アニメ『RED GARDEN』全話感想


アニメ『RED GARDEN』全話の感想まとめです。
はじめはtwitterで各話毎に呟いていましたが(1話〜12話まで)、最終話感想がやたらに長くなったこともあり、途中(13話以降)から日記形式にすることに。
※少しわかりにくいですが、togetterのまとめの後に(「この続きを読む」を押さないでスクロール)13話以降を載せています。

togetter.com


○『RED GARDEN』13話。


エルヴェとのデートへの期待に胸を弾ませるケイト。
朝の登校時、イヤホンからの音楽に耳を傾けるクレアに声をかけ、ケイトも聴かせてもらう。
その曲は8話で家賃を払えず追い立てられそうになっていた時と同じで、どうもクレアというキャラクターのあり方に関わるものっぽいのだけど、何の曲なのだろう。


8話に続き、レイチェルと眼鏡教師ニックのコーヒー談義。
かなりわかりやすく、コーヒーの苦みは人生の苦み。
エスプレッソの強い刺激は苦しさを忘れさせる……が、回復できる若いうちはその記憶を手放さない方がいいとニックは語る。


ケイトとエルヴェのデート。上着は青、ズボンは赤のケイト。
赤い上着に、緑と白を羽織り、グレーのズボンのエルヴェ。
常に青と赤の危ういバランスの上の二人の関係。


○『RED GARDEN』15話。


クレアが父の会社に電話し、兄の悲報を聞かされる時。
背景の右は赤、左は青の灯りを放つ建物(その中間にあたる位置に、左に進んできたクレアは立ち止まっている)は12話でエルヴェとケイトが初めて二人で散歩した時に言葉を交わした時と同じもの。


○『RED GARDEN』16話。


……ばあちゃん、強ええ!!びっくりした。
JCとルーラ。偽物の、力弱いJesus ChirstとRulerで、何も救えないし、状況を支配なんてできていない。
全ての嘘が崩れ、剥き出しの残酷な真実が顕れる。
16話タイトルは「哀しい嘘」17話「真実」。


○『RED GARDEN』18話。


ルークと別れ、友人ともきまずくなり、教室に入れないレイチェル。
ローズに誘われ、授業をサボる。
ローズ「数学って本当に嫌だよねえ。普通に生活するのにXとかYとか要らないよね」。
あー……性染色体の話してるよね、これ。


○『RED GARDEN』19話。


ケイトの願いで、リザの墓の前に行く四人。
レイチェル「悲しむとか……そういうのはわかんないけどさ。消えたひとのこと、残されたほうは絶対に忘れないんだ」(中略)「最後まで、ちゃんと生きよう」


○『RED GARDEN』20話。


他に誰もいない、入学直後に初めて出会った大教室で、その時から今までを振り返るレイチェルとルーク。
記憶を葬る喪服のような灰色のワンピースに、赤い帯。大きな金のハートをぶらさげたネックレス。
ルークが着ているのは暗い青のセーター。


クレアの親子エピソードがあまりに良すぎてどうしようかと。
しかし、その直後から……。
「私たちの主」の呪い。動けない、永遠の生。主たちも代理たるアニムスも女性だけ。
動かない主たちは人間よりも、人形のようなビジュアルで描かれている。
いわばそこは『人形の家』なのか、とも思う。



○『RED GARDEN』21話。


ケイトに化粧を施すポーラ。アイラインやマスカラ、そして唇に紅を。北村薫『夜の蝉』表題作にも、主人公の≪私≫に姉が紅を引く場面がある(創元推理文庫版p205)。
その時≪私≫が心の中でそれをどう感じたか。
この場面も、当然に同じ意味を持っている。
また、この件は18話のローズ「XとかYとか要らないよね」と響き合うのかもしれない。


