『WHITE ALBUM2』ネタばれ感想その4〜北原春希の言動・選択を家族問題のトラウマとその影響を重視して考えてみる(前編)

随分時間が空いてしまったけど、以前の記事、

2012-09-27
WHITE ALBUM2』ネタバレ有り感想その3〜雪菜・春希・かずさを結ぶ三つの基本的な構図
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20120927/p1
2012-09-21
WHITE ALBUM2』ネタバレ有り感想その2〜雪菜とかずさの八日間
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20120921/p1
2012-09-20
WHITE ALBUM2』ネタバレ有り感想その1 〜「ゼロから once again」
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20120920/p1

に続くネタばれ感想。


春希曰く

「俺のせいでこうなって…だからこそ、俺を包み込むのに特化された、俺だけのための、女性」

雪菜曰く

「あなたと出会いさえしなければわたし、こんな、へんてこりんな女の子になっていないよねぇ」

(どちらも雪菜TRUE ENDルート終幕近くの春希の告白場面より)。


上記引用からも伺える通り、複雑な性格のヒロインである小木曽雪菜を複雑にしているのは北原春希。
雪菜がどんなキャラクターだったのか、雪菜はどんな心情と理由で行動していたのか。
それを読み解くには、まず、北原春希というキャラクターを理解する他ない。


ここでは春希の次の特徴について、家族問題、特に母親との関係がいずれにおいても極めて大きく関わっているという仮説を書いていく。
一つの視点として、あえて検証を省いて仮説とその帰結をどんどん投げていく(表現としても「と思う」と留保せず断定で話を進める)ので、反論・検証など歓迎。


[1]なぜ、あんなにもお節介なのか
[2]なぜ、他人の問題解決ばかりする正論にこだわる人間なのに「まずは自分が抱える家族の問題を解決すべきでは?」というこれ以上ない正論からは耳を閉じ目を背けるのか
[3]なぜ、雪菜とかずさが現れるずっと以前から武也と親友なのか
[4]なぜ、あんなにもかずさが一番なのか
[5]なぜ、すがった相手に「置いていかれる」という状況下では壊れる(相手の事情おかまいなしに一方的に自分の思いをぶつける、他では決してしない言動に走る)のか。
[6]なぜ、かずさが揺るぎない一番である一方で雪菜もまたかけがえのない存在なのか


ただし、全ての前提として、雪菜TRUE END終盤からまずこちらを引用。

婚約者特権…早速、使わせてもらってもいいかな?」
(中略)
俺は、まだわかっていなかった。
小木曽雪菜という女性の…本当の、強さを。
(中略)
「……………っ!
雪菜、お前最初から俺を騙すつもりで!?」
「うん、最初からだよ。
あなたに申し込まれたら、絶対に騙そうって…」
(中略)
社会人になってからも、
年に一、二度しか会ったことのない…


相互不干渉が、もはや伝統芸能のように確立された、
俺の、母親に会いに行く…


俺のプロポーズを受け入れた時から。
幸せ一杯の表情で、俺に抱かれているはずの時から。


そんな、辛い将来を見据えた戦いを…
俺の一番の暗部と戦う決心をしていたって。
(中略)

今まで、ずっと言わなかった。


俺が頑ななまでにこの話題を避けてたから、
空気を読んでくれてるって、思ってた。
「お願い、お願いだから…
まずは頑張ってみようよ…」


けれど、そうじゃなかった。


「一生懸命頑張って、それでも駄目なときは、
 わたし、春希くんの母親にもなってみせるから」
「〜〜〜っ!」


雪菜は、ずっと待ってたんだ。
自分が、この問題の当事者になるその日まで。
(中略)
かずさ…ごめんな。


俺、お前のこと本当に好きだった。
このコを好きになる前から、好きだったんだよ。


でも、ごめんな…


俺、本当にこのコを選んで良かったって、
心の底から、思えてしまったんだよ…


「なぁ、雪菜…」
「ん…?」
『もう、俺は俺一人のものじゃない…』
数時間前、雪菜に誓ったその言葉を…


今は、あの時とは比べものにならいないほど
重い意味で使う。


婚約のしるしの指輪なんて、もういらない。
そんな軽々しいもの、贈る意味がない。


だから…


「俺の命を捧げます。
…自由に使ってください」


「俺の一番の暗部」
「小木曽雪菜という女性の…本当の、強さ」
「かずさ…ごめんな」「俺、本当にこのコを選んで良かった」
「「俺の命を捧げます。…自由に使ってください」


春希という人間、雪菜という人間、そして春希がかずさに向けていた思いの全てに関して。
母親との問題が強く強く関わっていたことを示すに十分な言葉が並ぶ。
以下、書き連ねていくことの目的は、いわばこのやりとりの解説であるとも言える。


[1]なぜ、あんなにもお節介なのか
[2]なぜ、他人の問題解決ばかりする正論にこだわる人間なのに「まずは自分が抱える家族の問題を解決すべきでは?」というこれ以上ない正論からは耳を閉じ目を背けるのか
[3]なぜ、雪菜とかずさが現れるずっと以前から武也と親友なのか


