清原なつの『千の王国百の城』〜「銀のクリメーヌ」とチンパンジー研究の悲劇の実話

千の王国百の城 (ハヤカワ文庫 JA (667))

千の王国百の城 (ハヤカワ文庫 JA (667))

ラストを強烈な印象を持つ大ゴマで締めくくる作品が目立つ、SF色豊かな短篇集。
萩尾望都銀の三角』、わかつきめぐみSo What?』、坂田靖子『闇夜の本』『星喰い』『月と博士』など、この分野にはいい作品が多いなぁ。


なお、収録作品の白眉、「銀のクリメーヌ」は、実際にあったチンバンジーの言語研究のブームと衰退からイメージを得た作品であるようだ。

悲劇のチンパンジー―手話を覚え、脚光を浴び、忘れ去られた彼らの運命 (自然誌選書)

悲劇のチンパンジー―手話を覚え、脚光を浴び、忘れ去られた彼らの運命 (自然誌選書)

ニム―手話で語るチンパンジー

ニム―手話で語るチンパンジー

ここで、作者は現役の理系研究者(具体的にはどんな分野なんだろう?)とのこと。そうした作者の持つ背景は、対象との距離感と結末に、強く影響しているのだろうと思う。


ちなみに、《科学の進歩とその過程における動物の犠牲》という事例では、より有名な例として、クドリャフカスプートニク二号も連想させられる。
ただ、《科学》というテーマ以上に、《長く重ねられていく関係性》《それを壊す《外部》》《自己と対象の埋めがたい差異》といった要素は明らかにこの人の作風に合ったものなので、手話で語るチンパンジー:ニムの事例は正に選ばれるべくして選ばれた題材なのだろうと思える。