『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』〜パロディを支えるもの


……幼い頃、ホームズに余り親しまなかった私には、この作品の面白さは本当に十分には感じることが出来ていないのに違いない。しかし、そんな不届き者にさえ、ホームズがバイオリンを弾く場面に込められたものは、芯まで打ち通すように響くように思わずにはいられなかった。否応なく、マリオン・マナリングの『殺人混成曲』------特に「エラリイ・クイーンによく似た」マロリイ・キングの"超猫"の推理------も連想させられる。勿論、北村薫『ニッポン硬貨の謎』もだ。《真に優れたパロディを支えるのは、ただ対象への愛である》------余りにも当たり前のことを、"当たり前"とは最も懸け離れた強さで感じずにはいられない。

また、余りにも映像的なイメージ喚起力に優れた文章に、まだ見ぬこの作品の映画版をもう観てしまったような気にもさせられてしまうのも見事だ。

それにしても、作中幾度も現れる脚注を目にする度に、どこまでもホームズ的な物語の展開を追う度に、深い深いファンは一体どれだけ楽しんだことだろう。それを思うと、自然にこちらまで嬉しくなってきてしまう。
……そして、いつか、ニコラス・メイヤーがホームズの物語へと捧げたものに負けない何かを、北村薫の《私》の物語---L'histoire---に差し出せるだろうかと夢想する。その夢さえ叶うなら、他に何も成し遂げられなくてもそれでいいのに。