まずは以上の三つの論点について書いていく。


春希についてはそもそもその異常なお節介とそのあり方からして、家族問題のトラウマからかなり説明できる(勿論トラウマが全てじゃなくて生まれながらの資質・性向とかも大きい)。
それでこそ、母親との関係は「俺の一番の暗部」だということになる。


以下、まずは関連して引用。

「でもさ…
ウチだって、数年前まではあんなだったぞ?」
(中略)
「中学に上がる頃には、
そうやって俺に関心を持つことはなくなったけど」
「子離れ?」
「…親父はリアルで離れてったけどな。
ま、養育費結構もらってるから文句はないけど」
「………」


自慢じゃないけれど…
特に冬馬に対しては、本当に自慢じゃないんだけれど。


ウチの父親の実家は、岡山の方に屋敷のある、
結構名の知れた企業の創業家一族だったりした。


そこの長男で、
次期経営者として期待されてたのが俺の親父で、
成績優秀のまま、いい高校を出て、いい大学を出て…


そんな順風満帆の人生においての唯一の失敗が、
俺の母親との結婚と、俺の誕生だったという話で。
…いや、実家的に。


その辺りに何があったかは、
まぁ母親の繰り言で色々知ってるけどどうでも良くて。


けれどその際、双方の、相手に対する
あまりにも思いやりのないやり取りの応酬に、
すっかり誰にも味方する気が失せてしまい。


かくしてここに、
岡山の名家からの援助でのうのうと暮らす北原家と、
お互い無関心となってしまった母子だけが残った。
(introductory chapter(以下、IC)/春希&かずさ)/小木曽家初訪問からの帰り道)

「実家じゃないのか?」
「それはない。
俺、ここに越してきたとき、
自分の荷物をあっちに一つも残してないし」
「………どんだけ親と仲悪いんだよお前」
「別に悪くないぞ。
お互いあまり興味がないだけで」
「あまりじゃないだろ。
無関心にも程があるだろ」
「学費分は感謝してるし、
働くようになったら借りは返すつもりだし、
いよいよ介護が必要になったら帰る気だってある」
「そりゃお前が誰にでも持ってる義務感だ。
他人に対してはウザいほど干渉するくせに
なんで身内には…」
「あるはずなんだけどなぁ。
本当に、どこ行ったんだか」
楽譜も、親子の情愛も、なぁ…
(CC雪菜ルート/春希/電話越しに雪菜にギターを聴かせるようになって数日後、武也との電話)

「あなた、自分の親とは仲悪いんですって?
わたしたち親子にはここまで介入しといて、
それってどんなギャグなのよ」
「俺のことなんてどうでもいいじゃないですか。
それに仲が悪くなんかありません。
お互い興味がないだけです」
「…思ったより屈折してるのね」
(coda雪菜ルート/曜子&春希/かずさに曜子の病気を隠しながら支える共犯関係を続けつつ、遂に曜子が《こうなってはあなたはもう手を引くのが「正しい」》と言わざるを得なくなった場面で)

「ウチらの手伝いだけじゃなく、
学園祭の表実行委員に、裏実行委員に、Web担当に、
クラス委員と図書委員と…しかも全部ヘルプで」
(IC/武也/軽音楽同好会崩壊を春希に嘆く会話の中で)

「けど、ま、三年間の集大成というか、
たった一つの馬鹿というか、そんなものは残したくて。
…何しろ今までが理想的なまでに灰色だったから」
(IC/春希/学園祭前日に突然「三曲目」を知らされ仲間外れのトラウマに襲われかけた雪菜にかずさが「雪菜のための歌詞」と口を挟み、その後のフォローを要求されての作詞の経緯説明)


「双方の、相手に対するあまりにも思いやりのないやり取りの応酬にすっかり誰にも味方する気が失せて」の末に両親の離婚とその後母親との相互無関心の関係が確立されてしまったことで、春希はそれまでは小木曽家のようだったという家庭、自分の「帰るべき場所」を失っている。


《他人の問題について完璧な根回しを重ね、何も見返りを求めず解決していく善意の第三者》であり続ける春希は《その時もしいてくれたなら「小学六年生の自分」を救えただろう人物そのもの》。
お節介とともに必ず、特に問題を解決した後にはしつこく説教をせずにいられないのが春希だが、本当に説教したいのはその時の両親(と親族たち)だということになる。


春希はそうして「小学六年生の頃の自分」を救い続けることで


・「帰るべき場所」を失った痛み
・《それでも本当は母親は今も自分を愛しているのではないか》という期待
・逆に確かめるために踏みこんで拒絶され《やはりもう愛されていない》と思い知らされたらという恐れ


