『WHITE ALBUM2』ネタバレ有り感想その2〜雪菜とかずさの八日間

WHITE ALBUM2』についてのネタばれ感想、その2です。


※※※以下、『WHITE ALBUM2』のネタバレがあります。
※※※未プレイの方はできれば閲覧を避けてください。







































「雪菜さん、マジ天使」(挨拶)



前回の

WHITE ALBUM2』ネタバレ有り感想その1 〜「ゼロから once again」
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20120920/

がいろいろ断片的で説明不足過ぎるかとも思えたので、今回は焦点を絞り込もうと思いました。


ここではいわゆる雪菜TRUE ENDルートにおける《かずさのコンサート開演二週間前からの雪菜とかずさの八日間》について。
ちょっとしつこいくらいの解説を試みようと思います。



まず結論からいうと、その八日間は「三人が二人と一人になってしまった五年前に遡っての、五年間のやり直し」だったと思います。


過ぎてしまった五年間をもう一度やりなおすこと。
「時の魔法」で歌われる「ゼロから once again」を成し遂げることによって、初めて冬馬かずさの世界は外へ向かって開かれていったのだと思います。


それによってしか、かずさを壊し、生まれ変わらせることは出来なかったのだと思います。

「今は、春希くんでも曜子さんでも駄目だと思う。
だってあなたたちは、かずさを愛し過ぎてるから」
「叱ることできないし、
突き放すこともできない。
…甘えさせることしかできないよ」
「だからこそ、わたしなんだよ。
五年ぶりの、わたしなんだ」


そう言ってかずさの元へ向かった雪菜さんがどれだけマジ天使だったか。
かずさの世界の閉ざし方が以下に深刻だったか。
以下、ぐだぐだと書いていってみようかと思います。


まず初日。
その日は雪菜の誕生日、2月14日。
短い会話の後、雪菜はかずさに差し入れを渡し、立ち去ります。


中身をみて愕然とするかずさ。
ここでわざわざそのCGが出るのはその重要性の強調の演出だと思えます。


五年前のその日はかずさが「卒業したら、ウィーンに行く」と雪菜に別れを告げた日。
そしてケーキはその二日前に三人で祝われるはずで、春希がかずさを追いかけ、キスし、裏切ったことで雪菜が一人きりで過ごすことになったバースデイパーティを連想させずにはいられません。


それなのに……とかずさは戸惑います。


二日目。
再びやってきてやはり短い会話だけをしての雪菜とかずさの別れ際。

「お前…昨日、誕生日だったんだよな?」
「もしかして…お祝い言ってくれるのかな?」
「なのに、なんで来たんだよ。
春希と一緒に過ごさなかったんだよ」
「………」
「雪菜の大切な日なのに。
二人の大切な日なのに、どうして…」
「今、二人にとって一番大事なことは、
パーティなんかじゃないから」
「雪菜…?」
「またね」

おそらく、まだかずさには雪菜の思いがわかりません。


今でも「三人」が大切で、かずさも大切な相手として一緒に祝えるようにするための最初の日として、パーティも誕生日もやり直したいという願い。


ここでひとつ書いておきたいのは、雪菜にとってやり直されるべきは、


「春希とかずさが雪菜を裏切ったこと」
「春希が雪菜の誕生日パーティに行けなかったこと」
「かずさが別れを告げたこと」


だけではないということ。


そもそも、


「春希が最初は二人きりで祝おうと提案し、断わってかずさをメールで誘った雪菜もそれを見てもきっと来ないだろうかずさを分かっていて、その上で二人きりで誕生日を祝うことを予想し、期待してしまっていたこと(ICの該当場面参照)」


ことから雪菜はやり直そうとしたのだと思います。



三日目。
激しく言い争ってのビンタの張りあい。
かずさがついに争うことのないまま、舞台に上がらずに逃げた五年前がやり直されます。
それは決して五年前には実現されなかった、大切な大切な変化だと思えます。


しかし、これでようやくかずさはリングに上っただけに過ぎなくもあります。
問題はまったくといっていい程解決していません。
それが、やがて七日目にはっきりと示されることになったのだと思えます。


四日目。
かずさ、ピアノ練習再開。


五日目。
かずさの側からのアンコールの呼びかけ。
三日目になってようやくリングに上がっていたかずさが、始めてその上で雪菜の呼びかける方へと、「三人で」のやり直しの願いへと向かって歩み寄った。
これがようやくの第一歩だったと思えます。


六日目。
酔いつぶれての議論。北原春希はなんで間違うのか。
かずさ曰く「人としてのセンスがない」から。
雪菜曰く、「相手を想いやる心に、あまりに引きずられるから。…かずさのことばかり、ひいきするから」。



