パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』

パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』がとにかく面白い。
ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

6/8追記。
以下のtogetterのまとめ編集をしました。

パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』感想について、上田早夕里先生によるtweet、リツイートを中心にまとめ。」
http://togetter.com/li/144576

時折僕のどうでもいい発言も含まれてますけど、それはさておき、他の方の発言は大変面白いですよ。
お勧めです。
で、以下、そのまとめ等に関わる前の自分の感想です。

エコSFという疑問だらけのキャッチフレーズや、喧伝される「新たな世界観」などよりも、これはまず何より、全編に溢れる猥雑なエネルギーが素晴らしい、滅法楽しいエンターテイメント小説であると思う。


ハッタリと活劇に溢れた手に汗握る群像劇なのだけど、個性的な登場人物たちはしかし、あらゆる要素が過剰に溢れかえり、汗や廃棄物や食物や充満し交錯する欲の臭いに溢れた未来都市・バンコクの一要素。
小説の主役は都市そのものであり、それが何よりの魅力。


石油枯渇後の社会で、遺伝子操作された象もどきがやはり遺伝子改変のゼンマイを回し「カロリーをジュールに」してエネルギー供給というハッタリはなんとも楽し過ぎる。
遺伝子操作を軸に食物流通(を基礎にエネルギーその他も)を支配し平然と国家も覆す国際企業の人員が「カロリーマン」と呼ばれているセンスも光る。


なお、題名になっている日本産の遺伝子改変新人類の一員であるトンデモ奉仕奴隷「ねじまき少女」が「日本人より日本人らしい」とか何とか言われているような、各所に見られる歪んだジャポニズムは笑って流そう。
一昔前のサイバーパンクでも読んでいれば、十分以上に耐性はついている筈。


それと、上下巻合わせて一枚絵になる表紙は鮮烈である一方、最大の魅力であるところの都市の猥雑なエネルギーがいまいち感じられないようにも思えるけど、それも「あえて」の表現なのかもしれない。


なお、ねじまき少女エミコについては「ご主人様」との関係でエイミー・トムスン『ヴァーチャル・ガール』だとか、奇形の美しさということで「人類補完機構」のク・メルだとか、新人類や人間の似姿ということでディックのシュミラクラだとかヴォクトのスランだとか。
諸々例に挙げつつ、新人類だとかフランケンシュタイン・コンプレックスだとかあるいはジェンダー云々とかの各文脈に載せ、色々とぐだぐだ言うこともできそうです。
個人的にはおよそ気乗りしませんので、詳しくはやりませんけれど。