の全てから目を背け続けている。


「一人の女の身代わりに百人の生贄を必要とする」のが武也ならば。
《一つの問題の身代わりに百個千個の解決を必要とする》のが春希なのだともいえる。


「武也=軽薄な女好き」「雪菜=学園のアイドル」「かずさ=孤高で傲慢な天才」。
この表面上の「=」が「=」などではなく、裏があるのと同様に「春希=誰にでも平等に優しくお節介で説教好きの永遠の委員長」もより根深いものの裏面なのだということ。


だからこそ春希は中学入学時に出会った時から武也と親友になった。
事情は分からなくとも、通じる/通じてしまうところがあった。
春希の恋愛や、表面上の彼の在り方におよそ似合わないバンド活動を武也が強く後押しした事情、春希のお節介を悪くいう相手に武也が激昂する(「雪が解け、そして雪が降るまで」)理由もそこにある。
また、春希にとって(地味な格好に眼鏡でバイトに勤しむ姿も早くから知っていた)「学園のアイドル」雪菜が、「勝手に親しみを感じていた高嶺の花」であった理由もそこにある。


ここで、春希のお節介について、「あまりにもよく似ている」「小春希だ」ともいわれた杉浦小春のそれとの比較をすると以下のようになる。


・小春は問題の当事者になることを躊躇わない。例えば、テニス部の副部長を熱心に務めていたように。
・小春ならお節介を繰り広げつつも自分の思いのまま全力で過ごした高校生活を「理想的なまでに灰色」だなどとは決して言わないだろう。
・小春は矢田美穂子とのいざこざの例でもそうだったように、善意のお節介が結果的に相手に恨まれ、悪意が自分に向かって来た時にはそれ相応の態度で返すし、憤る。春希の場合は問題を解決できなかった自分を責める。それは、まったくもって普通の心理ではない。


ようするに小春のお節介・親切はまっすぐな「天然モノ」。善意をもって、相手のために動く。
春希のそれは動機が歪んでいる。雪菜がいうように「相手を想いやる心に、あまりに引きずられる」というのはあるのだけれど、元々のお節介の目的は"相手のため"でなく、"問題解決そのもの"。
たとえば「雪が解け、そして雪が降るまで」でかずさ目線で語られるエセ親友・早坂親志での事例のように、相手の成長とか面子とか立場とか、そういうのにおよそ頓着しないところがある。



ある意味、だからこそ、春希のお節介は(諦めをもって)受け入れられる。
実は春希が相手にしているのは生じている問題そのものであり、介入されている人間はいってしまえばその構成要素に過ぎない。
「相手を想いやる」ことにははまっても、相手が自分を思いやって干渉することは拒む。
相手が抱えている問題には踏み込むくせに、自分の問題には踏み込ませない。対等の相手として向き合うつもりがない。
もともと自分を相手にしていない彼を避けようとしたり、反発し、逆らったりしても、解決に邁進する春希が駆使する根回しや策略にその行動も織り込まれて押し切られるだけで、やはり意味が無い。

小春の春希への見立ては正しい。
かずさ(と雪菜)とのバンド活動をしていた時以外の「永遠の委員長」たる北原春希は、ある意味でとても周りに対して「冷たい」人間だから。


※以下、少し杉浦小春についての余談。


その違いが分かるからこそ、春希の眼には小春の「天然モノ」のお節介……その健やかな善意が眩しい。
だから、しっかりと自らの問題に自ら向き合って決着をつけた小春の意志を強く尊いものと感じる。
ただ、求める理由こそ違っても「正しさ」の前に本当の望みを、欲望を拒んでしまおうとする姿は、かずさを選びきれなかった三年前の春希とよく似てしまっていて。
小春は雪菜が中学時代の自分を重ねただけでなく、春希が三年前の自分をその中に見てしまう存在ともなって。
小学六年の自分を救おうと報われないあがき続けてきた春希にとって今自分が救うことができる、そして雪菜にも救うことを許され、望まれた小春に手を取るのは"より正しい"、逆らいがたい流れとなっていて。
だからこそ、雪菜と比べて小春を選ぶことが出来た。


しかし、小春はサブヒロイン三人組の中でも一番、後にかずさと春希が再会してしまった場合に分が悪そうなのが切ない(逆にかなり強力に対抗できそうなのが千晶)。


最終的に春希が小春を選ぶ、雪菜が春希に小春を選ばせるロジックが


・傷つく人ができるだけ少ない
・救うことができる人を救う
・今一番救いたい人を救う


なのだけれど。
これらは同じ土俵でかずさとかちあった場合、


・雪菜を裏切るときほど小春を裏切って傷つく人の
 質(特に小木曽一家、武也、依緒あたりに比べて)と量は揃うのか
・「春希にしか救う事が出来ない」基準でかずさと張り合えるか
・「春希が今一番救いたい」基準でかずさに勝てるか


