川端裕人『ドードー鳥と孤独鳥』はなんというか、生物学SFの一つの理想形のような作品だと思えた。
語り手・視点人物となる望月環とその親友・佐川景那。
それぞれを絶滅した動物、ドードー鳥と孤独鳥に自らを重ね、そういう人間であると互いに理解し合った二人の人生と、
■ドードー鳥と孤独鳥を巡る科学や歴史や文学等様々なものが絡むあれこれ
■「絶滅」という現象を人間がどう捉え受け止めるべきかという課題
■自然や環境を保護するとは「何を保護する」もので「何に意義があり、何に意義はないのか(むしろ、為されるべきではないとすら言えるのか)」という問題
■最新の遺伝子研究の研究倫理
……といった動物行動学、生態系、環境保護、遺伝子改変技術、最新の研究倫理を巡る議論等々が見事に有機的に、不即不離のものとして結びついて描かれる。
とりわけ題名でもある「ドードー鳥と孤独鳥」を巡る二人の探求であり探究が完璧なまでに二人の人生と絡み合い結びついて描かれていく様はあまりにも鮮やかで魅力的だった。
この『ドードー鳥と孤独鳥』を読んですごく楽しかったとなると必然的に同著者の『ドードーをめぐる堂々めぐり――正保四年に消えた絶滅鳥を追って』も近い内に読む流れになるのだけど、必然だと思うのでそうしようと思う。
その在り方からは例えば北村薫先生の傑作『六の宮の姫君』……自身の大学での芥川龍之介と菊池寛を巡る卒業論文をミステリ小説の形に仕立て直した(それも自らのデビュー作にして誰の目にも明らかな代表作である「円紫さんと《私》」シリーズの一作品として)とも評される小説が連想されもする。
また、個人的にも『ソロモンの指輪』からドーキンスとかグールドとかのド定番いろいろ、最近だと『コード・ブレーカー』とか生物学や遺伝子組み換え技術といった方面は以前から少しだけ関心を寄せ続けてはいる分野ではあり、そういう意味でも色々と面白かった。
※終盤の遺伝子組換え技術やその研究倫理を巡るあれこれについては例えば『コード・ブレーカー』あたりを読んでおくと色々と面白いかとは思う。
なお、なにやら語弊がある言い方かもしれないけれど、『ドードー鳥と孤独鳥』は普通に人間を描く小説としても大変に面白い。
例えばAmazonの作品ページのサンプルでも読める範囲にある二人の出会いを描いた場面。このくだりを読んだ時、もうその時点でこの作品がとても好きになり、その印象は読み終えるまでずっと続きもした。
それと作中で望月環と佐川景那にとって、また作品にとって非常に重要な場所として架空の地域「百々谷(どどたに)」が描かれるのだけれど、そのモデルになっているのは三浦半島・小網代の谷(森)なのだと「謝辞」に明記されていた。
たまたまそれなりに近所(片道1時間半ほど)だったので、暑くなり過ぎない近い内に三浦半島の小網代の谷(森)にも行ってみようとも思えた。
……で、一旦読み終えてから3日後、早速行ってみたので、作品感想に添えてそちらの感想も記しておきたいと思う。
今朝から昼にかけて『ドードー鳥と孤独鳥』に登場する百々谷のモデル、三浦半島の小網代の森に行ってみた。https://t.co/UBrpPZ32Sd
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
京急三崎口駅からバスで数分、引橋バス停を降りて10分ほどでまずは森の入口に(引橋口)。 pic.twitter.com/vVFzKOWtmq
引橋口からは非常に綺麗に整備された散策用の道が伸びている。両脇に続く柵は安心安全に人を歩かせてくれるし、人もこの土地や動植物を傷つけないように守ってくれるし、「ここから歩いていく所では決して下手に用意された道を逸れて自然を傷つけたりしないように」と戒めてくれているようでもある。 pic.twitter.com/juIvgkWweu
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
散策路では随所でルート上の動植物の紹介・解説、土地や環境についての豆知識なども提示してくれている。 pic.twitter.com/5OwGIuHe0A
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
地形や動植物に目をやりつつ、時々立ち止まってしばらく眺めたり、写真を撮ったりしつつ歩いていく。
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
ひっきりなしに鳥の鳴き声が聞こえ、時折道の脇の茂みでカサカサとかバサッと何かが動いている音もしたりする。 pic.twitter.com/F3adCSbcAU
しばらく歩いていくと、地形が森から湿地へと変わっていく。 pic.twitter.com/UsgDh7ZVsr
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
「やなぎテラス」まで来ると道が分岐。
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
とりあえず、通り抜けできない行き止まりまで続くという高台へ。
数分階段を登っていくと、ロープで阻まれている場所まで辿り着く。おそらくここが行き止まりかと思われたので、引き返す。 pic.twitter.com/pytWVxlwo0
「やなぎテラス」まで戻り、湿原の中を「えのきテラス」へ歩いていく。例によって掲示されている動植物の案内に『ドードー鳥と孤独鳥』で何度か印象的に言及される「サラサヤンマ」の情報もある。歩いていると頻繁に青い「オオシオカラトンボ」が飛んでくる。 pic.twitter.com/uJwSGJ7rdD
