実写映画&TVアニメ『ブルーピリオド』感想

実写映画&TVアニメ『ブルーピリオド』感想

映画はTVアニメ版と同じ吉田玲子脚本で、アニメは原作漫画の映像化だけど実写版は原案、という感じだなー、と。
それはそれでコンセプトが明快で良いのかなとも思った。とても好きな部分は幾つもあった。

 

まずは主演・眞栄田郷敦の目の演技とその変遷。最初の自分の「好き」もあるべき在り方も見いだせてない泳いだ目から、それを見出し……時に感動し、時に殺意にも迫る激情を、時に戸惑いを……と強烈かつ多彩で素晴らしかった。

場面の映像としては、クレーンで吊り下げもして撮影したという早朝の渋谷の「青」、クライマックスの場面でこれまで描き連ねてきた画が八虎の覚悟を決めさせその歩みを支えるところあたりが特に良かった。

 

また、全体に「色」にこだわり、徐々に色づく八虎の自室や、画面全体に少しずつ進出し時に染め抜くような「青」の動向なんかもとても良かった。

 

心理描写としては序盤、その画が遊んだ後に一緒に観た早朝の渋谷だと友人たちに理解される場面が特に良かった。自分の中にあるとは思っていなかったものに気づき、描いた。まずその驚きと充実と達成感がある。更にその上で理解されるだなんて思ってもみなかった理解をされる。
周囲に「合わせた」生き方という時、自然と周囲を"こんなやつら""この程度のやつら"と決めつけてしまっていた。でも友人たち(特に後に八虎に「その笑顔やめろ」と言ってくれ、意外なパティシエの夢も明かしてくれた恋ヶ窪)にも八虎同様に彼ら自身も思ってもみなかった彼らがそれぞれいて。
そして八虎が思い込んでいるよりもずっと彼らは八虎をしっかり見て、その在り方を察し、理解してくれてもいた。
嬉しさ、驚き、恥ずかしさや申し訳なさ、感謝……様々な感情が凝縮されて渦巻き、溢れる涙。
原作漫画でもとても好きな場面。

 

一方で。
例えば桜田ひより演じる森まる先輩はある種のサブカル(?)男子が揃って憧れるようなミューズの具現化として光り輝いていて、大変尊く綺麗だった。ただ原作では(集中してキャンバスに向かう際の迫力は別として)割と丸っこく、少しばかり地味でどんくさくもあり……余人にとってはそうではなくても、その凄さを見い出せる矢口八虎にとっては美の女神だという描写だった。他にも(八虎を除いた)登場人物は原作漫画をあくまで原案とした別人……という趣は強かった。
原作の高橋世田介は八虎にぜひにと頼まれたから素直なアドバイスとして「芸の上澄みだけを掬ったような絵だな」云々と告げたわけで(その上ですぐショックを受けた八虎に驚く。きっと後に"うわ。そうか、だいぶアレな言い方だったか、自分はなんでこんな言い方しかできないのか……みたいなことも思っていそう)。頼まれてもないのに辻斬りじみた酷評をしてくるようなやつではなかったし。
鮎川龍二は登場の場面やその後の諸々のやりとりにおいても、原作においては"確たる自分の好きを、自分のこだわりを持ち、誰はばかることなく堂々と示し続ける"存在として八虎にとって気後れや強い圧を感じる存在(一方、龍二にとっては社会や周囲に巧みに自分を合わせることができる八虎にコンプレックスがある)として描かれる(だからこそその龍二が崩れ、脆さ弱さを晒す場面に八虎はショックを受けもする)けれど実写映画版はなんというかだいぶフラットに龍二を映していた。
尺の問題で仕方がなさすぎるとは思うけど美術部の佐伯先生(それでも薬師丸ひろ子の迫力や存在感はさすがだった)も予備校の大葉もだいぶ指導が雑。
予備校の仲間たち(橋田悠、桑名マキ他)はろくに掘り下げる余裕がなかったんだな、とも思う。
ただ、そうして原作漫画とは別人ではあるのだけれど、パンフレットでも繰り返し"コスプレにはしない。絶対にそれは避けたい"旨が表明されていた通り、それぞれに概ね作中世界にしっかり存在する人間として魅力的に描かれ、映され、演技してもいたとも思う。
ともあれ役者陣は……眞栄田郷敦の目の演技(や仕草、佇まい)をはじめノンバーバルな部分は全般に非常に素晴らしいなと思った。一方、台詞周りにごくごく個人的に色々違和感があったのはそこにおいてアニメ版が好き過ぎるからだろうとは思う。

 

最後にこれはちょっとというかだいぶ好みと違うな……と思えたところもあって。

例えば「俺にとって縁は……金属みたいな形かもしれない」という場面。
あそこは普通に溶接とかバーナー?とか用いての金属加工とかのイメージくらいであって欲しくて。そのイメージを広げる、広げたイメージに自ら入り込む……という形の鮮やかさはあるべきだけど。
なにやら厨二主人公が目覚めた異能振るうみたいな凄い音楽ガンガンかけて振るう筆からエフェクトじゃんじゃか走って……というのは「え???」と思った。
ただまあ、好みといえば好みの問題かもしれない。