ということになって全面的に分が悪すぎる構造に見える。
春希の中でかずさを選ぶことが「より正しい選択」になってしまう展開が想像されてしまう。


その上、そもそも「正しさ」では、かずさに対抗できない。
小春の上に雪菜と春希両方の過去を重ねることで、春希にとって小春を選び、助けることは雪菜に対してそうするよりも「正しい」ことにはなった。
そして春希は小学六年以来「正しさ」にこだわり、求め続けてきた人間だけれど、本当に欲しいものは「正しさ」なんかではなくて。
離れている間は自分に嘘をついて信じ込むことができても、かずさを目の前にしてしまえば春希はそれを思い知らされてしまう。


正直、後味悪いなんてもんじゃないのだけれど、自分には打開策がみつからない。
(ただし、根源の問題が家族に関わるものだけに、どのヒロインについてでも子どもができた場合にはその時点でかずさの呪縛から解放され得ると思う。その面でも千晶の見立ては身も蓋もなさすぎるほど正しかった)






[4]なぜ、あんなにもかずさが一番なのか(前編)


他人の問題解決そのものを目標として歪んだ「お節介」を繰り返す……そんな春希のあり方にはある程度以上彼と関わった人間なら揃って深い欠落(とそれから逃げる彼の切実さ、必死さ)を感じるがために、千晶が評していうように「誰もが彼に何かを与えようとする」。
いうまでもなく、その「誰も」の中の最右翼が小木曽雪菜ということになる。


しかし、ここでの問題……というよりも『WHITE ALBUM2』全体を通じての最大の問題は、冬馬かずさがあまりにも北原春希の欠落にぴったりとはまり込んでしまったために、かずさの存在がある限り、北原春希は当人がどんなに思いの向きを変えようと望み、自らを駆り立て、決断したと思い込んだとしても……本当には心の中での最も愛する相手として冬馬かずさを選び続けることにある。


WHITE ALBUM2』本篇において雪菜TRUE ENDで「婚約者特権」が行使されて以降を除く(Closing Chapterの全てのEND時点を含む)9割9分の時点において、北原春希の心の中の第一席は常に冬馬かずさが占めている。
浮気ゲームなのだが「誰に対する浮気なのか」といえば一貫して「かずさに対しての浮気」だという構造になっている。


なぜ、冬馬かずさはそんなにも呪縛のように北原春希を捉えて離さないのか。
それはいわば、IC全体が(codaで春希がかずさとの再開時に「魔女」とたとえるように)≪魔女が王子に解けない呪いを掛ける物語≫として完璧に機能してしまっているから。
北原春希にとってICは≪抱え続けていた欠落の穴に既にぴったりとはまり込んでいたものに一度背を向け、それでいながら大切なもの(心からの憧れ)を裏切っでもあまりにも僅かな時間だけその手に抱きしめ、その上でもう一度訣別したことで、一つの思いが決定的・絶対的な呪縛として完成されてしまい、もうどうにもならなくなってしまった≫話といえる。


先述したように、春希のお節介や優等生であろうとする努力はいわば不毛な灰色の世界に彼自身を閉じ込めるもの。
武也が100人の女を生贄にしてもただ一人に思いが届かない鬱屈が強まるばかりなのと同じ。
それはやればやるほど自分の本当の望みに背を向けていることになるのだし、「それだけやっても近づいて、手をとってはくれないのか」という失望(春希は母親に対して。武也は依緒に対して)ばかりが高まるだけ。


しかし、春希にとって、かずさに対してのお節介だけは、出会った直後から全く意味が違った。
高校三年の始業式から数日、音楽専門クラスから移ってきたかずさの初登校日。
一目惚れというあまりにも単純で、しかし強力な衝撃が「北」の「原」という名字……家族の縛りの象徴……のイメージ通りに灰色に閉じた春希の世界にヒビを入れて。
その直後から「好きな女の子にこちらを向いて欲しい、しゃべりかけてほしい、心を向けて欲しい」という一心で春希はお節介を焼き続ける。
反発でも拒絶でもなんだっていい、ただただ、自分を見て欲しい。無関心だけはやめて欲しい。
それは母親との「相互不干渉」の対極にある態度であり、思いでもある。


≪みんなの委員長な優等生≫が、弾けもしないギターを高校三年にもなって始め、堅物なのに一途な恋の歌詞を散々苦しみながらでも書き上げた。
思いを向けた相手に一日だけでもギターを教えられたことがどうしようもなく嬉しくて「1日10時間練習が必要」といわれただけで成績も試験も最低限の点数だけで満足して、それで上達をした(それでもへたくそな)音色を(第二音楽室の主が誰かを知らない彼は)それが届いているなんて夢にも思わず)聞かせた。
学園祭に向けて例年通りに周りから頼られても断りに断って、好きな女の子と一緒のバンド活動に熱中した。
ただただ、好きな女の子に無関心でいて欲しくないから、振り向いてもらいたいから……とのエゴ丸出しの行動を貫いた。


北原春希にとっては「こうして自分のエゴのために動くことができる理由となった」というだけでも、冬馬かずさという存在のもつ意味はものすごく大きい。
その上、まず、春希が知らない/気づかない/目にしていてもどうしても認めない・信じられないところで、かずさはそのエゴに満ちた思いに応え続けていた。