ローズの家に現れたサンタ。
クレアがユアンと過ごしたクリスマス。
車でずっと待っていた父とすれ違いざま交わした挨拶。
どれも素晴らしいエピソード。


そしてクリスマス翌日、四人が集まる。
最後に来たクレアに、ローズ(その手袋やマフラーはきっとサンタからのクリスマスプレゼント)が「クレア、手ぶらなの?」と訊ねる。
「だって、必要ないじゃん」と答えるが……その首には(20話の)白い男物のマフラーがしっかりと巻かれている。


○『RED GARDEN』22話。


この最終話感想は、観た後にようやく読むことが出来た、

「朝まで生アニメ語り「RED GARDEN」」
http://togetter.com/li/319382

をいろいろ踏まえていたりもする。


橋を落とし、閉じ込めた上で侵入、蹂躙するエルヴェの作戦により、緒戦で大きな被害を受けるアニムスたち。
……うん、この後のやりとりも含め、ジェンダー的な解釈を大いにしていいところだと思う。
というか、露骨にそういうものとして描かれているよね……。


そしてはじまる罵倒糾弾合戦。
橋の上に現れた、アンナを抱えたエルヴェ。
開幕の辞はケイトの独白

「…嫌な…男」


やがて本格的に戦端が開かれ、主戦場より数段下に降りた場所でケイトとエルヴェは罵り合う。

エルヴェ「バケモノめ!」
ケイト「私はあなたを許さない!嘘の言葉、嘘の笑顔…全部嘘!」
エルヴェ「既に死んでしまった女になんの気づかいが必要なんだい?」
ケイト「本当に嫌な人! 私の悩みなんかなにも関係なく、こんな酷いことができるなんて!それにあなたが抱いている妹は、もう……」
エルヴェ「喋るなあッ!アンナはまだこれからだ。美しい未来が待ってるんだ。お前たちのような終わってしまったバケモノとは違うんだよ!」
ケイト「よく見なさいよ!私たちが今まで見てきた人たちと同じ、自分を抑えられないバケモノになろうとしている!」
エルヴェ「うるさい!臭うんだよ。お前ら臭いんだよ!」


「お前ら」と聞いて、橋の上から様子をみていた面々も反応。

レイチェル「ハァ?」
クレア「ガキだ……」
エルヴェ「アンナ、大丈夫だよ。あんなバケモノ連中、すぐにやっつけてやるからね」
クレア「バケモノはアンタが抱いてる子だろぉっ!」


この叫びに、エルヴェが激昂してすっ飛んでいく。

エルヴェ「死人が生者をとやかく言う必要はない!お前らは死んだ!」
ケイト「仮の命でも、仮の体でも、私たちは生きている! 死人なんかじゃない!」
エルヴェ「なら、なぜ何も持たずにここへ来た?それはお前らがすでに必要ない者だからだ!何ひとつ未来へ繋ぐことができない不要な存在だからだ」
レイチェル「確かにあたしたちはなにも持っていないわ。これから先になにも残せないかもしれない。それでも生きたいの!」
エルヴェ「アンナは生きている。これから先も、ぼくたちの希望を抱きしめて…」
ケイト「その子はまだ生き続けることを望んでいるの?」
エルヴェ「なんだとぉ?」
ケイト「そんな姿になってまで本当に生きたいのか、聞いてみなさいよ!」


ここで、彼女たちは「何も持たずに」来てはいない。
たとえばクレアの首のマフラー。
ローズの手袋とマフラー。
ポーラから贈られたメモたち。
レイチェルは……えーと、うん、友人たちの憧れを着てる。
ともあれ、この作品のこのやりとりではエルヴェの分が悪い。


18話「XとかYとか要らないよね」や21話のケイトに化粧を施すポーラとかからは、アニムス側について、いわば「女、怖いなあ」という感じがしていたのだけど。
ドロル側というかエルヴェはエルヴェで……この後の発言集も含めて、なんだかとってもマコン公会議な感じだよなあ、と。理性的存在として分類されるべきか、獣として分類されるべきか。魂を持っているか。
おいおい、それはまずいよ、と。くわばら、くわばら。


