東京大学物語〜最後の10分の怒涛の《四重オチ》は笑える。


なんだか色々と事情もあるし、前売り券も貰ったし……ということで、なんとなく観にいった作品。
で、この映画は、原作の江川達也が自ら監督したわけだが、その真価(?)が十全に発揮されるのは、ラスト10分に入ってから。この映画を観る人は、その時までは、じっと我慢の子でいよう(いや、そこまでもそれほどひどいわけではないけれど。むしろ、結構笑える場面や、無駄に長……じゃなかった、たっぷりと楽しめるベッド・シーンなども幾つかあるので、それはそれで楽しめるかもしれない)。


しかし、最後の10分における、あの『まじかる☆タルるートくん』の作者ならではの、実にカッ飛んだ驚きの展開にはたしかに一見の価値がある。「ぜんぜん汲み取ってくれてないじゃないですか!」の一言には爆笑(……って、映画を観ていないとわけがわからない発言だな、これ)。 なんでも、その展開こそが、漫画の連載前に予定していた、「元ネタになったお話を忠実に再現したもの」(江川達也・談)なのだとか。

なお、一応書いておくと、あの映画の落ちというのは、《四重オチ》だ。
つまり(ネタバレのため、背景色と同色文字による伏字で記述)、

「村上が助けに来たというのは死に行く遥の末期の夢でした」


②「その夢も含めて、この映画で描かれてきた遥の物語(決して「村上の」ではなく)は、一人の女性が自身を込めた漫画の草案でした」


③「その草案を託されて、江川達也が描いたのが、漫画「東京大学物語」でした。しかし、それは女性の願ったものからは大幅に異なるものになっていきました。失望する女性。しかし、江川達也はこの映画化に際してついに、女性の託した通りの「遥の物語」を描いてみせたのでした」


④「・・・という、《原作者の女性》も作者である江川達也が脳裏に「そうした思いを抱えた人のために描きたい」ということで思い描いた架空の人物であり、それゆえに、江川達也と女性が並んで座る試写会の席から、掻き消すように女性の姿は消えていってしまうのでした」

ということ。なんともまあ、実に江川達也らしい。

……しかしまあ、まーた、そういう話を連載漫画でやろうとしてたのか、この人は。「編集部の中の人も大変だ」と心から同情したくなる。えらく面白くて、頭も滅茶苦茶切れる人なのは間違いないが、どうにも困ったものだと思わずにはいられない。
ただ、思い返せば、『BE FREE!』は何だかんだいっても力の有る傑作だし、《自立し、成長するのび太》を描き始めた途端に読者から見捨てられ、「どいつもこいつも読者はアホばかりだ!なんでこれについてこれないんだ!こうなるべきじゃないのか!」と作者が荒れまくった『まじかる☆タルるートくん』も------決して作者に全面的に共感するわけではさらさら無いが------実に面白い作品だった。最近の日露戦争のヤツや、源氏物語は読んでいないのでどんな展開になっているのだがよく知らないが。


最後に、もう一つだけ。
単純明快な性格の明るいナンパ野郎の脇役を演じた波岡一喜というのは、実は、結構いい役者なんじゃないだろうか。この兄ちゃん、ちょっと面白いぞ。