春希は第二音楽室の主をずっと知らなくても、かずさは隣部屋の下手くそなギターの主をとっくに知っていた(「雪が解け、そして雪が降るまで」)。
知っていて、その不器用な演奏にその才能の限りを尽くして答えていた(その答え方のとんでもない遠回しっぷり、≪それで相手に伝わるはずだ(なぜ、伝わってくれないんだ!≫と思ってしまう無茶振りは、春希の楽器演奏に負けず劣らずコミュニケーションとしてとんでもなく不器用)。
ICでオープニングとして空港での場面が先取りされて提示された直後、いわばゲームの本当の始点、武也と春希が会話する第一音楽室の場面で既に、春希のギターにかずさのピアノが応えている。
ゲームの最初の最初の時点から春希とかずさの思いは相互に向けられあっている。カップルは既に内面において成立している。『WHITE ALBUM2』は、≪にも関わらず、春希がかずさ以外と浮気するゲーム≫という構造を持っている。


ICにおける二人のディスコミュニケーションの描き方は念入りかつ鮮やか。
春希は一日だけギターを教えてもらえたことがどれだけ嬉しかったかなんて、かずさはまるで知らない、知ったとしても気になんてしないと思っている。そのアドバイスを愚直に守り、上達した音色を第二音楽室で聞いたかずさがどれだけ嬉しかったか、春希は知らないままでいる。
春希は自分がプレゼントを渡したことでどれだけかずさが喜んだかも気づかない。「雪が解け、そして雪が降るまで」で描かれるように、参考書なんて不粋にもほどがあり過ぎるそれを、一度無くしてしまったかずさがどれだけ必死に探したか、春希は知らない。
勿論、それよりなにより。毎日の教室で春希は自分がかずさを見ていることばかりに気持ちを向けていて、かずさがどれだけ自分を見ていたかを知らなかった。それを知った時には、あまりにも遅かった。


なぜ、春希は気づかないのか。
それは一目ぼれの衝撃で自分の望みのまま、エゴのままに動くという壁は破れても、≪そんな似合わないことをなりふり構わずする自分はどうにも不格好で惨めで情けなくて、想いを向けた相手がそんな自分に応えてくれるなんてあるわけがない、信じられるわけがない≫と思ってしまうから。
それはcodaかずさルートでのかずさの心情の鏡写し。似た者同士の二人。

「五年前、さ…
あたしも、そんなふうに理由がわからなかった」
「え…?」
「世の中に反抗して何もかも遠ざけてた馬鹿に、世の中のルールが服を着たようなお利口さんがずかずか近づいてきた理由がさ」
「それって…」
そんな馬鹿とお利口さんが出逢ったのは、
偶然隣同士の席になった、3年E組の教室だった。
「気のないふりで遠ざけたって、本気でうざがったって、嫌いじゃないのに嫌ったって、かけらも気にせずに、馬鹿を構おうとする理由がさ」
あの頃のお利口さんは、
馬鹿の歓心を買おうと必死だった。


友人たちから奇異の視線で見られても、
先生たちから本気で忠告されても、
愛想よく応えておきながら、気にしちゃいなかった。
「世界と一番うまくやれてたお利口さんが、
世界から一番爪弾きにされてた馬鹿に、
そこまで本気になる理由が…わからなかったんだよ」
馬鹿の言う通り、本気だったから。
「なぁ、春希…
お前は、どうしてあの時のあたしを…」
「あんな、あたしですら大嫌いだったあたしを、
好きになって、くれてしまったんだよ…っ」
「っ…」


気になってたから。
放っておけなかったから。


大好き、だったから。


「捨て犬はなぁ…
一度心を開いたら、もうどうしようもないんだぞ?」


そんな、あの頃からずっと大好きだった馬鹿が、
今、力いっぱい俺を抱きしめてる。


「飼い主は、他にもたくさん犬を飼っているかもしれない。
けれど、今まで捨て犬だったあたしにとっては、世界でたった一人のご主人様なんだぞ?」


気持ちを込めて、必死に言葉をぶつけてくる。


「二度と、忘れることができなくなってしまうんだぞ?」


お利口さんでしかなかった普通の男に、
本当は天才だった馬鹿が、本気になってる。


誇り高き狼が、自らを捨て犬と卑下してまで、
街に住む人間に、その美しい毛並みをこすりつける。


そんな歪で、だから純粋過ぎて、
綺麗だけど儚い想いの丈をぶつけられた俺は…


「そんなの、単純な理由だよ」


ずっと隠し続けてきた…
秘密にする価値もない、
恥ずかしい告白をするしかなかった。


「もし相手に知られてしまったら、
五年の恋も一瞬で醒めてしまうかもしれない、
ものすごく当たり前で馬鹿らしい…理由だよ」


身も蓋もない、美しくもない。
それどころか低俗で愚かしいと言われても仕方ない…


「望むところだよ…
できることなら、あたしを醒めさせてみろよ」
「かずさ…」
「そしたらお前はもう、罪悪感を感じずに済む。
望み通り、雪菜の元に帰れるんだぞ?」
「顔が好みだったからだよ!
一目惚れだよ!」


