スプライトシュピーゲルIV テンペスト (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 冲方丁,はいむらきよたか
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2008/04/19
- メディア: 文庫
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まだ完結していないシリーズ作品であること、また、いろいろと思い、考えさせられる要素が多すぎることから、とりあえずこの形を取りました。
引用が多すぎる、感想としてまとまりがなさ過ぎる、etc,etcといったことから、後になって消すかもしれません。
また、基本的に自分用のメモですので、未読の方向けの紹介はありません。
それと、最低限のネタバレ配慮はしますが、基本的に既読の方向けです。
以下、暫定的に、公開してみます。
□「フロム・ディスタンス 彼/彼女までの距離」(p5-p86)全体について
ウィーンの街を二人して歩く鳳(アゲハ)と冬真。
丁度、年末年始に行った都市の話なので、読んでいてなんとなく楽しいパートでした。
※ベルリン・ウィーンに旅行:12/27-1/3
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□物語の主役たる《特甲児童》の心理について、引用3+1。
雛(ヒビナ)。
冬真。
「この体もお仕事もみんな自分が生きたいから選んだんだって思えるの。それがないと、きっと、おかしくなって壊れちゃうだって何も選べないまま生きるしかないなんて死んでるのと同じだよ?」
p74
鳳&冬真。
「たとえ鳳さん自身が何と言おうと、僕はこの手を信じるし誇りに思うし感謝し続けるしこの先、ずっと一生、この手を尊敬するし、鳳さんのこの手とこの手が握るものも、つかもうとするものも差し出されるものも僕は全て肯定する。たとえ世界中が否定したって、そんなの僕には関係ない」
「僕にとって鳳さんは、機関銃を持って羽が生えたキリストだ」
p77-78
そして、鳳について、ヘルガ。
「「あなたは結局、あたくしの手足の性能を評価しているのであって、あたくし自身のことはどうでもいいと思ってますのよ」
思案気に頭をかく。「鳳さんの手は鳳さんのものだし、鳳さん自身でもあると思う」
「勝手な理屈を振りかざす人は嫌いです」
「なら鳳さんが好きな理屈を教えて」
p85
ここまでの3つの読んでいて照れくさくなるほど青臭く真っ直ぐな心情吐露をキャラクターにさせた上で、数十ページ置いてこの位置づけは実にいい手際。
「それにしても、あの鳳さんが、冬真くんみたいな男の子に怒鳴るなんて……。安心したわ。特甲児童の心理開発データでも、自分を絶対的に肯定してくれる一般人がそばにいる限り、心理面では安定し続けるわ」
p135
□《技術》や《科学》がもたらす力とその意味について
アデライード&クラリッサ
ヴェロシティからの引継ぎっぽい、エルロイ文体。
「アデライード=腕組。「あの子も父親と同じ、悪魔みたいな男になるのかしらね!」
「……悪魔?」
クラリッサ=興奮。「ブラウン博士こそ、かつて宇宙旅行を実現するため、ナチスという悪魔と契約せざるを得なかったロケット開発者。メンデル博士が軍に協力する際にその名を使ったのも、機械化義肢と転送技術の開発が、いつか人類に新たな可能性をもたらすと信じたからこそなの。私たちはその遺志を受け継ぎ、特甲開発を続けているのよ」
p114
《技術》について、《科学》についてのあるべき姿勢表明。
これは、次の引用部分とある意味対にもなっているのかもしれません。
リヒャルト・トラクル。
「《世界の歴史は、銃弾の歴史である!》英語の叫び/声明/喧伝------画面下部に複数の言語による字幕。《フランス革命を実現させたものは、民衆が貴族から手に入れた三万二千挺の銃に他ならない! 英国で最も多く女王陛下の名を冠するものは銃に他ならない! 中国の指導者、毛沢東が告げたように"権力とは銃口より生まれ出ずる"ものに他ならない! あらゆる同盟の根拠となるのは互いの銃の数に他ならない------!》」
p339
□作品におけるミステリ的な技法、要素について一例
アブドル・アツィム将軍のプロフィールについて。
「情報によれば、銃の弾層には中国の漢詩(キャラクター・ポエト)が刻まれているそうよ」その数ページ後に《六人の証人》のプロフィール説明が語られる構成。
p118
この作者には、ミステリ的な構成や技術も好んで使う傾向があるのかなぁ、と。
それと、同時多発&進行の事件の空間・時間の処理は恐ろしいくらいに見事だと思います。
□マザー・テレサの偉大さについて
マザー・テレサの再来と作中で称される人物、シスター・アーレ。
「マザーと比べられて、誉められているだなんて、とてもそんな気分にはなれないわ。あの方は、コンピューターの王様ビル・ゲイツの軽く数倍は"稼いだ"のよ」
「マザー・テレサは真の信仰者であり、天才的な経営者よ。ボランティアに身を投じて初めて、それがわかったわ」
p158
ナイチンゲールが豪腕と緻密な統計学を駆使する大組織家であったことも髣髴とさせるエピソード。
「誰も、売ることも買うことも止められない。けれどもマザーは諦めなかった。"利益"という怪物の前で、常に個人として立ち続けた。その経営者としての才能をもって、自らを貧者救済のための利益のパイプとなさしめ、何億ドルというお金が彼女を経由して貧者を救った。それでも、マザーは巨大な組織の前で、個人であり続けたわ」
