『マイ・フェア・レディ』DVD特典映像集〜なんなんだ、この刺々しさ!


思い返せば、『雨に唄えば』『イースター・パレード』『アニーよ銃をとれ』などのDVD特典は、実に明るく輝きに満ちたものとして編集された愉しい映像集だった。
……しかし、なぜか『マイ・フェア・レディ』の特典映像はそれらとは随分趣きが異なるようだ。


まず、メイキングでは、劣化して修復不可能の寸前の状態になっていたフィルムを復活させた、二人の天才技術者の苦心談や、"現代のモーツァルト"こと、アンドリュー・ロイド・ウェーバーがゲストに登場してのこの名作への賛辞などワクワクさせられる話題から始まるが、途中からなんだか雲行きが怪しくなってくる。
ゲストとして登場したジュリー・アンドリュースは当時から何十年経っても《恨みは未だ、消えるどころか薄れもせず》という風情だし、あの素晴らしい衣装を生んだセシル・ビートンは、撮影途中から実に派手に業界の仁義にもとる行為に走ってしまったらしく、当時のスタッフは今に至っても彼を許していないという鬱々とした話題は出るわ、自分で歌いたくて歌いたくてたまらなかったオードリー・ヘップバーンの苦悩は痛々しく語られるわ、「実は私の歌も吹き替えだった」という、ジェレミー・ブレッド自身による30年間抱え続けた秘密の告白(あの「君住む町」が!!)はあるわ、と、「いや、知りたいのはそういう業界の暗部ではなくて、もっと映画を愉しく観るための情報なんだけど……」とため息混じりの抗議をしたくなるような展開に。なんだかなぁ、もう。


そして、何より凄まじいのは製作発表の記者会見。
このインタビュアーがもう、どうみても最初から喧嘩を売りにきてるというのが凄い。
レックス・ハリソンへの質問における第一声が、「大スターは撮影の間中わがまま放題に振舞うという話を良く聞きますが、あなたはどうなんでしょうか?」って、おい。他にも、ちょうどその頃の少し前に製作された(とんでもないトラブル続きで有名だったという)『クレオパトラ』の話題がえげつなく繰り返し突きつけられたりするなど、とにかくもう、終始一貫して実に険悪なムード。


インタビュー映像のトップバッターを務めたオードリー・ヘップバーンなどは、もう、最初から完全な臨戦態勢。「ええ、私は自分の直観(instinct)を信じていつも行動するようにしています。それに尽きます。ええ、私には経験も知識も不足していますから。ええ、アメリカもヨーロッパも同じくらい好きですよ。ええ、アメリカのスタッフは皆プロフェッショナルで、私は演技に専念できて嬉しいです。はい、演技は直観に従ってやるようにしています。ええ、そう、直観なんです(※本当にこの言葉を何度も何度も繰り返していた)……」といった感じで、ともかく一刻も早くその場から逃れたい雰囲気がありありと伺われて、随分とかわいそうだった。


それでもって、最後のほうでは、ジャック・ワーナーが予定にも無ければ原稿もない10分以上に渡る大演説(「1200万の制作費をかけたが、2100万は達成してみせる」「映画は自動車製作なんかとは違い、夢のような作り話を作り話としりつつ、輝かしく作り上げてみせる仕事だ」「最近増えてきたTVの映画放送、あの下劣さくだらなさといったらたまらない」などなど・・・・・・)を始めてしまい、両脇に控えた主演の二人------レックス・ハリソンは「おぃおぃ」という眼で呆れたような視線を送り、オードリー・ヘップバーンはどうみてもうんざりしきってしまっているという、なんだかいたたまれない映像に。監督でもキャストでもなく、プロデューサーであり映画会社のトップである人間ばかりがひたすら喋りまくる、何ともシュールな会見。


そういうわけで、この特典映像は、ある意味とても興味深くはあるが、多少うんざりさせられてしまうものでもある。そういう類のものが好きな人は、是非、記者会見の映像だけでもみてみるべきだろう。あそこまでエグい光景はなかなか観られるもんじゃないと思う。


ちなみに、以前書いた『マイ・フェア・レディ』初見の印象はこちら(2006/03/09)
なお、この映画については、副音声を音声解説にした上で改めて通しで、また、同様にして英語版で、近いうちに合計最低二回は観ておきたい。
あと、昔図書館で「人と超人」「ピグマリオン」だけ一応読んだ記憶があった『バーナード・ショー名作集』も手に入れたので、それに収録されている原作の『ピグマリオン』の再読もしたいし、バーナード・ショー自身が脚色した、映画『ピグマリオン』もおさえておきたいと思う。
特典映像の感じの悪さはともかくとして、この映画は、それくらいの対応はあまりにも当然な、名作中の名作だ。