ここで告白されたとおり、確かに一目惚れが春希が心に築いてしまっていた壁をいきなり乗りこえさせるに足る衝撃だったのだけれど。


その恋が深まっていったのは「世界から一番爪弾きにされてた馬鹿」は、母親に愛されたいがために「お利口さん」を演じていた春希の目にはその音楽的才能を知りもしない最初の最初から(周囲の目などものともせず自分を貫く)「誇り高き狼」として映り、そのイメージは相手を知るに従って強まるばかりだったから。
そしてかずさにとって自分が「あたしですら大嫌いだったあたし」だったように、春希はまず「お利口さん」な自分は大嫌いだった(だから「完全に灰色」だったと三年間を自嘲する)。
その上、せめて「お利口さん」ならば周囲もそれとして価値を認めてくれるし、いずれ母親だって振り向いてくれる(振り向いてくれるべき)と思う一方、一目惚れした末にその「お利口さん」すら振り棄てたというなら、春希にとってそんな自分は無価値の上にも無価値な、勝手にエゴをぶちまけて自己満足に浸ることしか期待なんてできない、誰も心を向けてくれるわけがない存在だとしか思えなかった。
春希にとって、大嫌いであっても必死に「お利口さん」を演じてきた自分はその必死さの分、価値があると思いたい。そう思わずにはいられない。その分、「お利口さん」を捨てたときの自己評価はひどく低いものにならざるを得ない。
春希があまりにもかずさの思いに鈍感な上、あまりにもはっきりした(雪菜はもちろん武也、依緒、それにエセ親友・親志から見てさえあからさまな)彼女の言動にさすがに気づかされた上でも≪相手の思いを信じることができない≫というのは≪エロゲー/ギャルゲーや恋愛漫画の主人公にテンプレ的に必要とされる都合のいい鈍さ≫ではなく、こうしたロジックに基づいている。


高校三年時の春希にとって自分はとにかく「かっこ悪い」存在だと思えていて。そしてかずさはとにかく「かっこいい」存在だった。
かずさが≪世界とうまくやりたかった≫のと同じくらい強く、春希は≪世界に思いのままに楯突きたかった≫という関係にあった。
互いに互いの表に出せず押し込めた望みをみていた。
そんな望みと関係の、ある種の現れとして次に引用するくだりも面白い。

「「へぇ、いい度胸だな北原。
お前が音楽のことであたしに偉そうな口叩くとは」
もちろん、全て俺のために。
冬馬がそれを望んでなかろうが関係なく、
俺のエゴを満たすだけのために」
(春希/IC/かずさに曲途中でのサックスに持ちかえてのでのアピールを押しつける際に)


前提として二人とも、自分の望みを望みのまま押しだすと、それは世界と軋轢を生むのだと思い、自分たちはそういう存在なのだと認識していて。
そして、だからこそ二人ともが小木曽雪菜に憧れた。
素直に幸せを求めることが、世界ともうまく付き合うことにつながる……二人の目には小木曽雪菜はそういう、世界を愛し、世界に愛される存在として映ったから。


しかし、雪菜に向けた「正しい」憧れよりも、押し込めていた、だからこそ強烈に惹きつける「正しくない」欲望の方が、春希にとってもかずさにとっても(かずさの望みは「世界とうまく付き合う」なんてことじゃなくて「世界に背を向けてでもとことん自分だけを見てくれるただ一人」)明らかに強いものであり、心が求めて止まないものだった。
また、春希にとってかずさに寄せる「親に見捨てられて傷ついた(ことがある)子ども」としての深い共感は、(かつては北原家がそうであったような)理想の家族を続けている小木曽家の輪に入っていくこと/入っていけるのではという期待よりも強い引力として働いている。痛みへの共感は、憧れと希望とを上回る。


春希の心は文化祭のステージに大きく先だって、既に自分が抱えた欠落にすっぽりはまる相手として、決定的にかずさを選んでしまっていた。
ICで「届かない恋」の詞を書きつけられた(武也に渡された)ノートにかずさが何日も夢中になってメロディを書きつけ続け、それを取り上げた教師に激高し、第二音楽室へ歩み去っていく。
優等生のはずの春希もそれを追っていき、授業をサボる。そして……

「そこまで言うなら聴いてみたいな。
お遊びじゃない、冬馬の本気のクラシック」
(中略)
「流れるように、色々な表情をした音の波が、
俺を包み込んでいく。

ただ、俺一人だけを…」
(中略)
「あれほど聴きたいとねだっておきながら、
よくぞ寝た」
「しかも目の前で。
というか、この大音響でよく寝られるな」
「あ、いや…なんていうか、
聞いてると安心するんだよ、冬馬のピアノ」
流れるように、色々な表情をした音の波が、
俺を包み込んでいって…

