川野芽生『奇病庭園』感想

川野芽生『奇病庭園』感想

まず、一読した全体の感想として。

これだけ美しさを愛し描き出せる一方で。美や醜を勝手に値踏みされたり価値を測られたり、己の美を誇れ、己の醜を厭えなどと当然のごとく求められることをこれだけ嫌悪し忌避し憤怒するとなると、色々と大変だろうなと勝手に思えたりもした。

 

この作品は(Amazonの試し読みでも読める)最初の1ページ、「序」の時点で「あ、これはすごく面白い作品だな」と非常に鮮やかに一発でわからせてくれる作品なので。
この投稿に画像添付した「序」部分読んで「面白そう」と思えたら、ぜひ読んでみることをお勧めしたい。

読み始めてすぐ「角に就いて」の「老人」と「青年」という書き方を経た上で「翼に就いて」まで読んで「こんなにも敢然と真正面から"怒り”を描く小説とは、久しぶりに出会ったかもしれない」と思えたりもした。

 

「蹄に就いて」の全編に満ちた美しさと悲哀には惹き込まれずにはいられなかった。

なお「蹄に就いて」での「鍛冶屋の親方」についての認識や扱いはたとえば終盤の「触覚に就いて」の「<本の虫>たち」、「触覚に就いてⅡ」における<本の虫>たちを束ねる「ギ」というキャラクターについてのそれとも重なると思えるもので、率直に言えばある種の人間に対して非常に傲慢な認識と扱いをしているとも思えるのだけれど、それはおそらく先に述べた"怒り"となかなかに不可分なものであり、その傲慢もまた魅力の一部ではあるのだろうとも思う。

 

「顔について」。描かれた話に対してこれはある種非常に問題のある提示かとも思えはするのだけど、ずっと以前からクリストファノ・アローリ描くユーディットが大好きで。

クリストファノ・アローリ 「ホロフェルネスの首を持つユーディット」

フィレンツェ/ピッティ宮で現物を直に観ることが出来た時はとても嬉しかった。
それもあってとても興味を惹かれ、特に面白く読んだ。

 

最後に。『奇病庭園』とはまただいぶ趣が違う作品かとは思うのだけど、読んでいる間に、ヴィリエ・ド・リラダン『残酷物語』を久しぶりに少し読み返したくなったりもした。近い内にそうしてみるかもしれない。