2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧
いろいろな評判からちょっと読む前から色眼鏡で見ていたのは申し訳なく思わされてしまった。 一言でいえば、まっとうに良く出来た作品。筋も描線も構図も台詞も、どれも高いレベルだと思う。 「ラプラスの魔」の設定と台詞なんて、個人的な趣味志向の上でも…
読むうちに、どうしてもSF漫画の金字塔『銀の三角』を思い出さずにはいられなかった。 ただ、説明をあえて排除し、詩情溢れる言葉と煌びやかな画で感覚と観念の一大迷宮を築いたのが『銀の三角』。 一方、『バルバラ異界』では、同様のテーマについて、多…
なお、上記の感想で「作者・編集者の」としたのは、『オモチャたちの午後』を読んで、上記の欠点を諫めないようであれば編集者としてどうかと思うし、実際、同じような指摘をしただろうと思うからだ。 この作品の掲載誌『ヤングユー』は2005年に休刊になって…
読む中で嫌でも気付かずにはいられないのは、主役二人の《仕事》が、具体的にはほぼ全く描かれないこと。 放送作家の台本が、主人公・友希が書くようになる芸能コラムがそれぞれどういったものか(特に前者)、読者にはろくに見えてこない。はっきりいえば、「…
小川一水『老ヴォールの惑星』、萩尾望都『バルバラ異界』(全四巻)、谷地恵美子『オモチャたちの午後』(文庫版全四巻)読了。 ついでに、たまに漫画喫茶などで読んでいたPEACH-PIT 『ローゼンメイデン』も6巻まで読了。以下、書くのに手間取りそうな『老ヴ…
《それでも》を志向しなくても、認めざるを得ない力を持つ作品と作家たち ここまで、「《だから》に留まり、《それでも》を志向しない作品は人の心を打たない」という原則を延々と書いてきたが、勿論、なんにでも例外というものはある。 例えば、舞城王太郎…
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の発展進化版 端的にいって、この作品は2/8に読んだ『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と非常に似通ったものだが、小説としても、ミステリとしても、こちらの方が遥かに整っていると思う。 つまり、この作品でも、作中のトリ…
敬意と熱意を持って、希代の天才の情熱とこだわり、その周囲を彩った人々との関わりを描いた傑作。 どんなに詳しく感想や評を並べることよりも、まだまだ未見のものが多い、フレッド・アステアの映像や歌により多く触れていくことが、何よりこの作者とアステ…
大脱線になるが、この開会式を見ていると、ごく自然に、中学高校大学と夢中になって読んだ大作家の、ここ数年のあまりにひどい崩れ方を連想せずにはいられなかった。「「イタリア人よ立ち上がれ!」といわれて立ち上がったはいいが、「立ち上がり方がおかし…
……で、まっとうな政治的センスのあるオトナならその程度のことはちゃんと分かっていて、そういう意味ではイタリアは(英国には遠く及ばないものの)伝統的に世界有数のオトナな国だ。一時期、いろいろあってちょっとオカシクなった末に、「古代ローマの復活…
現在の政治情勢下において「ヨーロッパで」五輪を行うとなれば、その政治的なメッセージというのはつまるところ「アメリカさん、ちょっといい加減にしてくれませんかね」に尽きる。 詳しく言えば、「戦争だの紛争だのが絶えないのはイスラム云々より、あんた…
今更ながら、トリノ五輪開会式の感想を書いてみる(色々と忙しく、今日になって、ようやく録画で観たので……)。 ……あぁ、イタ公は芸術やらせるとやっぱり凄い。一方で「今度はイタリア抜きでやろうぜ」という有名なジョークがあるが、正にその良い反面という…
……ちなみに、私が最も愛する作家・北村薫の作品世界は、正に受け継ぎ、広げていける形で、《そうして《大きなもの》を前にした《個人》がどのようにそれに挑み、何を為すことができるのか》を示してくれるものでもあると思う。大体、歌舞伎を観るようになっ…
玉三郎の舞踊はこの演目に限らず、その世界にとことん引き込まれるか、位相が合わず、ずれたままで釈然とせず終わってしまうか、両極端に分かれがちだと思う。例えば、私であれば『京鹿子二人娘道成寺』『藤娘』が前者の、『船弁慶』が後者の代表例だ。 ……な…
歌舞伎座でほぼ丸一日を過ごす。 昼:一階四列十*番。夜:一階五列*番(花道内側)。十一時から二十一時までぶっつづけで観劇。 ……先月十五日の昼夜に続いて、正直言って、金銭的にも、時間的にも、体力的にも、分不相応に文字通り身を削って観に行っている…
