『スピカ 〜羽海野チカ初期短編集〜』感想

3月のライオン』6巻も今日から本屋に平積みにされていますね。

3月のライオン 6 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 6 (ジェッツコミックス)

つい先程読みました。もう、本当に本当に素晴らしいです。


さて、それはさて措き『スピカ』について。

スピカ 〜羽海野チカ初期短編集〜 (花とゆめCOMICSスペシャル)

スピカ 〜羽海野チカ初期短編集〜 (花とゆめCOMICSスペシャル)

羽海野チカの感覚を通して見る、世界の美しさについて思う。


冒頭に収録された「冬のキリン」。
最終ページの「草太」と呼びかける声、呼ぶ側と聞く側の想いのギャップが切ない。
初出2000年4月で一番古い(なお『ハチミツとクローバー』は『CUTiE Comic』(宝島社)2000年6月号から掲載とのこと(wikipedia))作品なのだけど、羽海野チカ作品での<段と段の間に白抜き文字のモノローグ入れる手法>はもうここから使われているのだなぁ、と。


「スピカ」の「くるりん」を見るあの顔はハチクロ1話のあの顔に繋がるようにも。
この話では花火の画がとりわけ鮮やかな「表情」を見せる。
「やっぱり来てもらえなかったな…」と呟く視線の先、開いた後に消え行く単発花火。現れた母親の背景に咲く花一つ。
先に階段を登る彼の、その向こうの夜空に咲き乱れる。その<時>がいかに掛け替えないものであるかを示すように、瞬間で美しく凍ったように花開いている。


「ミドリの仔犬」「はなのゆりかご」は読むと気持ちが温かくなる連作。
変化球的なミステリ漫画が多く載っていた『Be Street』という雑誌が初出の、他の収録作品とは少し毛色が違った漫画で楽しい。


ここで、羽海野チカ作品を読む人の多くは「こんな風に世界を見て、世界と接することが出来たらどんなにいいだろう!」と思わずにはいられないのではと思う。
「はなのゆりかご」は「見ること/接すること」はそれだけで完結せず、それによって「見られるもの/接されるもの」も変わっていくのではないか……そんな視点とも関わる話として読むことが出来るような気もする。


「夕陽キャンディー」の主人公の名前が「野宮」であるのは(『ハチミツとクローバー』の同名の人物を思い浮かべると)なんだか面白い。


巻末に収録された「イノセンスを待ちながら」。
羽海野チカの眼を通して一つの映像作品(押井守監督のアニメ映画『イノセンス』)を観ることへの誘い」としてとても興味深い一篇。




○以下は『スピカ』感想からどんどん離れていく雑談。雑談と割りきって趣味全開、脱線全開で行きます。


「ミドリの仔犬」「はなのゆりかご」は「読んだ記憶あるなー」と思ったら初出は『Be Street』か。
この二篇は素直な良作だけど、変化球的なミステリ漫画が多く載った面白い雑誌だった。
冬目景幻影博覧会』、斎藤岬「死神探偵」シリーズとか。亀井高秀『僕は探偵には向かない』も好きだった。


そして『Be Street』で実はより記憶に残ってるのは東城和実『見参!獅子王丸晶様』。

これ、あまりまとまった感想を探し当てたことが無いのだけれど「表」の無理やりな解決の影に結構手の込んだ「裏」の論理的に見て取れる解決がありそうな、厄介な「ミステリ」の匂いがしたんだよなぁ、と。


あと『ミステリービィーストリート』には紺野キタ「天女」「匣〜はこ〜」(いずれも『知る辺の道』収録)も掲載されたりしてた。

知る辺の道 (バーズコミックス ガールズコレクション)

知る辺の道 (バーズコミックス ガールズコレクション)

更に話がそれてしまうのだけど『知る辺の道』表題作及び「オランジュリー幻想」の連作はとてもとても好きで。これはもっと長いシリーズにして欲しかった。


あるいは紺野キタ知る辺の道」って「オランジュリー幻想」以外にもどこかで続編が描かれていたりするんだろうか?
あるのなら、是非読みたいなぁ。


なお紺野キタ作品は基本(BL作品も多いのでそこら辺苦手な人にはお勧め作品を選びますが)、素晴らしい出来。
中でも一押しを幾つか挙げると。
まずは暖かな群像劇として素晴らしい、紺野作品『ひみつの階段(1)(2)』(おや?新装版が出てた)とその続篇、『乙女は祈る』。

ひみつの階段 1巻 (PIANISSIMO COMICS)

ひみつの階段 1巻 (PIANISSIMO COMICS)

乙女は祈る―ひみつのドミトリー (POPLARコミックス (No.2))

乙女は祈る―ひみつのドミトリー (POPLARコミックス (No.2))

とにかく可愛らしい愛すべき作品です。
そして、時間と空間の処理。それらとキャラクターの心理との繋げ方がそれはもう物凄く巧みで鮮やか。
ただし(どうでもいい話ですが)我が家では奥さんから「あまりにも可愛らし過ぎるよね?あんなん居てたまるか。逆に私が好きな西炯子作品については「作者が分かっていて美化したり避けたりしている都合の良さ」についてあれこれ言いまくる癖に、なんだそのダブルスタンダードは」と責められて、諸々苦しかったりもしていたり……。


続いて、人の心理や成長をとても象徴的にファンタジーとして描いた『Dark Seed』。

Dark seed 1 (バーズコミックス ガールズコレクション)

Dark seed 1 (バーズコミックス ガールズコレクション)

とてもシンボリックな作品であるため、普通に物語として読むと『ひみつの階段』などに比べて多少引っ掛かるところがあるかも?
なんとなく、おがきちかLandreaallランドリオール)』と『エビアンワンダー』(及び『エビアンワンダーREACT』)との関係にも似ているような。
Landreaall 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

Landreaall 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

エビアンワンダー 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

エビアンワンダー 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

『Dark Seed』も『エビアンワンダー』も突き詰めた素晴らしい良さがあり、ある意味それぞれの代表作と言い得る漫画と思うのですが「それってどれくらい広く受け入れられるところなのだろう?」と些か鼻持ちならない心配もしてしまうところ。


なお、おがきちか作品ではあまり取り上げられない『ハニー・クレイ・マニハニー』収録の「スーパーウール100%」も推薦したいところ。幕切れがもう、とてもとても素晴らしくて。
意味ははっきりしているのに当人はこの期に及んで気づいていないという淡く絶妙な描写、台詞回しの素晴らしさ。

ハニー・クレイ・マイハニー (ヤングキングコミックス)

ハニー・クレイ・マイハニー (ヤングキングコミックス)


そして勿論、紺野キタ作品では現在進行中の連載『つづきはまた明日』も大いに勧めたいところ。

つづきはまた明日 1 (バーズコミックス ガールズコレクション)

つづきはまた明日 1 (バーズコミックス ガールズコレクション)

作品紹介はこちらをどうぞ。
http://www.gentosha-comics.net/genzo/comics/ashita/


また、おがきちかLandreaall』についての感想はこちら。

・一〜三巻/構成の綺麗さ。≪知っている≫ということへのこだわり。
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20081220/
・竜胆の物語として四巻〜十二巻を振り返ってみる
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20081221/
・『Landreaall』/竜葵様の憂鬱
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20081222/
おがきちかLandreaall』[13]/大変回りくどくて面倒くさくて。でも、それこそが面白い作品。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1011661676&owner_id=211281
※後ははてなダイアリー版と同じ。ただ、コメントやりとりはMixiでやってます。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1015288104&owner_id=211281
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