そして、七日目。


頑なに自分と母親とピアノだけの世界に籠っていたかずさが、初めて春希と雪菜いう他人を引き込んで世界を広げて、でも、雪菜を拒み、それっきり閉じこもってしまった五年前。
その閉塞から出ていこうよ、あなたなら出来るよ、出来ていたよ、あなたにはその力があるんだよ……雪菜はかずさに向け、新生への心からの呼びかけを贈ります。
ここでは曲が生まれるのを先取りして、instrumental版の「時の魔法」が流れます。心にくい演出です。


その呼びかけは冬馬かずさを救うための核心をついた、小木曽雪菜だからこそ言える、小木曽雪菜だからこそ贈れる最高のもの。

「今までだってやってきたじゃない。
あなたの周りの世界は、
あなたが自分の力で作ったものだったじゃない」
「あたし…が?」
「あなたのピアノが春希くんに届いたから…
その音につられて、春希くんはギターを弾いた。
そして、その音たちにつられて、わたしは歌った」
「ぁ…」
「あなたが春希くんを世界に招き入れたから、
彼が、一度離れていったお母さんを連れ帰ってきた」
「そうやってあなたは、
自分の周りの世界を作ってきたんだよ。
全部、自分の力で成し遂げてきたんだよ」
「あたしの…力」
「あなたのピアノには、そういう力がある。
人と人とを繋げる、強い力があるんだよ」
「人を感動させることのできる、
人に力を与えることのできるそのピアノで、
あなたはこれからも、世界と触れ合っていくんだよ」
「そうやって、大切な人、たくさん作るんだよ…」
「雪菜……」
「お母さんだけじゃなく、春希君だけじゃない…
もっとたくさんの、あなたの好きな人たちを、
あなたの世界の中で、遊ばせてあげようよ?」
「そしたら、そしたらさ、
いつか、わたしも…」
「っ…」
「一度はあなたの世界から
出て行ってしまったわたしだって…
もう一度、あなたの世界の輪の中に…」


でも、言葉では、思いはどうしてもかずさに届きません。

「やめろぉっ!」
「……かずさ?」
「やめてくれ、無理だ。
あたしに、そんな綺麗な世界なんか作れない!」
「できるよ…
できるよ、かずさなら」
「できないよ…
私の狭い心が作る世界に、
春希と私と雪菜は一緒に、いられない」
「かずさ…」
「だって、あたしは、あたしは…
春希の側にいる限り、あいつを諦めきれないよ!
雪菜の側にいる限り、お前を妬んじゃうんだよ!」
「かずさ……っ」
「………だから、離せよ。
こんな酷いこと言うあたしなんか見捨てろよ」
「嫌、だよ」
「お前なんか、あたしの世界に入れてやらない。
たとえ世界にお前とあたししかいなくても…」
「嫌だぁ…っ。
わたし、かずさと一緒にいるんだ」
「あたしだってやだよぅ…
だって、だって…春希のこと愛してるんだよ?
お前に取られたくないんだよぅ…っ」
「〜っ!」


遂にこれまで決して言わなかった「春希のこと愛してる」という言葉をはっきりと口にし、なおもかずさは続けずにはいられません。

「母さんとだって離れたくないよ…嫌だよ。
たった二人しかいらないのに…
どうして二人とも取り上げようとするんだよ!」
「ぃ、ぃぅっ…ぅ、ぅぇぇ…ぇ…っ」
「なのにお前は…家族もいて、春希もいて…
そうやって幸せを独り占めして…
なんであたしに一つも分けてくれないんだよ!」
「ぃっ、く、う、ふぁぁ…ぁ、ぁぁ…」
「最低だろ…?
あたしこんなに醜いんだよ!
だから、無理なんだってば!」
「か、かずさ…ぁ。
ぅ、ぅぁぁ…かずさ、かずさ…っ」
「離せ……離せよ、雪菜…
 あたしを……あたしを……っ」


そして「時の魔法 instrumental」がぷっつりと止まり、画面が暗転。
かずさは数日前のビンタなんて比べものにもならない、雪菜のトラウマを直撃するあまりにも酷な呪いを叫んでしまいます。


