「熱狂の日」音楽祭:コルボ指揮「モーツァルト『レクイエム』」

ローザンヌ声楽アンサンブル
シンフォニア・ヴァルソヴィア
指揮者:ミシェル・コルボ
モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626


演奏されたのは、モーツァルトのオリジナル版と、弟子のジュスマイヤーの補筆版。


特に意識せずに聴いていて、「随分と唐突に盛り上がった感じで始まり、ブツっと断ち切られるように一段落したなぁ」、と思ったが、後で調べてみると、それが「未完成のオリジナル版そのままの上演」ということだったらしい。


「ディエス・イレ(怒りの日)」という途中のパートから始まり、「ラクリモサ(涙の日)」の途中、モーツァルトが死の直前まで書き続けた箇所で終わったのだという。
その後、ジュスマイヤー版が冒頭から改めて演奏されたということだった。


つまり、モーツァルト自身による自らへの鎮魂歌が完成されぬままに終わりを告げたその後に、弟子が渾身の力で纏め上げた偉大な師へのレクイエムが歌い上げられたという構成。
実に面白い発想だと思わされる。


演奏そのものは……それはまぁ、美しい合唱だとは思えたけれど、困ったことに、私にはその良さがあまりピンとこなかった。


まず、なんだかホールの音響がおよそ合唱向きには思えなかったのが大きい。
1階13列目右ブロックというそれなりの席だったにも関わらず、《歌声がホールに充満し、音楽が空気に満ちる》という感覚ではなく、《美しい旋律が拡散しては消えていった》という印象。
こういう曲って、《耳を傾ける》のではなく、《体全体を曲に包まれる》という形が理想なのでは、と思ってしまう。


それと------《神の救い》とか《贖罪》とかいった感覚は、個人的にとことん縁遠いものなので、よっぽど問答無用に芸術的な世界に引きずり込まれない限り、こうした宗教音楽は少しばかり楽しみ難い。

ちなみに、少しばかり今回のコンサートの評判を調べたところ、ようするに「「最高!」という程ではないかもしれないけど、これが余り楽しめなかったんだったら、モーツァルトの「レクイエム」(「モツレク」と略すことも多いそうな)という曲自体、あんまりアンタと相性良くないんでないの?」と言われてしまうくらいの出来だったらしい。


……今後クラシック音楽を聴くときは、出来るだけ宗教色の薄いものを優先して選んでいくようにしようと思う。