待望のファンタジー/RPG漫画、『竜の学校は山の上 九井諒子作品集』

『竜の学校は山の上 九井諒子作品集』は絵柄においてもストーリーにおいても多彩な魅力に満ちた、断固お勧めのファンタジー/RPG漫画。

竜の学校は山の上 九井諒子作品集

竜の学校は山の上 九井諒子作品集

作者はファンタジー、RPG系のweb漫画/創作同人の方。
webサイトは「西には竜がいた」(http://nisiniha.sakura.ne.jp/


長らくweb漫画でファンだった人の待望の初単行本が会社近くの書店カウンターで積まれていたのを見掛けて、とても嬉しい。勿論、早速購入。
作者のpixiv(http://www.pixiv.net/member.php?id=42191 )では掲載された「進学天使」「魔王城問題」「支配」「くず」「帰郷」等が読めるのでまずは立ち読み推奨。


長所は数多いけど、各話の締め括り方は特に美しい。
ジト目や驚き顔の描写も好きだ。


個人的ベストは「現代神話」。
ケンタウロス(馬人)と我々(猿人)が共生する世界の夫婦生活や労働問題を描いた、どこか星新一的な寓話(「帰郷」ほど露骨に星新一テイストではないけれど)。
見開きで描かれた、デモに立ち上がった馬人たちの姿が微笑ましくも強いインパクト。


「進学天使」(※pixiv(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=12769308)で読めます)を締めくくる、天使の視点から見た、自転車で加速し空を飛び、友人たちを見下ろす場面は鮮烈。
言葉よりも遥かに情感を伝える連続したコマ描写は、本短篇集の白眉だと思う。
これも”天使は飛び抜けた才能の暗喩で日本社会への批評であり云々〜”といったところはある作品だけれど、他作品同様、それが前面に出過ぎてこないところも美点だと思う。


村の守り神を求めて数々の神を訪ねる「代官山の嫁探し」。
登場する神々の画の流麗さは必見。
ラストの哀感もまた、この本の中でも特にお勧めしたい見所のひとつ。
作者の優れたバランス感覚を示す終わらせ方でもあると思う。


表題作「竜の学校は山の上」も、SF好き、ファンタジー好きにはたまらない傑作。
日本唯一の「竜学部」を持つ大学へ入学しての学生生活。
しかし、竜は現代では既に何にしてもコストに見合わない不要な動物になっており……という物語。
序盤、題名とともに新入生に告げられる一言と、その画の構図が素晴らしい。


「帰郷」「魔王」「魔王城問題」は勇者と魔王を巡る、RPG世界観のパロディ。
内容は、説明よりpixivでの一読をお勧め。


とにもかくにも、絵柄においてもストーリーにおいても多彩な魅力に満ちた、断固お勧めの一冊。
また、この漫画が気に入った人には「西には竜がいた」で変則掲載のファンタジー漫画、「UORIR」を強く推薦します。


また、漫画にせよ小説にせよ日記にせよ音楽にせよなんにせよ。
webで自分の作品を公開したことがある人なら誰もが身につまされるであろう異色作、


「愛の感想劇場」
http://nisiniha.sakura.ne.jp/day/ai.html


も必見!!