谷地恵美子『オモチャたちの午後』〜『明日の王様』へ繋がる原型


オモチャたちの午後(ゆめ) (1) (YOUNG YOU特別企画文庫) オモチャたちの午後(ゆめ) (2) (YOUNG YOU特別企画文庫) オモチャたちの午後(ゆめ) (3) (YOUNG YOU特別企画文庫) オモチャたちの午後(ゆめ) (4) (YOUNG YOU特別企画文庫)

読む中で嫌でも気付かずにはいられないのは、主役二人の《仕事》が、具体的にはほぼ全く描かれないこと。
放送作家の台本が、主人公・友希が書くようになる芸能コラムがそれぞれどういったものか(特に前者)、読者にはろくに見えてこない。はっきりいえば、「放送作家」「コラムニスト」という"名札"が人物の上に貼ってあるだけ、と思えてしまう。
また、脇役も実に便利に脇から取り出されては放り出される感じで、『サバス・カフェ』より更に扱いが悪い。あえていえば、ご都合主義だ。


ただ、それにも関わらず、この『オモチャたちの午後』が十分以上に《読ませる》作品であるのは、作者が主人公の基本的・本質的な設定には決して型通りでもご都合主義でもない、深い深い思い入れがあり、かつ、その思いを適度に抑えられた表現とユーモアを持って描くだけの知性とバランス感覚、そして作画の技術を持ち合わせているからだろう。

それだからこそ、この作品の数年後に、基本的な構図はそのままに、それら欠点を大きく緩和した上で、更に多くのものを新たに加えて見せた傑作『明日の王様』が生まれる。その間の作者・編集者の感嘆させられる他ない努力と進歩には、ひたすら頭が下がる。本当にすごい。