エリザベス・フェラーズ『猿来たりなば』(訳・中村有希)


猿来たりなば (創元推理文庫)

各人物へ向けられる視線がどこまでも辛辣で、振り返れば実に執拗に各々の登場人物のあさましさや業もしつこく描かれているのだが、それが陰惨にならない意地悪な中にも失われない品の良さは、まさにイギリス女流ミステリならではだなぁ、と思う。
仮説が構築されてはぺしゃんこにつぶされる繰り返しの過程も、コアなミステリファンでなくとも自然に愉しくなってしまう面白さだ。

ただ、森英俊の解説が、自分でいいたかった感想を言い尽くした上に、それ以上のこともバンバン出して来ていながら、読者の邪魔や押し付けをしないあまりにも素晴らしいものなので、とてもそれ以上何か書く気になどなれない。これだけ整ったお手本のような解説は滅多にない。作品本体だけでなく、こういう文章も読めるとなると、ずいぶん得をしたような気分。なんだか嬉しくなってしまう。