「あたしを仲間外れにしないでくれよぉぉっ!」


この叫びを他ならない雪菜にとってかけがえのない「仲間」のかずさに浴びせかけられることは、雪菜にとって何を意味したか。


それがピンと来ない人は、ぜひとも杉浦小春ルートをやり直して欲しい。
雪菜がどう言って、春希に別れを告げたのか。
雪菜がどう言って、小春を認め、春希を託したか。
そして、雪菜は春希との別れの悲しみから一週間も経たない同窓会で「仲間外れ」の相手と思いがけず和解し、かつての仲間とカラオケに抜け出して歌ったと小春に話していたことも思い出して欲しい。
その和解は(-closing chapter-の雪菜ルートでその重みが描かれた)歌を失った雪菜に再び歌わせるほどの喜びだったということです。
「仲間外れ」ということは、雪菜にとってそんなにも重いことだったということです。
かずさは、そんな言葉を雪菜にぶつけてしまったということになります。


※小春ルートでの同窓会二次回カラオケに関しては下記の日記を参考にさせて頂きました。ありがとうございます。

「「ホワイトアルバム2」傑作すぎて号泣しまくった件(ヤマカム)」
http://yamakamu.com/archives/3233040.html


続いて暗転した画面のまま、数クリックで場面が切り替わります。
その空白の時間と、それに続くやり取りは雪菜の……そしてこの物語の最大の見せ場の一つだと思えます。


これ以上延ばしようのない締め切りを目前に、雪菜を信じ続けた春希にかかる電話。
雪菜の成功を確信してほっとする春希に雪菜は告げます。

「あ…それよりもお願いがあるの。
今すぐ、して欲しいことがあるの」
「ん、わかった。
何でもするから言って」


だって、電話の向こうには、いるんだから。


「いつまでも泣きやまない子がいるの…
だから、子守唄の伴奏お願いできないかな?」


ここで春希の「電話の向こうには、いるんだから」が「雪菜がいるんだから」ではなく「かずさがいるんだから」であることの酷さ、やるせなさはひとまず措くとして。


この少し後のやりとり(「…歌ってよ、雪菜。また、昨日みたいに」)と、七日目に冬馬曜子と春希の間でかわされた翌日24時締切という取り決めから、場面の切り替わりの空白の間、丸一日の間、雪菜がかずさのために歌っていたことがわかります(この作品ではこうした「時間」の扱いのうまさとその重みも素晴らしい。例えば春希とかずさがストラスブールで再会して怪我の手当てをしながらの時間経過の描き方も絶妙です)。
その上で、更に、春希のギターの伴奏を雪菜が「泣きやまない子」のために頼んだことがわかります。


これが「どうして二人とも取り上げようとするんだよ!」と、「なんであたしに一つも分けてくれないんだよ!」と、そして「あたしを仲間外れにしないでくれよぉぉっ!」と叫んだかずさへの雪菜への答えです。
雪菜はかずさが二人に深い傷を残して逃げてからの五年間で、苦しみに苦しみ抜いた果てにやっと得た最も尊いものを分けてみせます。


どんなに心を込めても言葉では足りなかった雪菜は、その思いを「届かない恋」にのせてかずさに歌いかけます。
音楽についてはいつだって真剣に正面から向き合うかずさに音楽で伝えます。
その歌詞は誰が誰への思いを綴ったものかを、口でだけはなんといっても本当は分かり切っていたからこそあれだけ必死になって曲を作ったということを(第一音楽室のへたくそな「ギター君」の正体同様に(※デジタルノベル「雪が解け、そして雪が降るまで」参照)ただかずさもかずさ自身をだましていただけだったことを)、そして雪菜もそれを知り、知った上でしつこい上にもしつこく確認を求めた上で「春希くんの作った言葉を、かずさの作った曲に乗せて、わたしの声で」あの時歌ったことを、かずさは知っています。
だからこそその思い出は三年間にもわたって雪菜から歌を奪い、その間ずっと冬の大学で流れるたびに雪菜を傷つけた曲でもあります。
そして、痛ましい三年を経て雪菜と春希、二人の距離を縮め切る最後の後押しになり、二人だけのただ一度の再結成のただ一つの曲となり、二人の絆とかずさへの感謝と別れの象徴になった曲でもあります。


その上で、別れから流れてしまった時間の最も大切な結晶も共有し、分けあえるということを。
そんな五年間をもこうしてやり直せるということを雪菜は示してみせます。


それに打たれ、かずさが願います。

「…歌ってよ、雪菜。
また、昨日みたいに」
「わかった…」
「春希の作った言葉を、
あたしの作った曲に乗せて、
お前の声で、聴かせてくれ…」
「それじゃ行きます。『届かない恋』…
昨日のテイク1に代わって、
ギター付きのテイク2で」
「うん…」