p449
また、いまや「ビル・アンド・メリンダ財団」が世界有数の規模と実効性を備えたNPOであることも当然踏まえた記述でしょう。
このあたりと、次にとりあげる政治談議は、先日(5/31)、朝日新聞の一日編集長を務めたボノ(U2)とゲルドフの見事な言動を連想させたりもします。
《正義の批判者》《《外》からの善意の援助者》ではなく、《自ら力を備え、事態に参画するプレイヤー》としての認識と行為。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=823502136&owner_id=211281
また、《利益》という潤滑油に支えられて世界を動かす《歯車》の中で、《個人》であること。
《個人》であり続けることの意義と、《個人》であり続けながら出来ること。
それらは、「オイレン・シュピーゲル」、「スプライト・シュピーゲル」両シリーズを貫く大テーマでもあります。
特に、『オイレンシュピーゲル肆 Wag The Dog』 の副題は、真正面からそのテーマを見据えたものと思えます。
オイレンシュピーゲル肆 Wag The Dog (角川スニーカー文庫)
- 作者: 冲方丁,白亜右月
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/05/01
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「スプライト」にも、こんな下りがありますね。
リヒャルト・トラクル&ヘルガ。
「「君は真実の一部になろうとしている。それは個人であることを捨てる道だ」
「私は私に刻まれた雷火をもって、個人であり続けるわ。あなたの言う真実の前でも、国家の前でも。(後略)」
(p438)
ミッターマイヤー。
「「俺がゲームマスターとして進行を司ろう」ミッターマイヤー------それ以外は許さんという感じ。「俺はこれを、複雑怪奇な怪物の名前をとって"リヴァイアサン"と名付けたが、多くの人間は、シスターが考えた"世界統一ゲーム"というタイトルで呼びやがる。
「そっちの方が、目的がわかりやすいでしょ?」とシスター・アーレ。
「奥深さが伝わらなくなる」すねたように下唇を突き出す------」
p169
この「リヴァイアサン」の語源と《その奥深さ》について。
「国家元首の第一の目的は、自国を豊かにすることだ。何も間違っちゃいない」
p175
おそらくホッブス『リヴァイアサン』であり、そしてその源流にある、政治を《制御しえぬ巨獣をなんとか制御しようと試みる無謀ながらもやらなければならない取り組み》として捉える、プラトン『国家』なのではないかと。
- 作者: プラトン,藤沢令夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1979/04/16
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その「こんなもの」をプラトンは《巨獣》と呼び、ホッブスがそれを《リヴァイアサン》と名付けなおしたとかいうことだったような。
「正しさが二転三転して暴力になり、解決になり、繁栄になり、そして破滅になる------こんなものを誰がコントロールできるのかと、薄ら寒い気持ちにさえなった」
p190
まぁ、あまり詳しくは知らないので適当な推測ですけれど。
□アメリカの良き面とその意義について
FBIきっての国際派と作中で称される人物、ハロルド・パーキンス。その発言と彼についての紹介。
「「我々の捜査技術は、特定の国や民族のためではない。要請があればイスラエルでも、パレスチナでも、イラクでも働く。
パーキンスが付け加えた。「国際法廷に科学的根拠のある証拠を提出するには、FBIを頼るのが一番なのですよ。今回もFBIの指導で七十万発の弾丸が回収され、最初の二十四時間で殺害された二万人が、どの順番で撃たれたかを明らかにしています」
(中略)
鳳の脳裏にその行為が-----めちゃくちゃな惨状を呈した現場で、死者の一体一体に触れ、臭いを嗅ぎ、調べ、記録する人々の姿がまざまざと浮かんだ。その中にこのハロルドがいた------ごく自然に/いるべき男として。途方もない仕事だった。累々たる死者を相手に、悲痛と疲労を押しのけ、混乱した世界に秩序をもたらす行為だった」
「「FBIきっての国際派のあんたこそ、アメリカという国はともかく、その警察思想の良心的な側面の担い手だ。世界の終わりのようなあの惨殺現場で、よく指揮を執ってくれた」」
p163-165。
「私の国では、負け犬(ルーザー)の定義は厳密だ。自分は敗北にしか値しないと思い込んだ、正真正銘の敗者だ。人生の真の敵である徒労感を克服できず、打ちのめされた人間だ。そういう、ある意味で正しい挫折をした者を、さらに打ちのめしてくれるありがたい文句(フレーズ)あがる。立ち上がって戦え(スタンド・アップ・アンド・ファイト)------君の場合は、飛び立って戦え(フライ・ハイ・アンド・ファイト)がふさわしい」
(p378)
政治の話といえば一面的なアメリカ(及びそれに追従する先進諸国)批判、というのが陳腐なスタンダードになってしまっている感があります。
「だが少なくとも、当時のアイゼンハワー大統領は、そうは考えなかった。連邦軍の派遣を決定し、州兵を支配下に置き、黒人生徒が無事登校できるよう保護した。どれほど強者がのさばろうとも、弱き者のために戦う誰かが、必ずいる国。それがアメリカだ」
