂闊に書いた結果、「感情移入」という言葉の意味と扱いについて、記事中でも紹介している

「その感情移入は自己投影に近いかどうかを見分けてから語る」(ピアノ・ファイア)
http://d.hatena.ne.jp/izumino/20140515/

といったお話を伺うことになったりもしました。


で、そのいずみのさんの記事に言う


「共感/自己投影を行っている度合いより、同情/マインドリーディングの度合いが優った方の「感情移入」」


の好例としても。
こうして感想を書かせて頂いたSSを紹介頂いたのかな、と思うところがあったりもします。


実際、読ませて頂いていて感心と共に、勝手にザクザクと自分に刺さる耳の痛さも感じてしまっていたりもしました。
ともあれ、『魔法科高校の劣等生』という作品の一ファンとして、とにかく面白く読むことが出来たSSでした。


原作小説ファンの方なら、いろいろ愉しめもすれば、興味深さにも溢れている二次創作小説群かと思います。
今後新作も予定されているとのことで、楽しみです。