紺野キタ『ひみつの階段』〜《型》を使った表現、《漫画》だからこその表現を考えながら


2/5に『知る辺の道』で初めて読み、気になっていた作家・紺野キタの『ひみつの階段』(全二巻)、『あかりをください』を読む。


ひみつの階段』が、とにかく上手い。設定や物語は、定番の《型》------女子だけの寄宿舎での中学生活。時々、時を越えて過去や未来の同じ場所と繋がってしまう階段や部屋。寄宿舎そのものが人の形をとった存在の登場-----そのもの。しかし、だからこそ、それをここまで魅力的に仕上げる手腕が際立つ。『知る辺の道』でも、従来の《型》に一味加えてみせた表題作だけではなく、他の定番のお話を描く手つきの見事さに惹かれた。作家として、信頼できる力を持った人だと思う。


また、ただ技術だけでなく、当たり前すぎるほど当たり前のことながら、まず描きたい、描くべきものがあり、それをより良く表現する手段として《型》やガジェットが使われているのがいい。『小公女』、『赤毛のアン』、エーリッヒ・ケストナー(『飛ぶ教室』の作家)------そして、『星の王子様』。プリマヴェーラ------ボッティチエリの《春》------に、ロレンツォ・ディ・メディチ。『シャイニング』のビデオジャケットで笑うジャック・ニコルソン。どうみたって、《お約束》などという以上に、本当に好きだからこそ出てきている。
そうした、ともすればただ溢れるだけになりがちな想いが、丁寧に丁寧に《型》に収められて出されることによって、より普遍的な力を得ているのが読んでいて嬉しい。最低でも一度読み返すべき本で、読み返すと、一度目よりもなお楽しいことは保証できる作品。


ただ、欲を言えば、台詞に頼りすぎ、言葉で説明しすぎている感があるかもしれない。
高野文子はたとえば『棒がいっぽん』『黄色い本』などに明らか(勿論、それに限らないけれど)なように、信じられないほど凝った天才的な構図を用い、わかつきめぐみは代表作『So What?』が典型だが、いきいきとした台詞と、それ以上に雄弁に語る余白を武器にする。それほど反則的に強力ではなくとも、おがきちかLandreaall』は、登場人物の思いや、物語を代表する言葉の意味を、優れた筋の構成で浮き彫りにしてくる(『Landreaall』を読むのならば、少なくとも3巻が終わるまでは読み進めて欲しいと思う)。
そうした、《小説》ではなく《漫画》だからこその表現、その作家を象徴するような得意技が加わると、この人の作品は、更に人を打つものになるだろうと思う。そして、これだけの力を既に持ち、自分に合った世界をはっきりと見定めている人なら、いずれそれを実現すると思う。『知る辺の道』表題作での少し《型》からずらされたアイディアは、その第一歩なのかもしれない。これから、紺野キタという作家はどんな作品を生み出していくんだろう。楽しみでもあり、羨ましくもなってしまう。

棒がいっぽん (Mag comics) 黄色い本 (KCデラックス アフタヌーン) Landreaall 1 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)