(p492)
そりゃあまぁ、今のアメリカ、特に現大統領のブッシュ政権下のアメリカがタマラナイ存在であることは言うまでもありません。
ただ、現状における覇権国であるアメリカの果たしている役割をきちんと見ようともせずに政治を云々するのはナンセンスですし、歴史を通じて多くの美点を備えた国であることも事実だと思えます。
そこをきちんと捉えている------少なくとも捉えようとしている(私自身がそんなに国際情勢に詳しいわけでもないので、《捉えられている》のこかどうかはおよそ判断できません)-------のは、この作品の特筆すべき美点だと思います。
また、めいいっぱいネタバレになるので白文字で書きますが(反転させて読んでください)、このパーキンスのラスト近くでの歓喜。
「「バッジだ……。法廷の後も、私を捜査官として認める……私のバッジだ」」これって、きっと、『真昼の決闘』のラストの否定を否定しなおして肯定したのではないかと。
(p525)
そして、『真昼の決闘』の挫折した保安官は町の保安官でしたが、《FBIきっての国際派》たるハロルドは世界の保安官であるわけですね。
ここらへん、ジェイムズ・グレイディ『狂犬は眠らない』と併せて読むといろいろ面白いところです。
- 作者: ジェイムズ・グレイディ,三川基好
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/12/14
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□緑の革命
11年だか12年だかくらい前。
「食料問題は、水の問題と直結してるのよ。遺伝子改良の穀物はどれも例外なく、それまでの数倍の水資源が必要。そして貧困国のほとんどは穀物生産に使う水の不足に悩んでいる。欧米諸国のやり方を下手に真似れば、大打撃を受けるだけね」
(中略)
「その後に来ていたはずの、食料特許問題も回避された」
(中略)
「種を一粒蒔いただけで、莫大な特許料を支払わねばならなくなる……そんなものはとても、食糧援助とはいいがたいわ。やり方をややこしくしただけの、ただの略奪」
(p180)
高校三年のおよそ8,9ヶ月くらい、この「緑の革命」について調べたこことが思い出されました。
まぁ、だからどうした、という話なんですが。
※wikipedia「緑の革命」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%91%E3%81%AE%E9%9D%A9%E5%91%BD
□《夢》と《願い》
「パーキンス。「"夢"という言葉を、"願い"と訳せば、通訳官失格になります。夢は所詮、ただの夢……何かを本当に願うこととは、画然とした違いがあります」
ハロルド。「夢を見るな(ネバー・ドリーム)……矛盾するようだが、願いを叶えるには必要だ。安易に夢を見れば、どんな努力も無駄という思いに------徒労感という名の悪夢に襲われる」
p199
歴史小説家・塩野七生のお気に入りの言葉は、イザベッラ・デステの座右の銘「夢もなく、恐れもなく」でした。
「「あたくしは彼らを信じております」
「私もだ。たとえいかなる事実が判明しても、それは彼らの横顔の一つに過ぎない。重要なのは彼らの顔ではなく、彼らがその顔をどんな地平に向けていたかだ。夢を抱いて嵐を飛び越え、真実の地平に舞い降りるがいい、蝶(ファラージャ)よ」
咄嗟に何も返せず------良いはずのことが悪いことへと変貌する"世界統一ゲーム"を思い出していた。複雑怪奇な世界で生き抜いてきた老人------なのに夢を抱けと言われたことに軽い驚きを感じた。そしてふと気付いた。夢を見るなと証人たちは言った------だが夢を捨てろとは言わなかった」
p470
- 作者: 塩野七生
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例えば、マキアヴェッリはとことん現実を見据えつつ、強力で団結した愛する祖国・イタリアという夢を抱きました。
わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡 (塩野七生ルネサンス著作集)
- 作者: 塩野七生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/10/01
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- 作者: 塩野七生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1982/09/28
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また、それはU2のボノが思い描く夢でもあるのだそうです。
船橋 22世紀にアフリカ合衆国を作るという夢を持っているのか。しかし、塩野七生の最近の-------特に「ローマ人からの〜」「ローマ人に学ぶ〜」とかなんとか題した政治がらみの発言には、中高生の頃からのファンとしては、思うところが多々あります。
ボノ そうだ。そうだ。豊かな多様性がありながら緊張も多いアフリカには重要だ。確かにそれが夢だ。
http://www.asahi.com/international/africa/tokusetu/TKY200805310215.html