なんだか、あまりにも気持ちよくなってしまった。
そう、決して退屈だった訳じゃない。

…と思わないでもないけどどうなんだろう」


この時点でまだ、春希はかずさが異常に執着したノートが自分の記した歌詞についてのものであることを知らない。
もはや疑いようのない、決定的な自分への好意の表明を知らない。
自分が勝手に憧れている「誇り高い狼」が(自分などとは関わりなく)そのプライドの源泉である音楽へのこだわり故に教師などに踏みこまれて怒ったのだろう……くらいに考えている。


しかし、かずさにせがんだ「本気のピアノ」に包み込まれ、春希はやすらぐ。
WHITE ALBUM2』という物語において≪やすらいで眠る≫ことは、そこが(特にかずさがしばしば口にする)「帰るべき場所(ホーム)」であることを示す。


例えば-coda-のかずさが春希にみせた態度をその母が嘆いた場面を思い返すといい。

「参った…
これは本当に参った…」
「曜子さん?」
と、曜子さんは途方に暮れた表情を一変させ、
まるで欧米人のようなオーバージェスチャーで、
両手を広げて嘆いてみせた。

何をそんなに困ってるんだろう?
かずさの奴、寝起きでも悪いんだろうか?
…雪菜みたいに。

「何が日本には居場所がない、よ。
ここだけ治外法権
親の面目丸つぶれ」


五年後の冬馬かずさがこうしてとことん依存し続けていた/いる母親以上の存在として北原春希を捉えているように。
ICのこの時点(繰り返すけど、ノートの中身を春希が知る以前)で既に冬馬かずさは北原春希にとって、こだわりつづけた母親以上の位置を占める存在、「帰るべき場所」となっていた。
もうこの時でさえ、その思いと雪菜への憧れとを比べた時、どちらが重いかなど本当は問うまでもないはずだった。


ちなみに、母親⇒かずさという春希の心の中での政権交代については以下の引用部分も参考に……かなりえげつない形で参考になる。

「お前、あたしのこと、
おかあさんと勘違いしてないか?
言っとくが、まだミルクは出ないぞ?」
「母親なんかであるわけないだろ…
かずさは、ただの、俺のかずさだ」
「春希…?」
「だいたいさ…
母親のおっぱいなんて想像したくもない。
そんなもの欲しがる奴なんかいるのか?」
「お前…」
「別に、人の価値観を否定するつもりはないけど、
なんか、ピンと来ないな」
「春希だって、子供の頃は
母親のおっぱい吸って育ったんだろ?」
「だと思うけど、
育つにつれて、そんな記憶
綺麗さっぱり消えていったな」
「………」
「わかんない。
勝手に消えたのか、無理やり消したのか…」
なんでだろ…
かずさは、俺の母親じゃないのに。
そんなこと、心の底から理解してるのに。
なんでこんな、
肉親に話すような、生っぽい話をしてるんだろ、俺…
(codaかずさノーマルルート/かずさ&春希/逃げて行った思い出の旅館滞在二日目)


なお、曜子を嘆かせたかずさの安らぎの意味を春希が(五年後のその時に到っても!)ろくに認識できていなかったように。
文化祭の日の夜、第二音楽室であえて煽情的な衣裳を着替えもしないままで聴かせたピアノの音色に(うち続いた徹夜の疲れもあるとはいえ)やはり安らいで眠った春希の無防備さの意味を、かずさはとり違えてしまう。
完全に心を委ねるほどの愛の証を目にしながら、女としてなど見てくれていないのだと苛立ってしまう。
だから、たまらず、キスをする。
春希にいわせれば、それは次の(ICで雪菜の誕生日パーティの日に帰国したかずさの元へ行ってしまった後の決定的なやりとりの場面からの)引用にある通りだったのに。

「雪菜が告白してくれた時だって、
冗談だろって言いそうになったけど…
それでもものすごく真面目に考えた」


雪菜の歌声に引き寄せられたことも。
冬馬の演奏に身を委ねていたことも。


「けど、雪菜のこと、好きか嫌いかなんて聞かれたら、
そんなの考えるだけ無駄だろ?好きに決まってる」


じゃあ、どっちが一番かなんて聞かれたら、
本当は、結論が出てたってことも。


「そう言ったら、雪菜はまた冗談みたいに喜んでくれた。
それで、さすがに本気なんだって、気づいた」


だけどそんな、自分の勝手な思い込みよりも、
思いをぶつけてくれる相手の言葉の方が
強くて尊いって、そう信じたことも。


素直に心を世界へと歌いかける雪菜の姿への憧れは、春希を強く引き寄せる。
しかし、ピアノ一つで世界と対峙し立ち向かうかずさへ向かう思いは春希を捉えきり、包み込んでいる。
「どっちが一番かなんて聞かれたら、本当は、結論が出てたってことも」。