ケイトは少女をアニムスに仕立て上げた側の罪は問わず(「補充」とまでいってたんだけどなー、あの方々。比較すれば、より性質が悪かったのは……)憎悪と糾弾はひたすらドロルに向けられる。
ケイトは≪私に嘘ばかりついた≫エルヴェを絶対に許さず、ひたすらに糾弾し、憎む。
このケイトのあり方をみるに、ケイトはとてもアニムスらしいアニムスだなあ、と。
しかし……。

ケイト「知ってる? 私あなたを少しだけ「いいな」って思ってた……リーズもきっとあなたのことを」
エルヴェ「気色悪い!」
ケイト「……バケモノは私たちでもその子でもない!あなただわ!!」

うん、エルヴェさん、これは一番ありえない。
これはまずいよ、エルヴェさん。

エルヴェ「殺してやるよ、もう1度!」
ケイト「私はもう死なない!」
(中略)
エルヴェ「何度でも殺してやる!」
ケイト「何度でも生き返ってやる!」

えーと。他の三人及びルーラ乱入後のやりとり、展開も含め、とても性的なやりとりだよなぁ、と(フランス語で"小さな死"とは……)


二つの呪いの書は奪い合うから呪いの書になるのであって。
もしも分かち合い繋がり合うものとして扱われたなら、それは祝福と生誕の書になるものかと思えたりする(cf:アニメ『輪るピングドラム』)。
アニムス側の勝利で4人が手にした「永遠」……うーん。それって……。


しかしまあ、少女をアニムスに仕立て上げる側も。
敵であるアニムスさえ自分たちの希望たる子孫の母体として望むように作り変えようとするドロル側も。
……なんというか、えぐいよなあ、と。


ドロルの生き方の中では、ドロルの女性は若くして発狂して獣になってしまう。
(おそらくとりわけ近代から)時代が進むにつれて発症時期が低年齢化して、現代においてはもうドロルの一族の中において女性が絶滅してしまおうとしている。
そしてそれはアニムス(「女性の無意識人格の男性的な側」http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%9E )の呪いとされている……。
また、ドロルの男性も(そのドロル的な生き方の「かくあらねばならない」という負荷に耐えかねて?)女性より大分発症率、発症年齢共に遅いものの、発狂して獣となる恐れがつきまとう。
発症したドロルの男性をおびき寄せるのは、芽吹き、蕾から開いた真っ赤な花……。
うん、そりゃあジェンダーな視点で読むべきだし、露骨にそうだよな……。


なお、赤い花に対し、赤い蝶とは。
まず、蝶は羽化の象徴。少女は羽化に憧れ、誘われる。
続いて、蝶はギリシア神話において魂および不死の象徴でもある。
更に、バタフライエフェクト……広がっていく無限の変化と混沌に満ちた可能性の象徴ともいえそう。


ともあれ。
「少女」というのはいろいろ辛く厳しいあり方だから(「存在そのものが」というよりも、男性側・女性側両面からの強力な仮構の犠牲者というかなんというか……)、古代進に倣って「戦うべきじゃなかった、愛し合うべきだった」などと言われても「うるせえ、ボケ、バットで殴り倒すぞ」という感じになりそう?


で、「行きて愛せ、この地球上に何一つ助くるものがなくとも」となる。
「何一つ助くるものがなくとも」を作中にあてはめると。


まず、作中最大の不条理と悲惨の被害者はアンナに象徴される話。
時に「少女」にはそうして運命の理不尽にうちのめされ、そこになんの救済もないという桜庭一樹的な風景が訪れる……しかし、それでもなお、ということ。


続いて、『RED GARDEN』OPが描くように少女(たち)が夢想したような「王子さま」(エルヴェ)が現れたとして。
その「王子さま」はとんでもない嘘つきで、少女(たち)が魅入っても相手は少女をまるで見ておらず、その眼に魂あるものとすら映っていないなどということも往々にしてある……しかし、それでもなお、ということ。