なんせ、かつて《欧米や一部の日本の研究者が《古代ローマ》を後世のキリスト教的価値観で裁くような視点で扱う》ことを嘆いていた人が、現代の世界を古代ローマの価値観で裁いちゃってますからね。ご自身でおかしいと思われたりはしないのでしょうか。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=747676255&owner_id=211281
また、この《夢》に対する姿勢は、先月読んだ『ライラの冒険』の《想像力》に対する扱いも連想させます。
- 作者: フィリッププルマン,Philip Pullman,大久保寛
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/10/29
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北村薫がその作品の主人公に『ドン・キホーテ』に対して言わせた言葉を借りれば、《こんな目で、ものが見られるフィリップ・ブルマンという人が恐くなった》という感じです。
「考え込むのはライラのやり方ではない。ライラは楽天的で行動的な子供だ。そのうえ、想像的でない。想像力のある者だったら、はるばるこんなところまで来て友達のロジャーを助けられるなどと、まじめに思ったりしないだろう。あるいは、そう思ったにせよ、すぐに思いつくのは、とうてい実行できないような現実ばなれした方法ばかりだろう。うその名人だからといって、想像力が豊かなわけではない。うそのうまい人間の多くは、まったく想像力などない。想像力がないからこそ、なるほどと思わせるうそがつけるのだ」
(『黄金の羅針盤』新潮文庫版下巻p84)
ただ、あの《私》のようなモノの見方の深さも感性の繊細さの持ち合わせもありませんので、その先を読んでいくことは出来ましたが。
そして、物語の終わり近くになって、次の言葉に出会えました。
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- あるいはこの言葉ゆえに、『ライラの冒険』は見事な物語なのだと思えます。
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なお、過度の《想像力》を戒め、ネガティブに捉える観方というのは、この『ライラの冒険』のサブテキストとして途中で読んだ、ミルトン『失楽園』に非常に顕著な要素でした。
「天使はもうそういう旅ができなくなるの? 天使も、ぼくたちみたいにひとつの世界にとじこめられてしまうの?」
「わたしたちにも天使の方法がおぼえられるのかしら?」ライラがいった。
「ええ。ウィルのおとうさんが学んだように、学べるわ。あなたたちが想像力と呼ぶ力を使うのよ。でも、頭でつくりあげるのとはちがうの。目で見るの」
(『琥珀の望遠鏡』新潮文庫版下巻p377-378)
- 作者: ミルトン,John Milton,平井正穂
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1981/01/16
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□虐殺とその意味
「誰が指示したのかもわからん、"巧妙な虐殺"や、いったいどこの誰が富を独占してるのかもわからん"間接的な弾圧"は、結局のところ先進諸国による"複雑怪奇な略奪システム"のパロディだからな」
(p214)
まぁ、笠井潔が手を打って喜びそうな下りですよね。
「我々は墓荒らしと戦う、墓地の管理人だ。最悪なことに墓を作るのは犯人ときている。あるとき忽然と出現する墓標を、秩序をもって保持し、犯人を追う。なぜだと思う?」
「犯罪を取り締まるためです! それを行う人間はあなた以外にもおります!」
「いいや。因果関係を取り戻すためだ。殺人とは、因果関係という名の真実を一方的に略奪する行為だ。なぜ死んだのか、なぜ死なねばならなかったのか、死なずにいられた未来はあったのか? 残るのは答えのない問い------空虚な虫食い穴だ。残された家族や友人たちは、略奪された因果関係の疵痕を背負って生きていかねばならない」
(p272)
- 作者: 笠井潔
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/11/11
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- 作者: 中井英夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1974/03
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□鳳(アゲハ)という名前
「飛び立て(フライ・ハイ)------真っ直ぐに。嵐の中を飛んでゆけ。さあ、これが自分のやるべきことだ。
「白露・ルドルフ・ハース!!」
叫んだ------ここに------この都市には自分がいるのだということを思い知らせるために」
(p499)
鳳(アゲハ)は胡蝶の夢の蝶でもあり。
「そのせいで逆に、ずっと夢を見ている気になることもありますわ。まるで胡蝶の夢(ドリーム・オブ・バタフライ)の詩のように」
(p529)
そして、北京で羽ばたくとニューヨークでは嵐が起きるという、カオス理論の蝶でもあるのでしょうね。
ただ、偶然の羽ばたきではなく。意志を込めた生命の羽ばたきが、世界を変え行く。そんな蝶を描きたいのでしょう。