西UKO『となりのロボット』。人とモノとの間の「好き」を、関係性を見事に描いた傑作

以前から話題になってしばらく前に買っていたけど、なんとなく部屋の片隅に置いたままにしていた小説や漫画を後で読んでみて。
「なんでこれ、何日も放っておいたんだ!」となることがたまにある。
で。今朝、ようやく、今更、西UKO『となりのロボット』読んでびっくりした。なんだこれ!!
読んですぐ『宝石色の恋 西UKO作品集』『コレクターズ 1』も注文した。素晴らしすぎた。

となりのロボット

となりのロボット

■『となりのロボット』冒頭試し読みはこちら
http://www.akitashoten.co.jp/comics/4253100554
■プロローグ版(単行本に収録されていないもの)
http://tap.akitashoten.co.jp/comics/tonarino

宝石色の恋 西UKO作品集

宝石色の恋 西UKO作品集

コレクターズ 1

コレクターズ 1


人とモノが、あくまでも人でありモノであることを互いに知り認めながら、それでも互いに自分の一番の場所である「となり」に在る/居ることを選び、信じる。
BEATLESS』好き必読という話に百回重ねて同意。冒頭から素晴らしい描写、展開の連続。
中でも締めのp130、室長の「チカちゃん君は知らない」とp132「もう私は知ってる」「ちゃんと信じられる」の流れが完璧だった。
そして、西UKO『となりのロボット』が「冒頭から素晴らしい」という話についても、少し。


p5。
女子校で人間社会への実地適応試験を行っているロボットの身体測定。級友達が自己申告で書く体重データからデジタルに平均値を割り出しハッキングして体重計に偽の情報を表示させる。
でも、

「みんな実測値を用紙に記載する時に数値を書き換えているようなのです。これでは正しく推定できません」

一人一人がただ自己判断で書き換えるのでなく、それが集団の常識として共有され、組織内でも黙認されている、という把握が難しい「社会性」がいきなり見事に描写されてる。
この時点で「あ、この漫画、ガチだ。「SF好きも楽しめる」どころじゃない、SF好き大歓喜案件だ」と思い知らされる。


p11。

「チカちゃんの"友達しゃべり"が学習機能に入るようになってから学校でのステルス性能が格段に上がった と高い評価を受けるようになりました」

機能としてより目指す没個性の達成度が上がっていく一方、プラハ/ヒロは「チカちゃん」にとっての特別な存在になっていく。


p18。
1話終わりで14歳のチカに向けたプラハの笑顔。

「忘れないでね」
「データの保護は最優先事項だから大丈夫」

その笑顔の意味が後の4話(チカは高校二年)、p57で

「だがこれを参照にプラハは自分が笑顔であれば子供が笑顔になる可能性が高いと判定した」

と科学的にも分析、解説される(ここでも「子供」という一般化した見方と、その子供=チカという個別具体的な存在との対比が示されている)。


そして4話終わりp66、再度"変わらない"(とチカには見える)ヒロちゃん/プラハの笑顔を前に、3年の時間を経たチカはより苦しく

「ヒロちゃんがわからなくても苦しい わかってくれても苦しいよ 私どうしたらいいの」

と訴える。
確かにそこには「時間」が流れている。


その上でp61、室長に「僕が思っているほど簡単じゃないかもしれない」と語らせる。
光源氏も引き合いに出しながらのこの周辺の描写、提示はそれこそSF的にとても関心を惹かれ、かつ、面白い。
そして、1話ラスト「データの保護は最優先事項だから大丈夫」は最終話に繋がり、受けとめられる。


p128。

「チカちゃん わたし持ってないチカちゃんのデータがあるの」
「それ今 もらってもいい?」

「データの保護は最優先事項」と語ったロボットが「プラハシステムを更新するたびに確保されていた不自然な作業領域」をこの相手とのこの時のために空けておいていた。
ロボットだからこその、その価値観に基づいた「好き」のかたち。互いに異なる存在で異なる価値観を持つ同士がそれでも「好き」だと繋がる。互いの隣にいる。

「それは人間の恋人だって同じだよって もう私は知ってる」
(p132『となりのロボット』本編最終ページ)。

見事な構成だと思う。



他にも、特に好きな描写を二つ紹介。


人とモノ、チカとヒロだからこその6話の目隠しと掛け替えのない最初の体験。
緊張感、駆け引き、周囲の動き……互いに何を懸けるか、何を求めるか、それが周囲からどう見えるか、干渉されるか。
ある種定番のシチュエーションをこの作品でしか在り得ない形で書いてみせた凄さ。


p53の汎用向け男性ロボット「Liberec(リベレツ)」の階段昇降とエレベーターの話。
「メタボのおっさんみたいなことになってて」とユーモアに包み軽やかな語りで、手早く相当突っ込んだ話書いてるのも凄かった。


これだけ高いレベルの「人とモノとの話」を描いた漫画はちょっと記憶にないようにも思う。
『となりのロボット』、大傑作と思う。


■関連

長谷敏司BEATLESS』読了直後の感想をややまとまりなく。
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20121011/
○『BEATLESS』のあらすじ(ネタばれ)をまとめてみた。
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20121014/
○『円環少女』13巻再読。『BEATLESS』との相関についてもいろいろと。
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20121028/
○『BEATLESS』『円環少女』『あなたのための物語』関連のやりとり。
http://d.hatena.ne.jp/skipturnreset/20121029/