そして、続く言葉が更にかずさの胸を打ったのだと思います。

「明日は…
ピアノも付いたテイク3完全版、だね」
「っ…」


テイク1は、雪菜自身の心を伝える大切な歌として贈られました。
テイク2は、雪菜の心に加えて更に、かずさにとって誰より大切だった相手が、かずさのために書いた詞を受けてかずさ自身が想いを込めて作った旋律が、かずさのために奏で重ねた上で贈られることになる。そこでは《かずさのために》という思いで雪菜と春希、二人の心が寄り添うことになります。
テイク3の宣言は、そこにかずさ自身が寄り添うという、文字通りかずさにとって望外の贈り物が届けられるということ。
そして、雪菜と春希の二人が一人のかずさに歌い奏でるテイク2でなく、雪菜と春希とかずさの三人での「テイク3」こそが雪菜にとっての完全版、心からの本当の願いであるという宣言。


その上で、昨日には届かなかった言葉が、雪菜の口から重ねられます。

「…ちょっと、痛いでしょ?
外からだと、恥ずかしくて見てられないかもね」
「雪菜…」
「でもね…
わたしはこうして春希くんに救ってもらった」
「っ…」
「彼に凍らされた心を、彼が無理やり溶かしてくれた。
…なんか、自作自演みたいな言い方だけど、
それが実際、二年前にあったこと」
「……」
「だから、今度はわたしが、
春希くんの大切なひとを…
わたしの大切なひとを、助けてあげたい」
「ぁ、ぁ…」
「本当なら、わたしがいないことが、
あなたにとって一番の救いなのかもしれない」
「そんな…違…あたし…」
「けれど、それだけはできない…
わたしを、仲間外れにしないでね、かずさ」


そして、かずさの願いどおりのテイク2が始まります。
詞に込められた春希の想いにも負けない力をもって、かずさに心から贈られる雪菜の歌としてやり直された「届かない恋」が流れます。
「三人」でいたい。二人と一人を選んでしまった五年前をやり直したい-----後の「時の魔法」で歌われた「ゼロから once again」という雪菜の願いと呼びかけは「届かない恋」の新生が止めとなって遂にかずさに届きます。




この一幕の意味について、自分なりに改めて解説したいと思います。


それは「届かない恋」がどう変わっていったのかということ。



五年前の学園祭での「届かない恋」はかずさと春希の二人のものでした。
春希はかずさを想った詞を作り、それに応えてかずさは春希のために曲をつけた。
心を向け合い、春希がギターを、かずさがキーボードを弾いた。
それを仲間はずれで一人ぼっちの雪菜がそれでも春希に心を向けて歌う、残酷な曲でした。


二年前の大学のバレンタインデーイベントでの「届かない恋」は雪菜と春希の二人のものでした。
春希は初恋の相手を口説くために始めたギターを、今度は雪菜のために弾きました。
初恋を、やり直そうとしました。
かずさのために始め、かずさに教わったギターを雪菜のために捧げようと。それからは雪菜のためだけに弾こうと決めて。
雪菜はそれで傷つけられた心を溶かされ、歌を取り戻し、その音色に導かれて歌いました。
バレンタインデーイベントでの二人の「届かない恋」は遠い空の下にいる一人ぼっちのかずさに向けられたもの。
それは二人の絆の証であり、一人に逃げたかずさへの決別を試みた曲でした。


そしてこの日の「届かない恋」テイク1、テイク2、テイク3は雪菜と春希とかずさの三人のもの。
テイク1で、春希がかずさを想った詞は雪菜がかずさを想う詞となり、かずさの作ったメロディに乗った歌になり、雪菜の声で泣きやまないかずさのために歌われました。
そこにかずさが作った曲を雪菜の願いに答えた春希がかずさに向かって奏でるギターが加わります。
そして、そうさせた雪菜がかずさの元に現れたのは、春希が追いつめに追いつめられた最中でさえ、雪菜に自分よりも「かずさを助けて」と頼んだから。
テイク2はそんな二人が、今度こそ三人になろうとかずさを呼び戻すための曲になって。
更に、呼び戻されたかずさが加わってのテイク3こそが「完全版」なのだと雪菜は言ったんですね。

「雪菜、春希…」
「ごめん…二人を苦しめて。
みんなを苦しめて、ごめん」
「………ごめんなさいっ」
「やるよ…あたし、やる」
「コンサートも、アルバムも…」
「雪菜のために、母さんのために、春希のために…」
「あたしの好きな人のために。…あたしを好きでいてくれる人のために」
「あたしの作る、新しい世界に来てくれる人のために」
「歓迎の曲…一生懸命弾いてみせるから。どうか、どうか…聴いてくださいっ!」


ここまでされて、ようやく狭く世界を閉ざした冬馬かずさの呪縛は解け、雪菜の呼びかけを信じることが出来たのだと思います。
自分の力を信じられるようになったのだと思います。


