『エリザベス・ゴールデンエイジ』/《義務》の観念と《情念》と。

※引用等はあやふやな記憶で書いているので、無茶苦茶いい加減です。



エリザベスは世界に、国に、そして自分自身に宣言します。

「私は女王だ」
女王のお気に入りNo.1の侍女は許されぬ妊娠をした時、男に言います。
「行って。あなたの義務を果たして(Do your duty)」
スペイン無敵艦隊アルマダ)を打ち破ったフランシス・ドレイクは海戦での傷による死の床で、敬愛する女王に搾り出すようにして伝えます。
「私は私の役目を果たしました」


アルマダの海戦以降、やがて世界を、七つの海を制することになる《日の沈むことなき帝国-------大英帝国》を真に支えた背骨。
義務の観念と誇り。
貴族達においてはノーブレス・オブリージと呼ばれるもの。


第一次世界大戦においても、貴族の子弟達は率いる兵士よりも率先して死地に飛び込み------累々たる屍の山を築き、家名と階級の意義を示したのだとか。
大英帝国は「分割して統治せよ」の古代ローマの遺した金言の元、現在の世界中に最悪の地域紛争の種を幾つも幾つも撒いていった悪魔のような存在ではありますが。
一方で、その誇りと義務への真摯さは少しでも知れば、敬意を表せざるを得ないものであり。


この映画でも、《さすがはワーキングタイトル》という手腕でそれが見事に描かれていました。


そして、一層見事なのは。
ただ、《義務》が描かれるだけでなく、その反面もまた見事に語られること。


誰よりも誇り高き偉大なる女王は一人の女として泣いて男にすがり。
冷酷非常なる女王の右腕にして汚れ役は、陰謀に関わった実弟を密かに逃がさずにはいられない。
女王の最も親密なる侍女にして、女王の果たせぬ夢と冒険の代行者。従兄弟すら女王と国家のために涙を呑んで見捨てた女は、女王が決して許さぬ行為、女王への最悪の裏切りにもなる行為に、その身を投げ出してしまう。
自由なる船乗りにして偉大なる冒険者は、何ものにも替えがたい女王の愛を受け、自らも女王を愛しつつ、臣下として犯してはならない禁忌を犯し、女王の侍女と結ばれる-------。



また、狂信国家であったフィリペ二世のスペインに対し、エリザベスが守ろうとしたものの描写も見事。
冒頭、カトリック弾圧と、スコットランドカトリック女王・メアリーへの断固たる処分を主張する臣下にエリザベスは語ります。


「この国にどれだけのカトリックがいると思うの?ええ、数割がカトリック。私に国民の数割の首を牢に入れ、刎ねよとでもいうのか」
「彼らもまた、女王を愛している。私は私を愛する国民を愛そう。罰するべきは、国家に対して罪を犯したカトリックだけです」
また、「カレー沖の決戦」を前にしてのエリザベスの演説も、事態を端的に示していて素晴らしい。

「諸君に対して、今更気休めを言おうとは思わない。スペインの艦隊がわれらにもたらすのは、過酷なる宗教裁判だ。私はそれを命ある限り防ごう。私も皆と共に前線に立つ」


無論、俳優達の演技が名演であることは、今更言うまでも無く。
ケイト・ブランシェットがアカデミー主演女優賞を逃したのは驚き。
ただ、それに勝ったマリオン・コティヤールエディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』は是非とも観に行かないと……。



ちなみに。
この作品で極めて重要な役割を果たす、サー・ウォルター・ローリーというのは大変に面白い人物で。
wikipediaの説明を見るだけでも、その波乱万丈の人生が多くの人の興味関心を惹きつけるだろうと思えます。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BC
そして、ポール・オースターの超傑作『空腹の技法』にも、「サー・ウォルター・ローリーの死」という恐ろしいばかりに魅力的なエッセイが収録されています。

空腹の技法 (新潮文庫)

空腹の技法 (新潮文庫)

この映画を気に入った方は、是非、手を伸ばしてみてください。