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
オオシオカラトンボらしき虫はなかなかに人に慣れているというか、散策しているとだいぶ近くまで飛んできたり、道に降りてじっとしていたりする。 pic.twitter.com/gsh6L71yiz
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
時折サラサヤンマらしき虫も飛んでいたけど、携帯のカメラを向けている内にどこかへ行ってしまうことが何度かあって。
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
カメラで撮ることにあまりこだわらず、目で見て記憶の中に留めておくことにした。
「えのきテラス」に着くと、6,7人くらいの集団がお昼を食べていた。そこにバサッ!と大きな音を立てて鳶が飛び込んできて、あっという間になにやら奪って飛び去っていった。実に鮮やかなお手並み。住んでいる鎌倉などでも時折見る光景ではあるけど、より豊かな自然の中で見るとなんだか一層趣がある。 pic.twitter.com/SpBUrIUMYs
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
ちなみにトンビはしょっちゅう鳴き声をあげつつ悠々と空を旋回していたり、時折前方数m、高さ1、2m程度のすぐ手が届きそうなところでじっとこちらを見ていて、こちらもじっと見返すと「ふん……」という感じで飛び去ったりと、だいぶ我が物顔にこの土地で生を満喫しているようだった。
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
「えのきテラス」から小網代湾方面に歩き、干潟に降りていく。
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
ここの名物はカニたちなのだという。今は居るかな?と降りていって見てみると、居るどころの話ではなく、一面にそれはもうウジャウジャと蠢いていた。 pic.twitter.com/hXZlxtuHfF
干潟のそこら中に小さいな穴があり、その穴は蟹の住処であって、バタバタとせわしなく小さな蟹たちが出たり入ったりしていた。より湾に近づいていくとより大きな穴もポコポコと開いているなー、と思ったら途中、だいぶ大きな蟹の死体を発見。なるほど、こういうサイズのやつの穴もあるんだな、と納得。 pic.twitter.com/tsSNqIYoLM
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
再び「えのきテラス」まで戻り、今度は「北尾根入口」方面へ。少し歩くと「眺望テラス」に着いたのでしばらくとどまって風景を眺めていったりもした。 pic.twitter.com/nf8rHwvE8K
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
小網代では干潟だけでなく、森の中(のアシ原や壁の穴)にも蟹たちがいるよ、と案内も。それらしき穴も開いているな……と眺めつつ、歩いていく。 pic.twitter.com/zNaN027u9l
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
途中、樹の上でやたら堂々と姿を晒して鳴き声を上げている鳥がいるな、サービス精神豊かだな……と思ったりもしたけど、眺めている内に飛び去ってしまい、写真は撮れなかった。 pic.twitter.com/cSEzTwwhfO
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
道なりに歩いていくと再び小網代湾に出た。
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
すぐ脇に神社があり七福神の一、寿老人を祀る「白髭神社」というらしい。 pic.twitter.com/5WMRNptyxd
せっかくなので「白髭神社」にも立ち寄っていく。その後は来た道を戻り引橋口へ。
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
引橋口近くの「小網代の森ひげ爺の栖」で昼食を食べた後、https://t.co/tz6X7Kjj4F
京急三崎口駅まで戻って帰路についた。 pic.twitter.com/Y1wnNrFDrN
昼食は「小網代の森ひげ爺の栖」で三崎鮪山かけ丼。
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日
今日は朝から『ドードー鳥と孤独鳥』に登場する百々谷のモデル、三浦半島の小網代の森に行っていて。
引橋口から入って森や湿地を一通り歩き回り、また戻ってきた所で引橋口最寄りのここで食事して、帰宅した。 pic.twitter.com/PWcdpUahmw
「小網代の森ひげ爺の栖」は古民家を改造したというやたらと雰囲気の良い店で、小網代の森を家族で観光に来たらしい一家の小学校高学年くらいの子どもが「全室を探検する!」とはりきって歩き回ったりしていた。 pic.twitter.com/Sty1pgdjVd
— 相楽 (@sagara1) 2024年6月9日