『海神別荘』泉鏡花の世界? 《天野喜孝の世界・実写版》では。

歌舞伎座七月公演(昼の部)、深川江戸資料館『さん喬を聴く会』へ行く。
森奈津子西城秀樹のおかげです』、北野勇作『かめくん』読了。
清原なつの『私の保健室へおいで…』を読む。


『海神別荘』------まさか、天野喜孝の世界がここまで実写化可能だとは知りませんでした。
おお、(一昔前の)ファイナルファンタジー。……別にアルスラーンでも吸血鬼ハンターDでもどれでもいいけれど。
歌舞伎座で「美術及び衣装考証:天野喜孝(衣装考証は玉三郎と共同)」というのはスゴい。そして、天野画を文字通り体現できる海老蔵玉三郎というのは、本当に人間ですか?
で、舞台美術はアレ、《天野喜孝ラッセンが乗り移って合体、かつ立体化!》という感じだったんですが……。何というか、これって、《アールビバンの野望・歌舞伎座版》?それはもう、売店で版画売ってなかったのが不思議なくらい。
ここまでくるともう、「泉鏡花の世界」というよりも、「天野喜孝の世界」といったほうが正しいのでは?


ただ、なんだかんだいって、しばらく前に観た『アマテラス』に比べると、衣装・美術のセンスが比較しようもないくらいにいい(特に、あのスサノオの衣装はいったいなんだったんだ……)。もちろん、劇としても遥かに面白い。これはこれで良い選択だったのでは。

※実写版ファイナルファンタジー(?)の参考
http://www.kabuki-za.co.jp/info/kougyou/0607/7kg_11.html
話の展開も、《《美しさ》こそ至上!われらこそ美の化身。人間の目にはこの体は巨大な醜く恐ろしい蛇に見えるというが、なんという愚かさだろう。別に連中のことなど知ったことではないが、とりあえず気分の問題として、津波で村一つ潰したりもした。だが、まぁ、地上のことなど気にするな》というステキ世界。……ある意味、魔界医師メフィストあたりと仲良く共存できそうな……。


で。
たまたまこれを観終わった後で、昨日Amazonから届いた森奈津子西城秀樹のおかげです』を読むという巡り会わせに。

西城秀樹のおかげです (ハヤカワ文庫 JA)

西城秀樹のおかげです (ハヤカワ文庫 JA)

もともとの破天荒なおかしさに加え、あまりの食い合わせの妙(?)に(電車内で)笑いを堪えるのに大変に苦労------それはもう、意思の力と羞恥心と公共心を総動員-------した。表題作は国内SFのオールタイムベストに挙がる作品でもあるとのこと……確かにスゴイ、いろいろな意味で。
いやぁ、《主観的な美意識最高!そのためには世界の滅亡なんて軽い軽い!》という基本線では、実はおおよそ似通っていないこともないのでは。
こんなことを言っていると、黄泉の国から泉鏡花が蘇ってきて、いきなり動物に変えられたり、夜行巡査に川に叩き込まれたり、麻酔なしで外科手術されたりしそうだけど。「その声、その呼吸、その姿、その声、その呼吸、その姿」。


そのまま読み続けると周りの乗客に変質者に見られそうだったので、40ページちょっとの表題作を読み終えた後で、本を変更。
「とりあえず、国内・海外のSFオールタイムベスト作品を読んでいってみよう」という流れの続きで、北野勇作『かめくん』。

かめくん (徳間デュアル文庫)

かめくん (徳間デュアル文庫)

一読、メタで比喩でナンチャッテ哲学的な読みをいかにもしたくなるところ、「あとがき」で作者から
かめくんんはかめくんである。
かめくんはかめくんでしかない。
とやんわりと、しかし断固として釘を刺されてしまう。たまらなく愉快で、かわいらしくて、そして、断じて一筋縄ではいかない本。


それでもって、それを読み進める間には、深川江戸資料館での落語会『さん喬を聴く会』で、古き良き日本的な人情と商人気質とユーモアの最高の結晶のような噺、『百年目』を聴いた。
自分が最初に買った落語のCDが、圓生百席の『百年目』ということで、個人的にも大変思い入れの深い演目(去年『圓生百席』はセットで買ったので、『寄席育ち』と一緒にダブってしまった……)。

百席(37)一人酒盛/百年目

百席(37)一人酒盛/百年目

いわば決定版といえる、圓生百席やビデオ映像に残る圓生の高座とは随分異なる、実にさん喬師匠らしい味や工夫が随所にあって楽しめた(詳細は個別の感想で)。

そういえば、『かめくん』の中で主人公「かめくん」が落語『百年目』を聴いていたのに驚かされた。これも、楽しい偶然だ。多分、「かめくん」が聴いたのも圓生だろう。ひょっとすると、米朝かもしれないけど。


ちなみに、二日前には、徹頭徹尾西欧的な哲学-------強烈な責任感と冷徹な判断力。未熟さを認識し、その上でそれから脱しようとする意欲。お互いの能力を認め合う友情。困難や絶望に向かい合う力としてのユーモア-----をベースにしつつ、SF史上最も泣ける小説といわれる------実際に読んでみて、確かに対抗できるのは「アルジャーノンに花束を」くらいかと思った-------ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアたったひとつの冴えたやりかた」を(いまさらになって初めて)読んだりもした。

また、昨日には、高橋葉介『夢幻紳士【幻想篇】』『夢幻紳士【逢魔篇】』『学校怪談①②』という、今まで知らなかった、漫画の面白さの新たな一面を教えてくれるような作品とも出会った。
学校怪談 (1) (秋田文庫 (55-1))

学校怪談 (1) (秋田文庫 (55-1))

更に、今日読んだ『私の保健室へおいで……』で一段落した、清原なつの作品のまとめ読みも大変刺激的に思えもした。
私の保健室へおいで… (ハヤカワ文庫 JA (696))

私の保健室へおいで… (ハヤカワ文庫 JA (696))



こうもおよそ趣の違う、それぞれ強烈極まる価値観を表現する作品に、立て続けに触れるというのも珍しい。
それぞれ、個別にそれなりの感想もまとめられると良いのだけれど。
ちなみに、ビジュアル化された『海神別荘』(及び『天守物語』)といえば、波津彬子『鏡花夢幻』も忘れがたい作品。

鏡花夢幻―泉鏡花/原作より (白泉社文庫)

鏡花夢幻―泉鏡花/原作より (白泉社文庫)