小川一水『ハイウイング・ストロール』〜いいゲームの企画になりそう。


『群青神殿』がアニメの原作の優れた素材なら、こちらはゲームの企画のいいベースになりそうだ。機種・武装・パートナー・ステージ・ミッションの選択、装備の開発、トレーディング、ボスキャラ、対戦機能、連携機能と、必要もしくは望ましい要素が素晴らしく揃っている。


これも例によって箱庭シミュレーションものだが、今まではゲームでいうなら『シヴィライゼーション』だったのが、この作品は雰囲気が明るく前向きになった『フロントミッション』みたいだ。ついでにそこに『パンツァー・ドラグーン』とか『エースコンバット』といったものも混ぜ合わせると、素敵な合成物が出来上がりそうだ。
なお、小川作品でおなじみのコンセプトである、「明確に提示される世界共通の困難・問題の直接的な除去・対抗は実は真の課題ではなく、それを通じて求め得るものにこそ、本当の希望が在る」というものも、ゲームという形式に向いていそうだ。主に日本のユーザー向けだけど。


ちなみに、この作品からは『風の谷のナウシカ』を連想する向きもありそうではあり、実際に大いにイメージの元になっていそうではあるが、まず、反ユートピア論と反戦思想の融合はそれほど珍しいコンセプトではないので、殊更にそこに注目しても詰まらなそうではある。
また、「物質文明と大自然」などということについては、小川一水は、某国の基本的な科学思想に代表される、自然の多様性や可能性を見縊る考え方の余りのお粗末な単純さや不合理さに呆れてこそいても(ダーウィンドーキンスも断じてアメリカには生まれず、イギリスだからこそ生まれ得たというのは実に象徴的だ)、基本的には「より合理的に技術や知恵を使うにはどうするべきか」というごくまっとうな発想------要するにYes or Noではなくmore betterを求める発想------を基本線にしているので、そこに根源的かつ深刻な葛藤は無い。要するに、自然の仕組みを「今の人間の技術で把握し切れることよりも、遥かに高いレベルでの調和と均衡を備えた技術体系」として捉え、そのレベルの高さに敬意を払っているのであって、それ以上でもそれ以下でもない。そこを宮崎駿と比較しようとしても、スタンスが本質的に全く違うのだから、あまり意味があるようには思えない。というか、そもそもこの話には、《自然を偽装して作られた精緻な人工物》の話は出てきても、《自然そのもの》のことなど、ほぼ全く出て来ていない。
なお、個人的にはそうした小川一水の発想は、実に気持ちのいい、完全に共感できるものだと思う。