『マイ・フェア・レディ』〜ああ、もう、本当にいい映画だなぁ、チクショウ!!


マイ・フェア・レディ スペシャル・エディション [DVD]

ストーリーは最高、キャスト文句のつけようが無し、カメラワークも万全、ファッションは高雅……そして音楽は名曲揃い------というより、傑作でない曲が一つもない。
ミュージカルの一つの理想を極めた『雨に唄えば』には一歩譲っても、『イースター・パレード』や『バンドワゴン』とも張り合えるかあるいはそれ以上の、ミュージカル映画の名作中の名作に思える。

しかし、オードリー・ヘップバーンにイライザ役を奪われたジュリー・アンドリュースはたまらなかっただろうなぁ。あれだけの素晴らしい歌声(CD『ベスト・オブ・ブロードウェイ』で、その大ヒットが映画化につながったミュージカル版での「踊りあかそう」を聴いた)で大当たりを取りながら、何で映画では外されないといけないのか、と地団駄を踏むような思いだっただろう。その悔しさが、『サウンド・オブ・ミュージック』の名演に繋がりでもしたんだろうか。
ただ、映画を観てしまうと、これはもう、オードリー・ヘップバーンが選ばれた理由は全くもって説明不要で、ただただ感嘆するばかり(ジュリー・アンドリュースは良くも悪くも、とことん、"職業婦人"、特に家庭教師(ガヴァネス)が似合い過ぎる。ようするに『サウンド・オブ・ミュージック』であり、『メリー・ポピンズ』だ)。


そして、見事に《オードリーの魅力が溢れる映画》になった代わりに、原作を滅多切りにぶち壊した------おそらく原作者のカポーティはとんでもなく怒っただろうとしか思わされた------脚本となった『ティファニーで朝食を』とは異なり、『マイ・フェア・レディ』は原作となったバーナード・ショウ『ピグマリオン』の持ち味を十分に生かしたのであろう、いかにもバーナード・ショウ的な空気をも備えた見事なシナリオの魅力をも兼ね備えている(同じように結末を原作のものからハッピー・エンドに変更してはいても、その転換の巧みさが全く異なる)。
筋としての魅力を考える上で最も決定的だったのは、イライザと、いまや《中産階級》となったその父親のやり取りから、『教会へ行こう』に繋がる一連の場面だろう。


「だが、文無しに戻るのは怖い。その勇気はないんだ」


「ふん、自立しろ。自分の足で立つんだ」


そして、憤然と去るイライザを、一呼吸の間だけ、十分な思い入れをみせて見送る父親の姿。


続く『教会へ行こう』の部分も含めて、イライザの父に扮したスタンリー・ハロウェイの演技は、この映画最高の名演。
この場面こそが、とことん甘いだけの御伽噺にも、それに見せかけた痛烈過ぎる皮肉にも傾きすぎない、絶妙なバランスを映画に与えている。


他にも、曲の魅力について書けばきりがないし、女優の魅力を引き出すジョージ・キューカーの手腕も、一つの歌や発言がシチュエーションや人物を変えて繰り返される構成の巧みさも、細かな演出の素晴らしさ------例えば、《レディ》になってかつての自分の町へ帰ってきたイライザが全ての始まりの場所に戻ると、彼女にヒギンズの邸宅を訪ねる決心をさせた老婆が同じように佇んでいたり、そうして今は遠い過去に足を向けたイライザに付き添うのが、「君住む町」を歌ったフレディ(このジェレミー・ブレッドも、『イースター・パレード』のピーター・ローフォード並みの名演)であったりといったこと------も、なんだか全て、言うまでもないことだと思える。

というか、これ以上に時間をかけてゴチャゴチャと感想などを書くより、日本語字幕でなく英語字幕でもう一度観返してみるとか、特典映像を見るとか、副音声の解説付きで観るとか、この映画については他にもっとやりたいことがある。
ああ、もう、本当にいい映画だなぁ、チクショウ!!