≪にも関わらず、それでもなお、「行きて愛せ」≫というのが……どうも、作品のメッセージであるらしい。
で、およそ「王子さま」ではなくても、優しいけれど弱気で頼りない少年たち、サム、ルーク、ユアン、それに冴えない眼鏡教師ニックたちはそれに応える存在だという構造をもってもいる。
「行きて愛せ」たならそれに応えてくれるだろうというのが前期EDの『☆Rock the LM.C☆』の面々で、あの歌詞であの歌で演奏なのだろう(あと、あのコンサートを本編で殉職した刑事二人組(クロードとニール)が警備していてくれたりすると更にいい)。
それにアニムスたちが熱狂し、実にアニムスらしいアニムスというべきケイトの満面の笑顔はそれを締めくくるのに相応しい。
個人的な感覚として、22話全て終わった後で、最後の最後に前期ED『☆Rock the LM.C☆』流れてくれてもよかったんじゃないかなあ、と思えたりする。
あのEDは実にいいと思う。


あと、弱くて頼りないといえば、例えばローズの父がいて。例えば、妻の死に打ちひしがれ、より辛かった子どもたちより自分の悲しみを優先させてしまったクレアの父がいて。
ローズは「行きて愛せ」を敢行して、その結果があのクリスマス翌日の朝だった……という話でもある。
あれはいかにもクリスマスのエピソードらしく、物語全体のあるべき振る舞い方と報いとしての救済を先取りしていたものだったかとも思う。



ところで、アンナが作中随一のとことん不条理な運命の犠牲者であるのに対して、もうひとつの事態の中心であるリーズはというと。


各々自分たちをアニムスとして、ドロルとして、仮構し定義し仕立て上げ、それ故に互いに蔑み憎み奪い合う二つの勢力の争いに対して……どちらにも柳のように自然にしなやかになびく存在が彼女なのだと思う。


23話でのリーズの台詞。

「(置き捨てられたクレアの車を前に)ありがとうクレア……これで授業に間に合いそう」

「(ケイトたち四人に発見、保護されて)授業は?……グレースにチケット切られちゃう…」


リーズは、アニムス側の根拠地である学園が示す外界へのルール(女性のペルソナ)に忠実に従う少女でもあった。

「ケイト……私ね、彼氏ができそうなの…… とっても優しい人なのよ…」


リーズはエルヴェが演じたつもりになっていた優しさ------実はドロルを正しく補完すべきアニマであり、確かにエルヴェの裡にあったもの------に素直に惹かれ、エルヴェの中にそれを確かに見出すことができた少女でもあった。


RED GARDEN』のラストで最後に残ったアニムス5人の中でリーズだけが「ケイト……私ね、彼氏ができそうなの…… とっても優しい人なのよ…」という呟きと共に灰となって消え去り、その灰が(アニムスたちとドロルたちの最後の戦場となり、両陣営の多数の魂が散華していった)島中を花で埋め尽くしていったことは、そんなリーズによる両陣営への鎮魂であり精算であり終焉を意味しているのだと思う。


wikipediaの各話スタッフリストをみると
http://ja.wikipedia.org/wiki/RED_GARDEN
脚本は10話(佐藤裕)を除いてシリーズ構成の山下友弘さん(1-4,6-7,9,11-12,14-16,19-20)と、岡田麿里(5,8,13,17-18)、共同担当回(21-22)となっている。


黒服がモップで地味に証拠隠滅(5話)、レイチェルとニックのコーヒー談義(8話&13話)、珠玉のエピソードである缶詰食事会や作品全体のメッセージとも読めるサブタイトル「行きて愛せ」を掲げた8話、ローズ「数学って本当に嫌だよねえ。普通に生活するのにXとかYとか要らないよね」という発言がある18話、あと共同担当回だけど21話のポーラがケイトに化粧を施す件……実に岡田麿里だよなあ、と思えたりする。