その笑顔は凝縮された時間を。/アイドルマスター シンデレラガールズ第1話感想。

アイドルマスターシンデレラガールズ』第1話は見事なまでの大好評。
既に下記のように優れた感想記事も数多く出ています。

武内Pの視界 〜『アイドルマスターシンデレラガールズ』第1話のキャラ描写〜/あにめマブタ
http://yokoline.hatenablog.com/entry/2015/01/12/224421
アイドルマスター シンデレラガールズ』第1話 シンデレラたちの始まりに/あしもとに水色宇宙
http://d.hatena.ne.jp/tokigawa/20150111/
アイドルマスター シンデレラガールズ』 第1話 「Who is in the pumpkin carriage?」 感想/Parad_ism
http://d.hatena.ne.jp/shirooo105/20150113/1421075255
アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第1話 またアイマスを好きになる1話!(前編)/そんなことよりアイマスの話をしようぜ
http://ch.nicovideo.jp/gouzou/blomaga/ar707517
アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ1話の重箱の隅/全てが台無し-雑記帳-
http://dynasick.cocolog-nifty.com/blog/2015/01/post-f835.html


なので、この感想ではそこら辺で触れられている話はあまり深くは触れず、範囲を絞り込んで。
デレマス1話の中でも個人的に一番好ましく思えた公園での島村さんの笑顔、それに繋がっていく、特にその前後に満ちた暗喩に注目してみていきます。


まずは、Pが初めて島村さんと共に凛の花屋に彼女を訪ねた場面から。

ここでハナコが初登場。
原作ゲームにおける「[ニュージェネレーション]渋谷凛」のイラストから抜け出てきたような姿であるわけですが。

注目したいのは凛が戸惑いをあらわにやや退き気味なのに対し、じっと島村さん(と武内P)を見つめるハナコの姿。
結論から書くと、ここから一貫して愛犬は主の心を先行して代弁し続けています。


場面は公園に移り。
早くも島村さんによく懐いているハナコの姿は、凛の好感の現れです。

そこから"島村さんがハナコの名前を凛のそれと間違える"。
ハナコが何を示しているかは、そんな一幕を通じても重ねて示されているのだとも思います。
そこからぎこちないやりとりも経て、互いに互いを下の名前で呼び合って。


少し脱線すると、こんな場面も素晴らしい描写だったわけですが……ともあれ。


凛もアイドル志望だというのは、島村さんの独り合点だと判明。
彼女の驚きの叫びの後にはハナコのこんな姿を挟み、

微妙な空気に。

※更にこちらの記事で説明されているようにボール遊びをする子どもたちの姿でも心情が重ねて示されます。
アイドルマスター シンデレラガールズ』第1話の子供/幻視球ノート
http://bono1978.hatenablog.jp/entry/2015/01/12/230735


で、そこから凛が共通の関係者である武内Pの「変」なところや、島村さんがアイドルになろうと思った理由を尋ねる流れがあり。
(ここでは落ち込む相手をみて、凛が積極的に話題を振っているところも優れた性格描写です)。


そして、なにより素晴らしいと思えるのが、次の台詞からBパートの終わりまで凄まじく濃密な描写が続いていく場面。
語られる言葉と画との連動がひとつひとつ、味わい深いと思えます。

「でも、夢なんです」
「スクールに入って、同じ研究生の子たちとレッスンを受けながら」
「私、ずっと待ってました」
「アイドルに……キラキラした何かに」
「なれる日がきっと」
「私にも来るんだって」
「そうだったらいいなって」
「ずっと思ってて」







桜が咲き誇る公園の一角で、藤の花、紫陽花、アマリリスといった初夏の花が満開に。
藤の花の開花時期は概ね4月下旬から5月下旬。
紫陽花は5月下旬から6月中旬。
マリリスは5月から6月頃。
示されているのは現実的にはほぼあり得ない、「夢」のような風景です。
なお、作中世界において「あり得ないけど実際に咲いている」のか、作中人物である島村さんや凛が幻視しているのかといったことは割合どちらでもいいことと思えて。
重要なのは、「踏み込んだ」先の「時間」がここに先取りして示されていることかと思います。
それについては、改めて少し後で触れることにして、続く描写に進みます。

