柳家三太楼・柳家三之助『オールフライト・ニッポン』


オールフライトニッポン

相手の話を聴き、プロの実感を込めた言葉を引き出す姿勢に徹していることが、いいなぁ、と思わされる。

特にパイロットの岸本氏へのインタビューでの、

「女の子からも、「ちょっと温度を下げてください」とか(後略)」


といったあたりの扱いで、フライト・アテンダントを「女の子」と言う現場の空気・感覚を身近に感じさせる言葉を殺さずに出した上で、脚注で柔らかくフォローするところなどが特にいい。
また、こうして文章と脚注をすぐ側においてくれる構成も読みやすく嬉しい。
くだけた対談形式の本を作る手法として、優れたやり方だと思う。


ところで、冒頭に書いた姿勢の元は、脚注で明記されている通り、現在の自分を「半可通」と定義した上で、その自覚の上でより良いマニアでありファンである存在になろうという認識と意思にあるのだと思う。
こうした感覚は、常々自分でも大切にしたいと思うものだけに、共感出来る部分が多かった。結局、素人が考えられることの九割以上は、現場のプロは先刻承知であるか、「ああ、良く有るんだよねぇ、そういう間違い」ということか、思わず苦笑してしまうような、とんでもない勘違いや思い込みかなのだろうと思う。しかし、《それでも、残る一割にこだわりたい》というのがファンの願いだろう。
なお、こうした-------高処から見下ろし裁くのでは断じてなく-------あくまで誠実なファンの立場から、専門的な世界を描く作品の最高峰は、関容子の歌舞伎関連の聞き書きだろうと思う。

「ああ、僕が笑ったのは、全然別のことですよ。実はね、僕が笑ったのはこんなことなんです。(中略)その人はこう書いてるんです。『ロシアの中学生に天体図を見せてやるといい。その中学生はこれまで天体図に関して何の知識も持っていなかったのに、明日になるとその天体図を修正して返すだろう』(後略)」

ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』(下)原卓也・訳。新潮文庫より。)