亀戸・蕎麦『東庵』そばきり寄席に行く。 江戸賀あい子というミュージシャンの方の演奏を挟んで、柳家三太楼二席。『初天神』と『紺屋高尾』。 終演後、蕎麦を頂く打ち上げの席で、三太楼師匠にいろいろとお話を伺う機会を得る。 ……プロの、しかも相当好きな…
今日あった北村薫サイン会は、丁度時間が合わず、予約を見合わせたので行けなかった。 しかも、見合わせた事情のほうは立ち消えになって、それが事前に分かっていれば十分行けた。なんてことだ……。 ふてくされながら、サッカーの「日本 VS アメリカ」のテス…
2/5に『知る辺の道』で初めて読み、気になっていた作家・紺野キタの『ひみつの階段』(全二巻)、『あかりをください』を読む。 『ひみつの階段』が、とにかく上手い。設定や物語は、定番の《型》------女子だけの寄宿舎での中学生活。時々、時を越えて過去…
昨日読んで、感想をまとめた『明日の王様』と同時に届いていた、谷地恵美子『サバス・カフェ』(朝日ソノラマ文庫版。全四巻)読了。少し、樹なつみ『パッション・パレード』を思い起こさせる。両方共、いい作品だと思う。 ……『サバス・カフェ』はちょっと、…
昨日から読み進めていた、山田風太郎『戦中派復興日記』読了。 ……書きたいことが多すぎるが、まずは『動乱日記』についてを先にまとめないと。 後でここに書き足すか、遅くても明日中にはなんとか…。
……これについても書くとなると、まだ終わらない『戦中派動乱日記』の感想と合わさって、いつになれば離れられるのかわからない。ただ、どうしてもそれはやっておきたい。 《今》という時に「分かったこと」や「うまく想像できたこと」を何とか残したいという…
野田秀樹〜動きの演出への感嘆と、演じられるテーマの底の浅さ まず、野田秀樹。国立劇場でのオペラ『マクベス』、歌舞伎座での『野田版・研辰の討たれ』を観て、《なんて動きの演出の上手さだろう!(特に後者)》という感想と、それ以上に強く、《世界を一…
「はじめは、話題のサルでもいいです。 でも このサルは 脚本を書くサルです。」 数日前、なんとは無しに買った一巻が面白かったので、残りを買った。 今日、それが届き、続きを読むうち、次第に引き込まれた。そして------四巻の半ばのこの台詞で、完全に参…
……幼い頃、ホームズに余り親しまなかった私には、この作品の面白さは本当に十分には感じることが出来ていないのに違いない。しかし、そんな不届き者にさえ、ホームズがバイオリンを弾く場面に込められたものは、芯まで打ち通すように響くように思わずにはい…
谷地恵美子『明日の王様』(2)〜(6)(完結)読了。少し後で感想詳細。 故J・H・ワトスン博士著/ニコラス・メイヤー編『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』(田中融二/訳についても一応感想をまとめる。 山田風太郎『戦中派復興日記』を半分ほど読み進…
あと、秋山瑞人を引き合いに出したので、ついでなのでその傑作『猫の地球儀』について少し。 あの作品って、つまりは「大審問官」だろう? そして、《原罪》、《神の正義の大きさと人の子の思いの小ささ》といった、キリスト教世界に骨の髄まで染み込んでい…
とにもかくにも、「砂糖菓子の弾丸」という比喩に集約された力が、忘れられない印象を残す。ただ、その象徴的な印象だけ残って、後は綺麗さっぱり消えてしまう気もするし、それでいい作品だとも思う。また、手垢がついた初歩の初歩であるトリックや概念の数…
『戦中派虫けら日記(滅失への青春)』(昭和十七年〜十九年)と重なり、昭和二十年一月一日から始まる、あの『戦中派不戦日記』への橋渡しになる書簡集。 十七歳〜二十三歳の、続く《日記》とは随分違う荒削りの生き生きした書きっぷりには嬉しくなる。はっ…
有本倶子・編『山田風太郎疾風迅雷書簡集―昭和14年〜昭和20年』読了。 桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』読了。 以下、上記二作についての簡単な感想。 加えて、その感想の流れから、秋山瑞人の傑作『猫の地球儀』について少し。 また、冬目景「もも…
以前の日記についてと同様、日付を追っての点描を試みる。 昭和24年1月4日。徳富蘇峰『近世日本国民史』の感想二つ。「一、家康、秀吉、若き日より後年の大をおもんばかりて自愛自重これ努めたるが如き形跡なし。信長のため、即ち他人のため(特に家康の場合…