「そうしたら、プロデューサーさんが声を掛けてくれたんです」
「あいつが…?」

この構図の中、桜の一花がまるごと舞い降りてきて、赤丸で示したところに音を立てて落ちた(明確に効果音が入っている)動きが描かれています。
島村さんはこの後、それを拾いに行っているんですね。

島村さん「……ん…」


(立ち上がり歩き出す島村さんに反応して身を起こすハナコ。
 ここで抜き出したのは二コマだけですが、その動きを細かく丁寧に描いた一連の流れが素晴らしい)


そしてこの、桜の木の陰の下並んで座っていたところから、桜の季節の名を持つ彼女が日向へと駆け。
※(今は藤の花の下のブランコに子どもたちはいません。彼らはもう流れの中の役割を終えたから)

かがみ。

桜の一花を拾い大事に包み抱え、立ち上がり振り返り。

その上でのあの笑顔。

一応静止画キャプチャは置きましたが、一連の動画としてあまりにも素晴らしい場面です。
ともかく、本編動画で何度でも見るのが良いのではと。


ともあれ。
多くの人が既に指摘していることですが、序盤の同期の写真やその周辺の会話で示されていた通り、島村さんは「同じ研究生の子たち」が皆夢破れて去っていく中、「ずっと待って」いつづけた子で。
その待ち方がどれほどの努力を伴っていたものであったかは、この場面に到るまでのレッスンや武内Pとのやりとりで描写が積み重ねられてきています。
渋谷凛は(本田未央も)15歳、島村卯月は17歳なのだという意味も改めてすこし考えさせられるところでもあります。
舞い散る桜、地面に落ちた花びらも強調する描写は島村さん(とかつての仲間たち)の過去を象徴的に示すもの。
そして、ここで拾い上げた一花はとりわけ、彼女自身を示すものでしょう。
台詞にもある通りに武内Pが拾い上げたのでもあり、それに、島村卯月という少女自身が何度選ばれることなく地面に落ちても自らを繰り返し拾い上げてきたということでもあります。
島村卯月の「満点スマイル」(元ゲームにおける「[ニュージェネレーション]島村卯月」の特技名)は、そういう彼女の笑顔であるわけです。

その過去の重みを、桜は凛(と視聴者)に示します。


一方で、先ほど示した、島村さんの台詞の背景に次々に映された初夏の花々。
これは先取りされた「踏み込んだ」先にある未来なのだと思います。


藤の花言葉は「歓迎/決して離れない」等。
紫陽花全体は「移り気、あるいは逆に辛抱強さ」、白い紫陽花に絞ると「寛容」等。
マリリスは「誇り」「内気」「素晴らしい美しさ」等。


それらが「踏みこんで」いく島村さんや凛の姿の暗喩であるのか、あるいは(本田さんを始めとした)これから出会う仲間たちのそれなのかはちょっと分かりません。
ただ、島村卯月がそこにあるものへの期待・希望ゆえに笑顔で頑張り続けてきた未来のかけらを、凛はここで先取りして目にしたのだと思います。


まとめると。
島村卯月のあの笑顔は「踏み込んだ」過去と未来の「時間」を凝縮して見せたものでもあり、渋谷凛はそれに撃ち抜かれたのだと思えます。

言うまでもありませんが、多くの方が解説している数々の「時計」の寓意を引くまでもなく、「時間」はこの1話、おそらくは作品全体においても明らかに重要なキーワードです。


