『ユリイカ 2022年11月号 特集=今井哲也 ―『ハックス!』『ぼくらのよあけ』『アリスと蔵六』…マンガを夢みる』雑感

読んだので、いろいろと雑感。


■ロングインタビュー
「僕はマンガを描いていた 今井哲也と/マンガの方法」聞き手=さやわか

本文でも触れられている「おへやおかたづけなナイト」(2018年)に参加した際に聞いた話等も思い起こしつつ読んだ。
ユリイカ』のいろんな特集はだいたい、まず当人のインタビューがいつも非常に面白く、今回も(他の対談等も含め)そうだったなあ、と。
多岐にわたる面白さが詰まっているわけだけれど全部逐一書き上げるのもなんなので、少しだけ。

 

p73

「どういう広さのどういう場所にいるかがイメージできると
(中略)
ひとつ言えるとしたら僕はキャラに目力がないんです
(中略)
顔だけにフォーカスするのも好きじゃなくて、空間を使った身体全体の芝居のほうが楽しいんです。同じ人が描くと全部同じマンガになっちゃうというのもたぶん顔の芝居に一番出るんじゃないかと」

この一節は、少し後の論考、

今井哲也の読みかた
泉信行「白いフレームのなかの、小さいな瞳が映すもの」
今井哲也「トラベラー」から、「ピロウトーク」まで

といろいろ噛み合う形で読めて、とても良かった。

あと泉論考は(例えば自分のような)素人がついつい「作者の無二の絵柄、タッチ」みたいに雑に片付けてしまう(それにしても無二の~とかは乱暴すぎるけど。せめてもう少し大枠だけでも……)話を、体系的な理論に基づいた比較や計量も相当に可能なモデルにあてはめる形で語ってくれていて、専門家とはありがたいものだなと思わせてくれる。
そして、今井作品の「白いフレームのなかの小さな瞳」がその描き続ける「少年期(ジュブナイル)」において子どもと大人を描くのにどう呼応し働いているかという論考は、キャラデザインでも「白いフレームのなかの小さな瞳」も含めた原作とはあえて大きく離れたものとし、ジュブナイルでありつつ、子どもと大人の関係は原作とは大きく異なる映画版と原作がどう異なるか考える上でも興味深いものかとも思う。

 

p80。

「いつも世代の継承の話になっている~毎回気づくと入っている」
「僕の個人的な体験の問題だと思うんですけど、反抗期がなかったんですよ」
「『ぼくらのよあけ』のアニメは脚本の佐藤大さんがどちらかというと思春期の子供と親のあいだには断絶があるものだと、むしろそこにロマンがあるという作風の人で、黒川(智之)監督もそっちよりなので、映画はわりとそういう方向に振っていますね。それは僕のなかにはないタイプのロマンなんですが、面白いなと」

今井哲也作品全般について、個人的にも非常に頷ける話。そこが非常に好ましいとも思う。
映画『ぼくらのよあけ』と原作の方向性、志向嗜好の違いもうんうん、そうだよなあ、と思わされる。

 

■特集*今井哲也
佐藤大「団員としても今井哲也さんとのこと」

個人的に映画版の感想を書き連ねた中で「スマートで賢い」という評を意識して繰り返したのだけど。

その脚本を務めた佐藤大さんがこうして寄せた文章もその印象通りだなと思えた。


■特集*今井哲也
小松祐美「みんなの楽しい部活動は続く」『ハックス!』論

先のインタビューにあった「継承」と通じる話として、この論が『ハックス!』の秋野とみよしについて書いている話が面白いと思う。


■ぼくらのまんが道
対談:今井哲也×あらゐけいいち(司会:ばるぼら

今井哲也さんが語るアニメ感想、本当にいつも楽しいしスゴいと昔からtwitterで見ているだけでも思わされる。
他者の作品について語っていたことについて、自作ではどう扱いどう描いているのかなんてことも比べるととても面白かったりする。

 

例えば、アニメ(及び漫画)と背景について。

例えば、少年少女の自己分析やその言語化、ある種の「落とし前」のつけ方について

直接お話でもできれば当然、なお面白いのだろうなとも思う。正直、羨ましいことだ。

 

最近だと『DoItYourself!!』1話をみての感想、

といった感想などは特に、本当に流石だなと思わされた。

 

■描き続けるひと
高い城のアムフォ 翻訳・マンガ=巡宙艦ボンタ「アモフォと今井先生について」

すごい。すごく良かった。大好き。


■描き続けるひと
さわだ「コミティアとかの今井さん」
天龍寺燦斗「アニ研時代の今井哲也氏」

いろいろな楽しいエピソードを読むことが出来て嬉しい。


■アレンジメントされるもの
髙橋志行「今井哲也作品と『メギド72』その相通ずる美点について」

これが出オチではなくて、今井哲也作品における「子供」と「いわゆる〝大人〟と名指される人々」の関係性及びその描写においての、ごくごくまっとうで読み応えのある論考になってるの、割と普通にびっくりするね……?


■対談〈2〉
今井哲也&宮澤伊織「アリスと裏世界夢みることの倫理をめぐって」

オマージュや引用について。
また時代とともに変化もしていく倫理観と、作中のキャラクターの振る舞いについての言及が面白い。

個人的には過去に『アリスと蔵六』4巻まで刊行時点の感想を書いた際、

作中で描かれる倫理について重ねて注目し、好ましいとも思えていたのでその面でも興味深い対談だった。


■特集*今井哲也
秦美香子「自分の道を、自分で決める今井哲也の描く女の子たち」

 

ジェンダー論の視点からの論考として、

「1 ナナコには、なぜ胴体がないのか------『ぼくらのよあけ』」

と題した項において作品読解として、

 ここまでの展開で、作者は、ゆうまがナナコを性的存在として意識しているかのような態度を描いたうえで、実際にはゆうまがナナコに「対話」と「知識」を期待していたことを明かしている。ロマンティックな関係性を読者に想像させたうえで、「実はこの物語は、そういう展開にはなりません」と種明かしをするのは、後述するように『ハックス!』にも見られるパターンである。ゆうまとナナコの関係をめぐるテーマは、常に「信頼関係」と「嘘をつくということ」であり、ゆうまにロマンティックな感情が芽生えることはない。
 ナナコとの別離に際しても、ゆうまは「おれさ……ナナコが 家来たとき ほんと うれしかったんだ だって オートボットって 超すげーもんな」(第二巻、二三一頁)と泣きながらナナコに伝える。また、物語の結末では、別離の後にゆうまとナナコがメールなどによって対話を続けていたことが示されている。ゆうまにとって、ナナコの価値は一貫して「対話」と「知識」に見出されるのである。

と論じたくだりは特に素晴らしい切れ味だと思えた。

 

 

追記。

今井哲也さん及びユリイカ特集寄稿者の方々による二次会のようになっていたことでもあり、ここに追加で掲載。

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