白井智之『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―』感想

白井智之『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―』感想

名探偵による「推理」と「解決」を幾つかの段階に分解した上で、その要素一つ一つを実に挑戦的かつ見事に扱った傑作のように思えた。

つまり名探偵による「推理」と「解決」とは、

1:なんらかの視点(価値観、立場、偏見等々)に基づいて
2:観察や聞き込みや、人を使っての情報収集によって得られた情報を元に
3:論理を用いて仮説を立て結論を出し
4:その結論に関係者が納得し、
5:その結論が正しいものであると認め
6:その上で犯された罪に対して罰が与えられるなりなんなりの対処が為される(その多くは法の執行)

ことで始まり、完結するものなのだけれど。

「各段階がどんな問題を孕んでおり、それらの問題をどう展開して描き得るか」という非常に面白い試みが幾つも詰め込まれ、かつ、複合的に掘り下げられていたように思えた。

一つの小説であり物語でありミステリとしてとても面白いとともに、そういう「名探偵とは何か」……そして「名探偵による「推理」と「解決」とは何か」という問いを巡る作品としても非常に面白いと思えた。

また「名探偵を巡る物語」として「完結した事件」を通して築かれる「名探偵」のイメージや評価といった問題にも踏み込むというか、そこを大きなポイントとして描いてみせたことにも大きな妙味を感じた。

すごいミステリ小説だったなー、と。

 

ただ、これが初めて読んだ白井智之作品だったというのは、どうなんだろう。
ともあれ、とても面白かった。
『名探偵のはらわた』『エレファントヘッド』あたりも近い内に読もうと思う。