それだけでなく、かずさは初めて甘やかされるか逃げるかではなく、人とぶつかったことで、人の痛みを知ったのだとも思えます。


こんなにも強い人から歌を奪うほど、雪菜を傷つけたことを知って。
こんなにも凄い相手から愛されながら拒ませるほど、春希を深く深く囚え、それなのに逃げてしまったことで傷つけ続けてきたことを知って。
こんなにも真摯に願い、呼びかけ、心を向けてきた人に「あたしを仲間外れにしないでくれよぉぉっ!」と叫んでしまったことを知って。


これが、北原春希にも冬馬曜子にも出来なかったことなのだと思います。


かずさを甘やかすことしかできない春希には、たとえすべてを捨ててかずさを選んだ場合ですら、この痛みを教えられなかったのだと思います。

例えば、怯えて逃げること、隠れること、そうでなければ自暴自棄になることしかさせられなかったのがかずさTRUE ENDルートと通称されるものです。
春希を奪う代償にピアニストとしての命であるその手を差し出すことなんて、切実で全力の逃避ではあっても、決して雪菜と向きあった上での行為ではなかったのだと思えます。
春希の犠牲と痛みすら、ただただ幸福として噛みしめることしかできなかったのだと思います。

※9/22追記。
諸々検討の結果、上記についておそらく、今後大幅訂正。例えば、他が分からなくても、母親に捨てられた(と思い込んだ)痛み、春希を奪われる痛みは誰よりも知っているという話とか。
また、《この八日間以前でもかずさにとってどれだけ雪菜が大切だったか、雪菜にとってどれだけかずさが大切だったか》という掘り下げがまるで出来ていなかったので、記事全体にいろいろ問題もあると今は思えて。そこら辺も含め検討課題。

あと、蛇足かもしれませんが、個人的な好みとして。
こうして五年間をやり直された後の、コンサートの最終曲を前に再び「Twinkle Snow Instrumental」が流れる中での冬馬かずさと冬馬曜子のやりとりが初見の時からゲーム中ベスト1、2を争う名場面であり続けています。
そこに辿りつくように物語が進んで欲しいという思いもあります。
まぁ「Twinkle Snow Instrumental」は冬馬曜子というより、雪菜・春希との関係で流れるのではあるんですが。



以上、雪菜とかずさの八日間についての解説でした。



雪菜さん、マジ天使------その凄さと魅力が少しでも伝えられていればと思います。


たった一つの恋を一日十時間以上、ピアノに向かいながら五年も重ねに重ねて煮詰めて閉じこもって来たかずさ。
その天岩戸っぷりがいかに深刻なものであったかが伝わればと思います。



で、その上で。


次には「雪菜さんが本当の凄さをみせるのはこれからだ」という解説をしたいと思います。


かずさを生まれ変わらせた雪菜さんの戦いをみて「雪菜さん、マジ天使」といいたくなるのだとしたら、
春希を生まれ変わらせた雪菜さんの戦いをみれば「雪菜さま、マジ女神」と言わざるをえません。


なぜなら、北原春希の歪み具合は冬馬かずさをも凌ぐからです。


このゲーム中、99%以上のどこの時点でも《北原春希が心から一番愛する女性はいつだって冬馬かずさ》なのだと思っています。
この比率は誇張でもなんでもなく、たったひとつを除いた他ヒロインのTRUE ENDとされるものの後だって変わっていないのだと思います。


そして、《この雪菜TRUE ENDのルートですら、「婚約者特権」として一つの願いが伝えられたその時までは心の底では冬馬かずさを一番愛していた》というのが北原春希というキャラクターなのだと考えています。


小木曽雪菜を小木曽雪菜にしたのは北原春希。
そうであるからには(こうしてさんざん書いてきておいてなんですが)北原春希を語らずして、小木曽雪菜について語るのは片手落ちもいいところ。
まあ、実際「マジ、天使」どころでない「マジ、女神」の格なので、片手落ちの話ですら「マジ、天使」ではあるんですが。


というわけで次の日記ではまず、大嘘つきの視点人物について書いていくことになると思います。

「でも、彼が間違いを犯すのは、
彼にセンスがないからじゃない。
ただ、最初から公平じゃないんだよ」
「はぁ?」
「すごく真面目に考えて、思い悩んで、
正しい結論に辿り着いた上で、
自信満々に逆の選択をしてるだけだよ」
「何だ、それ…」
「だから、間違ってるように見える。
…ううん、明らかに間違えてる」
「…意味わかんない。
なんでそんなことするんだ」
「相手を思いやる心に、あまりに引きずられるから。
…かずさのことばかり、ひいきするから」