そして、そのあまりに見事な笑顔を目にして心の枷が緩んだ凛の手から離れる手綱。

ここの動きが細かく丁寧に描かれるのは、立ち上がった島村さんへのハナコの反応のそれと同期するものとも思えます。


そして、ハナコ"もまた"一目散に桜の木陰から走り出て、武内Pの元へとまとわりつく。


島村さんに対してとは違い、まずはキャンキャンと吠えてみせているのもなんとも愉しい。


そこで武内Pはゆっくりと"かがみこみ"、"手綱を拾い上げる"。

まるで、島村さんが舞い落ちた桜の一花に対してそうしたように。


ここでこの武内Pという人物、甘えるように鳴き、しっぽを振り回して懐くハナコの手綱をそっと差し出し、凛自身に返すんですね。


その上で、今ここで、こうして伝えるべきか大切に検討し躊躇いもしていることが繊細な仕草の芝居で描写された上で、彼はしっかりと伝えます。

「……少しでも、君が夢中になれるなにかを探しているのなら……一度、踏みこんでみませんか?」
「そこにはきっと、今までと別の世界が広がっています」


夜、凛はひとりじっくりと自室で思いを固め、島村さんに自分が勧めもした白いアネモネを見つめ、決断をします。
そうできるよう武内Pが促したのだし、あれだけ執念深くこだわりながら、激しく揺れもすれば自分に傾いてもいた心に付け込んで話を決めてしまうことなど断じて良しとせず、改めて彼女自身にじっくり考えさせることを選んだ。
その在り方が、寡黙な武内Pという人物を雄弁に物語っています。


付け加えると、武内Pは島村卯月に対しては「笑顔です」「はい。……説明不足でしょうか」と語った一方で、渋谷凛にはこう言葉を紡いでいて。
どちらも誠実に相手を見据え、大切に選び抜いてのそれぞれに相応しい言葉であり、その掛け方であるわけです。
勿論決して器用ではなく、不都合も生じている(警察のお世話になりそうだったり)わけですが。
武内Pは人間としてまたプロデューサーというプロフェッショナルとしてこうした関わり方を自ら選び取っている、高いコミュニケーション力の持主なのだと思います。


また、凛の決断について。
まずPが惚れ込み凛も惹き込まれた、その笑顔を理由に島村さんを"拾い上げ"選んだというPが自分についてもまだ見せたことのなかった笑顔を理由にこうも執着していることから、凛がPが誘う自分の可能性に踏み出し、それを彼に託す強烈な説得力が出ています。
武内Pの造形はデレマス1話(及びおそらくこれから全体)の筋立ての中で素晴らしく機能するものとして輝いていて、凛・島村さん・武内P(と最後の本田さん)の関係性は緊密に結びついたものとして表現されてたと思うわけです。

※17日追記。
この記事で特に注目して書いている「拾われるもの」「拾うということ」ですが、まず最初に示されるべきは「シンデレラ」と「ガラスの靴」(冒頭、武内Pは転げ落ちてきた箱からこぼれ出たガラスの靴を拾い、階段の上を、そこにいた島村さん、凛、本田さんを見上げる)であったことは明らかかと思えます。

そちらについてはこの記事あたりが詳しいです。

二つの魔法から始まるシンデレラストーリー (シンデレラガールズ:第一話考察)/わかば色のルーフトップ
http://azure19s.blog.fc2.com/blog-entry-163.html

反省を書いておくと、冒頭のそこら辺のあれこれについては他の方の記事・発言に詳しいのでそこは自分の感想記事では意識的に避けようかと思ってしまったのですが。
避けようとしても避けられないように1話全体にも、おそらくは作品全体にも掛かってくる描写であるわけですから、ひどく間違った選択でしたね。


とりあえず、私からは以上です。
なお、二話以降の自分の感想及び他の方の気になった感想などについても順次下記togetterにまとめていったりしますので、そちらもよろしくお願いします。

デレマス(アニメ版アイドルマスターシンデレラガールズ)感想
http://togetter.com/li/768711