「マッスルミュージカル春公演 M-DOGS」〜わかりやすい面白さ。ただし、欠点多数。特に構成や音楽ははっきりいってダメ。


今回がマッスルミュージカル初体験。
とにかく、どこまでもわかりやすい面白さはいいと思う。中でも、最初の15分の賑やかさと迫力は特筆もの。


舞台の後方の扉がバッと開かれ、横浜湾とそれを挟んで向こうの別イベントの盛り上がりを借景にし、犬の着ぐるみに身をつつんだ役者が登場。四つん這い------それもかなりのスピード-------で客席10列目くらいまでに入り込んだ突出部まで駆けてくる。
その後、同様に犬の扮装の出演者達が揃って登場。犬小屋に見立てた跳び箱を次々に工夫を凝らして飛んでくる。普通に飛び越えることから始まり、手をついて倒立しバク転、ベリーロールで飛び込み、鮮やかにあん馬の演技、チアリーディング風の組体操……早いテンポで繰り出されるバラエティ豊かな演技で、劇の立ち上がり、掴みのパワーとしてはたいしたもの。
そのエネルギーは続く縄跳びのパフォーマンスにも持ち越され、そこまではとても楽しめた。


------ただ、この劇、欠点・難点・疑問点も実に多かった。
まず、音楽。はっきりいってうるさいだけ。10列右ブロックの席での観劇だったが、特に右ブロックの前方5列目くらいまでくらいは、スピーカーからの音量が限度を超えるくらいに喧しく思えたのでは。しかも、音量ばかり大きくて、およそ面白みがないのだからたまらない。


次に構成。出演者毎の明確かつ個性的な見せ場がパッとしないので、起伏に欠ける。
冒頭の犬たちの登場や、(全体が20のパートに分けられ、各場面にはそれぞれ題がついている中で)「体話舞踊犬マッスルビート」という演目名があったことからもわかるように、この舞台には、「CATS」の犬版パロディというコンセプトも持ち込まれていたわけだ。構成・演出・振付は劇団四季の出身者だ、ということでもあるし。
そのくせに、脇役の中で、ミストフォリーズやラム・ラム・タガー、マキャビティのような強烈な印象を残すキャラクターが一人たりともいなかったのはどうかと思う。
ついでに、話を最初に挙げた音楽の面に戻せば、それは勿論、アンドリュー・ロイド・ウェバーみたいな超天才のレベルは望むべくもないにしても、「CATS」のパロディでもあるのなら、お願いだから、せめてもうちょっとマシな楽曲を作って欲しい。


また、「別にこれ、マッスルミュージカルでやるないんじゃないの?」というパフォーマンスも多い。例えば、タップダンス。というか、群舞の場面は大抵ダレていた。
一つ前の指摘と重なるが、場面場面で明快な主役がいた方がいいと思う。


個別の演目について更にいえば、「新アースタップ」というのは、歴代「マッスルミュージカル」を通じての名物パフォーマンスらしいが、それにしては迫力に欠ける。
大体、装飾を剥ぎ取った原始的な身体表現のパワーを強調するなら、無闇に大音量の電子音楽というのはおよそ似合わない。
陳腐極まる発想だが、和太鼓とかほら貝とか、ごく直接的に強く身体的なイメージとくっついた音にでもした方が、まだしもマシなのでは。


また、今回の売りの一つは、大水槽を持ち込んでの、武田美保他によるシンクロ演技ということだった。
しかし、舞台右手側奥に水槽を設置したため、客席の左手側の少なくない席からは、おそらく大まかな状況さえ掴めなかったように見え、「それはちょっとひどいんじゃないの」と思えた。
また、確かに水中での演技は結構な技術なのだと素人目にも思わされたけど、広い会場で見るには、いささか派手さにかけたのでは。
「池の女王と、その友だち」という題からは当然、アメリカのミュージカル黄金期に活躍した"水の女王"エスター・ウィリアムズの、正にケタ外れ、馬鹿馬鹿しさを極めたあまり、何かとんでもなく人の心を奪わずにはおかないものを実現してしまったパフォーマンスが連想される(エスター・ウィリアムズが何者か知らない人は、是非、『That's Entertainment』を観てみよう)。というか、連想させたかったんだろう、多分。これに関しても、「そのパロディというのなら……ねぇ、もう少しさぁ、その……」と愚痴りたくなってしまう。


他にも色々と文句は多いが、面倒なのでこの辺で。
ただ、「じゃあ、つまらなかったの?」と聞かれれば、なんだかんだいって、それなりに楽しめてしまった。むしろ、一度は観劇をお勧めしたい。現状でも実に独特な、強靭な肉体そのものを前面に押し出した部分では鮮烈な迫力と愉しさが溢れていたと思う。


……あー、その、つまり。多分、構成・演出を四季出身者以外の、中途半端なミュージカルへのこだわりが無い人か、あるいはとことん巧みにミュージカルの文法を取り込める人に代えれば、ぐっと良くなるんじゃないかな、これ。