文化祭の夜のキスに到る眠りの直前のやりとりと共に、あまりにも酷なすれ違いが切ない場面。

「ずっと勝手に親しみを抱いてた高嶺の花が、
 自分から進んで俺の目線に降りてきてくれて…」
もっと、とんでもなくロクでもないことを、
次から次へと口に出してしまう。
「ずっと憧れてて、友達になりたかった奴と、
 やっと本音でわかりあえる、本当の友達になれて…」
「あいつは"花"で、あたしは"奴"か…」
「…嫌か?」
「………嫌なわけないだろ。
 楽しくないわけないだろ。
 嬉しくないわけないだろ。
 聞かなきゃわからないのかよ、そんなことまで…っ」
「だったら、顔にだしてくれよ。
 そんなポーカーフェイスじゃわかんねえよ…」
「っ…」
「?」
「ぅ…ぅっ…ぅぇ…ぇぅっ…」
「どうしたんだ、冬馬?
なんで…震えてるんだよ?」
「っ………寒い…」
「そっか…もうすぐ冬だもんな…」
「ああ…っ」「WHITE ALBUMの季節だ」


ここでもかずさは取り違えてしまっている。
春希にとって"花"についてよりも「もっと、とんでもなくロクでもないこと」は"奴"についての告白だったのに。
本篇において、春希はしばしば台詞でも独白でもかずさを「奴」と呼ぶ。
そんな春希に向かって、後に雪菜が思いを叩きつける場面がある。

「わたしは、あんなにカッコ良くなれない。
あそこまで、強くなれなかった」
「その代わり、もの凄くだらしないんだけどな、あいつ」
「わたしは、なれなかった。
春希くんに『あいつ』って呼ばれる女の子に、
とうとう、なれなかった」
(Closed Chapter(以下、cc)千晶シナリオ/雪菜との最後の別れ)


上記引用部分は千晶を通過して雪菜のかずさに対する敗北宣言にもなっている。



※以下、少しだけ千晶関連で余談。



なお、おそらく春希の内面において千晶ED時点でも、



「奴」と呼ばれる女の子>「あいつ」と呼ばれる女の子(>そうはなれなかった女の子)



という身も蓋も無い順番は健在であるために、千晶ED後にもおそらく厳しい戦いが待ち受けている。




勿論、春希の言葉と態度を誤解してしまうかずさ以上に、これだけ自分の思いが明らかでありながら……そしてありったけの想いを乗せた歌詞にそれを向けた相手がなりふり構わず全てを注ぎ込んでメロディをつけ、共に演奏を終えたなんて後でありながら、相手に向かって決定的に踏み出さない春希が悪い、責任があるに決まってはいる。
しかし、春希がそこでどうしても自分の価値など信じられない、踏み込んで否定されてしまうのが怖くて怖くて仕方がない、だから歩みだせない……原因はやはり「俺の最大の暗部」こと母親との関係であり、春希としてはかなりの部分、どうしようもなかったのだということもシナリオとして強い説得力をもって示されているといえる。

「雪菜が、人を嘲笑うなんてできるわけないだろ。
…だからお前の雪菜は、雪菜じゃないって言うんだ」
(中略)
「雪菜が、俺や千晶たちのこと許すのはさ…
怖いから、なんだと思う」
(中略)
「ほんのちょっとした誤解やすれ違いで
今まで触れあえてた人たちと触れ合えなくなることが、
怖くて、本当に怖くて仕方ないんだと思う」
「『思う』ばっかりだね」
「俺と同じ体験をしてきた雪菜だからさ、
俺と同じ恐怖が植えつけられてるんだと『思う』」


ずっと見てきたんだ、俺は。
ずっと見てきたのに…
どうして今ごろになって気づくんだ?


「お前、知らないだろ?
かけがえのない人を、物理的にだけじゃなく、
精神的に失うことの怖さってさ」


雪菜も、俺と同じだったなんて…


「…逃げてばかりじゃ、おびえてばかりじゃ、
何も得られないと思うんだけどなぁ」
「それは、一度も失ったことのない奴の台詞だ。
…いや、一度も失ったことに気づいたことのない、かな」
(cc千晶シナリオ/雪菜にどうしてもなりきれず、嘲笑われていると感じる千晶に)

先掲の引用の中で春希が雪菜の告白に応じた理由として挙げる

「だけどそんな、自分の勝手な思い込みよりも、
思いをぶつけてくれる相手の言葉の方が
強くて尊いって、そう信じたことも。

という独白についても当然、その文脈の上で捉えてこそ重みが分かる。



さて、ここまでは、≪文化祭のステージ以前の段階で既にいかにかずさが春希の心を捉えてしまっていたか≫という話。
以降(次の日記に持ちこし)は≪雪菜への裏切りとかずさとの一夜、そして別れとが春希にとっていかに拭いがたい傷跡となり、呪縛となったか≫について書いていく。

WHITE ALBUM2』ネタばれ感想その5〜北原春希の言動・選択を家族問題のトラウマとその影響を重視して考えてみる(中編)
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20121119/p1