『アルゴ探検隊の大冒険』〜巨大な神様だの石像だのが大暴れ。それでも逆らいまくるど根性な人たちの姿もまた良し。これぞ特撮の聖典。

1963年に製作された、古き良き時代の特撮映画の聖典の一つ(らしい)。
大魔神」の如く、身長10mを軽く超える神様だの巨大石像だのが暴れまくる世界。
40年以上も前のこだわりにこだわり抜いた手作り感溢れる特撮は、妙に親しみが持てる独特の魅力がある。


中でもドでかい石像の戦士・タロスがぐりぐり動く最初の見せ場などは、少し錆びた蝶番(ちょうつがい)がきしむような音を立てつつ迫る巨人の動きと、ちょこまかと頑張る-----実はそれぞれ名のある英雄な------小さな小さな人間の皆さんの対比がたまらなくいい。

(こっち向くぞー……向いたーーっ!!振りかぶったーーっ!!落ちてくるーーっ!逃げろーーー!! 逃げたー!漕げー!行けー!! え!?陸歩いてる、陸! 先回りされたー!! 待ち構えてるーーー!!反転、反転! 間に合うか?間に合うわけねーー!!)

もう、そんな風に心で叫びながら観てしまう。というか、ちょっと声も出る……。


そして、それを見せ付けられてもなお、元気に神の意向に逆らいまくる人間たちのど根性も好きにならずにはいられない。
困ってどうしようもなく追い詰められた時だけ祈るけど、自力救済の精神はいつだって忘れない。なんだかもう、観ていて力が入る入る。またまた心で叫ぶ叫ぶ。

(海の神様がァー、頑張ってェー、大荒れの波間で崩れ落ちる岩を支えているゥー、うちにィー)「漕げー!漕げー!背骨が折れても漕げー!肺が潰れても漕げー!!行けー!気合だー!!」)

そんな彼らにとって、神様の忠告なんざ馬耳東風。まあ、古今東西、神話の世界においてはいつだって誓いや約束は破ってナンボなわけで。というか、そうしないと話が進まないし。
一方、神様は神様で、ゼウス&ヘラの最強ご夫妻からして、「まぁ、しゃーないやね。こっちは信じてもらってナンボの商売だし」と、こちらもなかなか鷹揚に構えている。
この世界観、ともかくもう、メチャクチャ好きだなぁ、チクショウ。


なお、「アルゴー号の冒険」といえば第一に連想されるのは、《王女さまは魔女》こと、メディア様のエグさ満点のエピソードの数々。
しかし、この映画ではメディア様は大変美しく登場し、ナイスな踊りをみせてくれたりはするものの、例の素敵な鍋料理や、《麗しき姉弟愛や祖国への愛……よりも大事なものがこの世界にはあるのですよ。ごめんなさい、皆さん》なエピソードは無し。
そもそも身分からして、王の娘から単なる闇の女神・ヘカテの巫女に変えられている。
《本当に素で残酷な神話世界》ファンにとっては非常に残念な脚本ではある。


ただ、メディア様の(主にその肉親の皆様が)血湧き肉踊るご活躍はイマイチでも、ギリシア神話の英雄たちの中でも、「最低上司ランキング」を開催すればアガメムノンと、「極悪非道女たらしランキング」に名を連ねる面々ではテセウスと、それぞれ堂々と渡り合えるであろう、ある意味最高の腐れ英雄・イアソン(英語読みだとジェイソン)のダメっぷりの片鱗はそこかしこに感じられるので、「そういう嫌な野郎が大好きだ(ただし映画や小説の中限定で)」という歪んだ趣味を持つ同志の方には、なかなか楽しめる映画なのではないかと。
もっとも、ヘラの助言を受けてタロスを倒したり、ヒュドラとタイマン勝負した末に完全に自力で打倒したり、コルキス名物・竜牙兵------別名ホネホネロック------相手に暴れまわったりと、決めるところは決めてしまうのがやや不満が残るところ。
仮にもイアソンたるもの、《大口を叩くほかはあくまでも他力本願》であるべきではないだろうか?「ど根性」もそれはそれでいいが、「やっぱりイアソンは超自己中のヘタレ野郎であってくれた方が愉しいのになぁ」と思ってしまう。


……というわけで、まともにまとめることをハナから放棄した感想だったが、なんだかんだいっても、これはもう、ともかくいい映画。まさしく最高。
まだ未見の人は、TSUTAYADISCASなどでも借りられるので、是非どうぞ。